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「ロゼ、早く部屋にお入り。」

兄の声に顔をあげると、空はもうオレンジ色になっていた。

「お前は体が弱いのだから、こんな時間に外にいてはいけないよ」

何度となく聞いたお小言に、少し頬を膨らませてみせる。

「分かっているわ、お兄様。刺繍をしていたら少し夢中になってしまったの。」

はいはい、と言って、兄は私の肩にケープをかける。


兄の言う通り私は体が弱い。月に3度は風邪をひくし、そうでない時も咳がよく出る。たまにある体調のいい日は外に出ないと、体がどんどん弱っていってしまう気がして、今日のように外で過ごしているのだ。


「今日は夕飯を一緒に食べよう、大事な話があるんだ。」

いつも忙しい兄から、滅多にないお誘い。

「どんな大事な話があるの?」

緊張が声に出てしまった。私の固い声に、兄は困ったような笑顔を浮かべる。

「食べながら話そう。」

「分かったわ。食堂でお会いしましょう、お兄様。」


部屋に戻ると、使用人のアイビーがすぐに部屋に来た。

「お嬢様、本日の夕餉は食堂へ向かうようにとのことです。」

「えぇ、アイビー。ヘアセットとドレスの準備をお願いね。」


私の話をしましょう。

名前はロゼ。今年15歳になる。

私は今住んでいる荘園の持ち主である、"都のお偉い様"と、その愛人の娘、らしい。

らしい、と言うのは、その"お父様"にお会いしたことがなく、事実かどうか判別がつかないということ。お母様は、私を産んだ時にお亡くなりになってしまったので、こちらもお会いしたことがない。

だから私にとって家族と呼べる人は兄しかいない。

今は淑女教育を受けながら、兄と平和に暮らしている。


その兄は、父からこの屋敷と荘園の管理を任されているので、とてもお忙しいのだ。

屋敷の者たちから若旦那と呼ばれ慕われている。

いつもは1人自室で頂く夕飯を、今日はその兄と一緒にとれるのだ。気分も上がるというもの。

「アイビー、ドレスは淡い黄色の物がいいわ、髪飾りもそれに合わせて頂戴」

「心得ています、お嬢様。この間若旦那様から贈られたドレスですものね。」

微笑ましいものを見る目で、苦笑されてしまった。

淑女教育を受けている身として、恥ずかしいことだ。

「ごめんなさい、アイビー。浮かれてしまったようだわ」

「私でしか分からない程度でしたよ。さ、お髪を整えましょう。」


髪もドレスも整えて、正餐に向かう。

食堂には既にお兄様がいて、私を待っていた。

「よく来たね、ロゼ。まずは食事をしよう。」

「えぇ、お兄様。ご一緒するのが、なんだか久しぶりに感じるわ、いつも楽しみにしているのよ。」

他愛のない話で食事を終える。

「さて、ロゼ。大事な話があると言ったね。」

手を組んだお兄様が私を見る。

「ロゼはよく頑張っている。それは今日の立ち振る舞いからよく分かるよ。」

お兄様の言葉とは裏腹に、私の中では緊張が高まっている。こんなに前置きをしないといけない程の話なのだろうか。

「ロゼに、縁談がきた。アストラバーグ国の伯爵家、御三男だ。」

そのアストラバーグ国というのは、今我が国と戦争になりかねないほど仲が険悪な国だ。

目の前が真っ暗になる。


この日は間違いなく、私の運命を決めた日だった。

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