第88話 セシリアの企み
「お母さま、お父さま。こちらオルレア騎士団長のレオン様。私の恋人なの」
セシリアがレオンを両親に紹介すると、彼らは色めき立った。
「まさか!本当なの?セシリア」
「ええ。本当よ。お母さま」
「でも、騎士団長様はあの女の娘と……」
「あれは単なる噂よ。この通り、レオン様は私に夢中だもの。私たち、結婚するのよ」
そう話すと、セシリアの母は喜色満面の笑みを浮かべた。
「素晴らしいわ!まさかあなたが侯爵家のご子息と――っ!!世界中にあなたを自慢したい気持ちでいっぱいよ!」
父親であるアランの方も、鼻高々といったように笑う。
「さすが、僕の娘だ!侯爵家が親戚になるのなら、事業の方も上手くいくはずだ!!」
アランは魔道具を販売する新規事業を始めたのだが、それが上手くいっていなかった。現在では多額の借金を抱え、貸し倉庫には売れない魔道具の在庫が山になって放置されている。
しかし、セシリアがレオンと結婚すれば、侯爵家に金を融通してもらうなり、便宜を図ってもらうなりして、全て上手くいく――そうアランは皮算用しているらしかった。
両親の反応を見て、セシリアは満足げに微笑んだ。
やっと両親に認めてもらえた――その思いで胸がいっぱいになる。
ずっと、顔も知らない異母姉に比べられ、落ちこぼれ扱いされてきた子供時代だった。
けれども、今は違う。
私が娘であることを両親は誇りに思ってくれている。
認めてくれて、愛してくれている。
私は異母姉に勝ったのだ――!!
セシリアは得も言われぬ喜びを味わう。
そして、つい昨日のジャンヌの姿を思い出した。
ジャンヌは何か用があったのか、騎士団本部を訪れていた。ちょうどそのとき、中庭にいたセシリアは彼女の存在に気付いたのだ。
だから、セシリアは「自分にキスするよう」レオンに命じた。命じられた通り、彼は跪いてセシリアの手の甲に唇を落とす。
――あの時の、あの女の表情といったら……!!
ジャンヌはこの世の終わりのような顔をしていた。
何度思い返しても、セシリアは胸がすく思いだった。
ジャンヌの名声を貶めるため、魔法薬店の方に何か仕掛けることも考えたが、レオンを奪ってやった方がやはり効果的だったのだ。
セシリアは自分の企みが見事だったと、自画自賛する。
――ただ、欲を言えば……もっと色々と、あの女に見せつけてやりたいのだけれど……。
ちらりと、セシリアは隣にいるレオンを見る。
容姿も家柄も申し分ない男だ。しっかり洗脳が効いているおかげで、セシリアを大切に扱い、愛の言葉を囁いてくれる。
しかし、手の甲にキス以上の行為は絶対にしてこなかった。
何でも、結婚前にそういうことをするべきではない――だ、そうだ。
良家の子息らしい貞操観念が彼にはあるらしく、そこを崩すのはセシリアでも難しかった。
――私を大切にしてくれているんだろうけれど、つまらない男よね。
そう思いつつ、この男を使ってもっとジャンヌを追い詰めたい、とセシリアは考えた。
ジャンヌを絶望させたい。
自分の方が彼女より上であることを知らしめてやりたい。
長年、ジャンヌのせいで自分は両親に認められなかったのだ。こんなものじゃ、まだ足りない。
――そんな暗い思いが、後から後からセシリアの中で沸いてくる。
しかし、ここでネックになるのは『竜の仮面の魔導士』の存在だ。あの魔導士からは、「ジャンヌに手を出すな」と再三言われている。
今度約束を破ったら、何をされるか分かったものじゃない。
――こちらが直接手を出すのはダメ。でも……、向こうから来るならオーケーよね?
ジャンヌ自らこちらにやって来て、事情を知らないセシリアの配下と何かあっても、セシリア自身は知らぬ存ぜぬで突き通せるのではないか。
万が一、それで『竜の仮面の魔導士』が怒ったとしても、いまのセシリアにはレオンがいる。
いかにあの魔導士が凄腕だからと言って、王国最強と謳われるレオンには敵わないだろう。
そんなことをセシリアは考えた。
――とりあえず。どうにかして、あの女を私の所におびき寄せられないかしら。
その時、セシリアの中で妙案が浮かんだ。
――たしか、あの女。小汚い子供と仲良くしているって聞いたことがあるわ。
その子供を餌にすればジャンヌも……。
「ふふっ」
いつの間にか、セシリアの口元に酷薄な笑みが浮かんでいた。




