41話『槍蜂』
蜂と共に繭の外に出されると、繭の上へ投げ出された。
繭の上から立ち上がると、真横を針が通り過ぎる。
「あっぶな!」
慌てて横っ飛びで距離を取ると、蜂の針が腹部へと戻っていった。
「大丈夫!?」
白石が周囲の蟻たちを鞭で叩き潰しながら話しかけてくる。
蜂の頭部が白石へと向く。
「避けろ白石!」
「え、なんて……。」
白石がこっちを向いた瞬間、蜂の針が伸びていく。
クロロンが白石を咥えて針から逃す。
針は一瞬まっすぐ伸びたあとすぐに曲がって白石の足に突き刺さった。
「痛い!」
急いで白石に刺さってる針に向かってカバンに無理やりくっつけていたダイキの槍を半分にして1本を投げつける。
さらに深く刺さりそうな針は足から抜けると複雑な軌道をなぞりながら槍を避ける。
「なんだよその触手みたいな針……。」
「ヨケナカッタラカクジツ二ショクシュニササルキドウデナゲタヤツガヨクイウ。」
蜂は睨みつけながら針のついた触手をスルスルと伸ばす。
針はミツバチみたいなギザギザのかえしがついている針ではなく、ツルツルした完璧な円錐の針だ。
サイズも相まって、騎士の使うランスと言っても過言じゃない。
クロロンの足元にいる白石を見ると、足の怪我はポーションをかけて治療している。
ポーションを持った手は軽く震えていて、動きが鈍い。
「お前の針、毒でもあるのか?」
「シリタケレバササレルコトダナ。」
俺も蜂の眼を睨みつけながら雷竜の槍を構える。
クロロンが繭の中に炎を履き始めたのを合図に蜂の針が素早く伸びてくる。
すぐさま槍を振り回して針を弾いた。
針は弾かれてもすぐに複雑な軌道で頭上から迫ってくる。
「めんどくさいなその針付き触手!」
「スキダラケダナ。」
目の前を見ると蜂の顔が目と鼻の先まで迫っていた。
針に目を向けすぎて、低空飛行で近づいていることに気づけなかった。
蜂の顎が左右に開かれ、ギザギザの牙が俺の首元に迫る。
すんでのところでのけ反ると、蜂の顎がガキンと虫から聞こえてはいけなさそうな音を立てながら閉じる。
「全く近づけねえ!」
俺は少し距離をとって槍を構え直して再び距離を詰める。
槍を蜂の胸目掛けて突きつけるが、上から降ってきた針が槍を弾く。
「オマエモタイガイドキョウアルナ!」
蜂は呆れた声色で吐き捨てながら距離をとって針を伸ばしてくる。
頭を下げて針を交わして、左手で触手を掴む。
「これでお前は顎以外の攻撃手段がなくな……。」
「コレダケデコウゲキシュダンガナイトオモウカ!」
蜂が叫ぶと、触手が蜂の腹からさらに伸び始めた。
嫌な予感を感じて針を手放そうと思った時にはもう遅く、伸びた触手は俺の体全体に絡みついた。
「マジかよ!」
槍を持った右腕を振り回して触手を解こうとするが、解ける気配は一切ない。
触手が蜂の腹に戻り始めて、俺と蜂の距離が徐々に近づく。
右腕がまだ自由に動くのが幸いなのだろう。
再び蜂が顎を開き、俺に近づいてくる。
「バンジキュウストイッタトコロカ?」
蜂は俺を嘲笑うかのような声色で喋りかけてくる。
「少なくとも蜂に負けるつもりは毛頭ないぜ?」
「ヨクシャベルナ!」
触手の力がより強くなって、身体中がより一層締め付けられる。
視界が徐々にぼやけて暗くなっていく。
「カミクダクマデモナイ、シネ!」
蜂がトドメを刺そうとする勢いで触手の力を強める。
さらに視界がぼやけてくる。
目を閉じて、全身の力を右腕に集中させる。
「ドウシタ?マダホネノヒトツモオッテナイゾ?モウクタバッタカ?」
真っ暗に近いぼやけた視界で、首を傾けて不思議そうに見つめている蜂の顔を見る。
右手の中で槍をバレないようにゆっくり動かして、息をできる限り吸い込む。
「放たれろ!」
できる限り吸い込んだ息を全て使って声を張る。
右手の中の槍の穂が蜂の胸の中で破裂した。
蜂の胸の中から黄色い閃光が周囲を包み込み、轟音が翡翠の森全体に響き渡った。
視界が真っ白で何も見えず、耳の中にキーンと音が鳴り響いて、周囲の状況が一切分からなかった。
それでも身体の苦痛と、縛られている感覚がなくなった感触から、1つ確信していることはあった。
「勝ったぞ……。」
俺は洗い呼吸で一言呟いた。
超至近距離で俺の神器を受けた以上、あの蜂も俺以上にダメージを負っているはずだ。
徐々に体の感覚が戻ってくる。
目はまだ開けないが、体を起こすことくらいは出来た。
「オメ……ザメカ……?」
体を起こしたところで、耳元で1番聞きたくなかった声が聞こえてきた。
目はまだ開けないが、横にあの蜂が居るところだけは分かる。
「マジかよ……。お前……あの状況から生き残ったのか……。」
「シヌキデ……ヨケタガ、ハネトアシロッポンハ……ゼンブフキトンデ……キョウブカラハ……カルクナイゾウガ……ミエルジョウタイダ……。」
今にも死にそうな蜂の声を聞いて頭の中で状態を想像する。
俺は手探りで槍の石突に触れて急いで掴んで手繰り寄せる。
「ドウシタ……ソンナニアワテテ……。」
蜂が笑い声に近い声で話しかけてくるが、それどころじゃない。
もし蜂の言うことが本当なら、蜂の羽と脚を失い内臓が出ているから動けない状態なのは確かだろう。
問題なのは、『蜂が喋ってない箇所』だ。
「お前の怪我は、それだけなんだろ?」
俺の質問に、蜂は何も答えない。
俺は全身の力を振り絞って立ち上がり、勢いよく槍を振り回す。
槍に鉄か何かがぶつかる感触と音が伝わってくる。
俺の徐々に戻っていく視界が、繭の上で横たわる蜂を映した。
「ほんと信じられねえよ、あの状況で目と針が無事だったことに!」
俺は頭上からチャンスを伺っている針の付いた触手を睨みつけながら叫ぶ。
「アトスコシダッタノニ……ショットスパイダー!アンソルジャー!」
蜂が叫ぶと、繭にあいた穴から蟻たちが何十匹も這い出てくる。
飛びかかってくる蟻を次々と槍で叩き潰ぶす。
蟻だけなら難なく蹴散らせるが、隙を見ては頭上から突き刺そうとしてくる針が鬱陶しい。
蜂を見ると、さっき鈴原にヨウナシと呼ばれていた狙撃してきていた蜘蛛が、蜂の胸部に必死で糸を巻いていた。
軽く胸部分から見えた内臓が厳重に分厚く巻かれた糸で巻かれて胸部に戻ったようだ。
「タスカッタ、コレデマダタタカエル。」
蜂は繭に針を突き刺して起き上がった。
「エンゴハオマカセクダサイ。」
ショットスパイダーは手早く右脚2本に糸を張って、左脚で枝を構える。
「オマエハランヲタスケロ!」
蜂は蜘蛛に命令すると、触手で器用に体を動かして俺に向かってきた。
槍を突き出すと、顎で白刃どりしてきた。
「マジで!?」
俺が青ざめながら槍を振り回していると、足に激痛が走る。
足には枝が突き刺さっていた。
蜂の背後で、蜘蛛が枝を脚3本で弓の要領で次の枝を番える。
「しつこいな!」
俺はカバンにしまってあった半分になった槍を投げる。
槍は蜘蛛の脚の付け根に刺さり、蜘蛛はその場でのたうち回り始めた。
「ヨソミシテンジャネエ!」
蜂が叫ぶと腕にチクリと痛みを感じると同時に、身体中から力が抜ける。
腕には鉛筆のような尖ったもので引っ掻いた後のようなミミズ線が出来ていた。
蜂の腹部を見ると、針には血が垂れていた。
「モウウゴケマイ、サイゴニイイノコスコトハアルカ?」
蜂は俺を睨みつけながら針を伸ばしてくる。
俺は一息吐いて、睨みつける。
そして蜂の背後を見て、笑みを浮かべた。
「この勝負、引き分けにしよう。」
俺が言い終わると同時に、俺と蜂が黒い影が差し込む。
蜂が後ろを振り向こうとした瞬間、背後にいたクロロンが俺と蜂に横から尻尾を叩き込んだ。
「キサマアアアアア!!!」
蜂が凄まじい眼力で睨みつけながら、俺と一緒に近くの木へ共に吹っ飛ばされる。
「マッテコッチニトンデコナイデ!」
木に糸を巻きつけて、降下していた蜘蛛の腹部に衝突した。
それなりの高さから蜘蛛をクッションにして落下の衝撃を軽減した。
繭の中がどうなっているかを知る前に、俺の視界は暗転した。
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