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42話『夜空の羽衣』

目の前でゼエゼエと息を吐くランが私を睨みつける。

「ラン、こんなことやめよう……。」

「うるさい!」

ランは再び鞭を私に向かって振ってきた。

しかし、いくら鞭を振ってもランの攻撃は私には通らない。

無知の強烈な一撃は泡の守りに弾かれた。

「何度やってもその鞭には打撃に強いこのバブルドームを破壊するほどの火力はないよ。」

私の返答にランは悔しそうな表情を浮かべる。

「なあ、鈴原の説得はできそうか?」

足元でようやく立膝をついているタツヤが尋ねてくる。

正直今のランに声が届くと思えない。

完全に疲弊するまでしゃべる気にもならないだろう。

突然、真横から黒い尖ったものがドームに向かってぶつかってきた。

黒い尖ったものは渦を巻いてドームの壁に穴を開けようとしていた。

カエデの方を見ると、蝶の周囲を囲っていた黒い竜巻の一つが私のドームに穴を開けようとしていた。

「カエデ、そっちは大丈夫なの!?」

「めっちゃ押されてる!この竜巻が燃やせない!」

カエデは剣の炎を最大にしながら、不規則に向かってくる黒い渦の先端を受け止めていなしている。

サイアも向かってくる蟻を切り倒しながら黒い渦のドリルを素早い身のこなしで交わしていく。

「ヨケルダケデセイイッパイトハ……キタイハズレダナ。」

蝶は上空で翅を羽ばたかせながらため息まじりに落胆の言葉を述べる。

さっき魔王軍幹部と名乗った蝶、フォロム・クロウフライの能力はさっきから繭の中に現れた複数の黒い竜巻だ。

戦いが始まってすぐにフォロムは上空に飛び、翅を振るうと周囲に黒い鱗粉を振り撒いた。

そして再び羽ばたいた瞬間に竜巻が鱗粉を巻き込みながら現れた。

そしてカエデたちはこの不規則に飛んでくる鱗粉の含まれた竜巻の攻撃をいなすのに精一杯だった。

「ラン、ソノマホウツカイハワタシノニガテナミズマホウヲツカウ。ソノママボウセンイッポウニサセレバコッチニコウゲキハコナイカラタノムゾ!」

フォロムはそう言いながら翅を羽ばたかせると、竜巻は先端をドリルのように変形させて、弧を描きながらカエデに向かって動く。

「放たれろ!」

カエデが追ってくる竜巻から走って逃げながらフォロムに向かって炎の刃を打ち出す。

フォロムの周囲を回っていた竜巻の1つが刃の前に立ちはだかり、刃を弾いた。

「何あの竜巻!黒い粉で全く燃えない!」

「ワタシノリンプンハホノオをウケツケナイタメノリンプンダ。ソレガタツマキニノッテイルダケノコト!」

フォロムは自分が有利なことに調子に乗っているのか、空中で踊るように翅を動かす。

サイアはカエデに突撃しようとするトンボたちに氷のナイフを投げて援護する方に集中していて、フォロムと戦っているのはカエデだけという状態だ。

「さっきから白石とワイバーンが助けてくれる気配ないし、数の差的に押し切れなくないかこれ?」

タツヤがため息をつきながら、ドーム内を見回していた。

途端に、ドスンと繭の外から軽めの地響きが聞こえた。

カエデが入る時に開いた穴を見ると、ピクピクと痙攣する蜘蛛の上で全身を糸でぐるぐる巻きにされて動かない蜂と白目を剥いて仰向けにぐったりしているショウの姿があった。

「ショウ!?」

タツヤがぶっ倒れたショウを見て驚いた声をあげる。

「リョウシャイキハアル……。」

フォロムは一瞬だけ仲間2匹を見た後、カエデに向かって再び竜巻の攻撃を飛ばす。

カエデは竜巻を交わしたり防いだりして立ち回っているが、ぐったりしているショウを見て気が気でないらしい。

しかし、それ以上に動揺が表れている人もいた。

「ミカンくん……。」

ランが蜂を見て泣きそうな顔を浮かべていた。

おそらく、脚と翅がなくなったオレンジ色の蜂がミカンなのだろう。

「よくもミカンくんを……。」

涙を浮かべながらランがワタシを見る。

「アンソルジャー!」

ランが叫んだ瞬間、周囲の蟻たちがバリアに向かって突っ込んでくる。

蟻の噛みつきでもバリアが壊れる気配はないが、蟻たちは噛み付くことよりも重なりつつある蟻の山が積み上げられていく。

「塵も積もれば山となるっていうよね。」

ランは学生時代に聞いたことのない冷たい声で呟く。

続々と蟻が積み重なっていき、泡のドームがグニャリと曲がる。

「まずい!」

「ドームごと潰れろ!」

ランの操る蟻たちによる物量攻撃が上から迫ってくる。

「タツヤ、なんとかならない!?」

「今の俺にできるのはナイフを投げることだけだ。そしてお前にできるのは魔法でどうにかすることだ?」

私はその言葉を聞いて、一枚の紙をタツヤに手渡した。

タツヤはすぐさまナイフに渡した紙を巻きつける。

「準備はできた!頼む!」

私は覚悟を決めて地面に紙を一枚置くと、バブルドームを解除した。

「やった!崩れた!」

ランの嬉しそうな声が聞こえる中、タツヤが最後の力を振り絞ってナイフを投げる。

ナイフは周囲を囲んでいた蟻の間を縫うように通り抜けていったのを確認して、地面の魔法陣にタツヤと一緒に突っ込む。

「『転移書簡』」

光出した魔法陣に入り込むと、フォロムの背中の翅が見えた。

天井にぶら下がった糸を掴んで糸の塊に足をつける。

「フォロム様、水魔法使いは倒し・・・。」

蟻の山が崩れたのを見て、私が力尽きたと思ったらしいランが笑顔でフォロムの方を向いたが、すぐさま笑みが消え驚きの表情が浮かび上がる。

フォロムの真上にさっき倒したはずの敵がいるのだから、驚くのも無理はないだろう。

「作戦成功ってとこだな!」

タツヤがガッツポーズをしながら笑う。

ナイフに巻きつけていた紙は地面の転移魔法の出口になる魔法陣を書いておいた。

そしてナイフの投げられた場所にテレポートできた。

「マズイ、ジユウニウゴカレル!」

真上の私たちに気づいたフォロムが竜巻を私たちに向けて飛ばしてくる。

「スプラッシュマグナム!」

すぐさま私も水球を作って破裂させる。

竜巻に水がかかった瞬間、黒い竜巻は透明になり、強風だけが私たちに襲いかかった。

糸の塊が揺れて、バランスが崩れそうになる。

「シマッタ……。」

フォロムから焦りの声が聞こえる。

おそらく、鱗粉は水を被るとダメになるのだろう。

「そうとわかれば、スプラッシュマグナム!」

私は一呼吸おいて詠唱する。

水球を今までに無いくらいの大きさまで膨らます。

丁度フォロムと同じくらいの大きさに水球は出来上がった。

「マズイ、ニゲ……。」

フォロムの翅にタツヤが放り投げた白いダガーが刺さる。

「動きは止めた!決めろユリ!」

「うるさい!」

耳元で叫ぶタツヤの額に裏拳しながら水球を放つ。

水球はフォロムの翅に触れて破裂した。

フォロムの身体中に水が降りかかり、黒い翅は美しい青紫色に輝く翅へと変わっていった。

ダガーが外れ、フォロムは繭の床に勢いよく叩きつけられた。

「ココマデナノカ……。」

起きあがろうとするフォロムにカエデが近づく。

「これで止め……。」

「やめてええええ!!」

剣を構えたカエデの横から、ランが緑のギザギザした剣を振り下ろす。

すぐさまカエデが剣を振りあげると、ランの剣はあっさり焼き切れて繭に刺さる。

ランは剣を手放してカエデの剣を掴むと、左手に持った鞭で自分の腕ごと剣を絡める。

「鈴原さん、私はあなたを斬りたくない。外して。」

「やめて!」

ランは剣の刃をしっかり握って鞭をきつくしめる。

「ちょっと行ってくる。」

私はタツヤを置いて繭の床へと飛び降りる。

走り寄ってきたサイアが受け止めて無事着地出来た。

息をお整えながら2人の元へ歩み寄る。

「ユリちゃん……。」

「ラン、あなたたちは負けた。」

私の開口一番言ったことに、ランの目から涙がボロボロと溢れる。

「けど、まだその虫は殺さない。」

「え!?けどこいつは幹部じゃ……。」

「だから殺しはしないけど捕える。」

困惑するカエデに返答する。

「私たちが頼まれたのは『殲滅』じゃなくて『占領』だから、依頼はこれで問題なはず。そうだよね?」

私は大声で繭の天井に向かって話しかける。

クロロンが繭の穴から入り込んで咥えていた白石を放り出す。

「聞こえていたし、その考えでOKだよ。」

顔色の悪い白石はサイアに渡された氷を足に当てながら返答する。

「ランは鞭を外して。カエデもそこの蝶が何かしようとした時以外は剣を収めて。」

2人は気まずそうな表情で首を縦に振ると、鞭が外れてカエデも剣を鞘に収める。

私は水晶玉を取り出すと、天川の顔が浮かび上がった。

『連絡ってことは勝ったのか?』

「終わった。それと今から話し合いを行うから王をさっき渡した紙からこっちに連れてきて。」

頼みだけ言って水晶を戻すと、私はカバンから魔法陣を取り出して床に敷いた。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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