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3:魔王軍へ その1

 適当な武器や防具を奪――いや、貸してもらった後、城をこっそりと出立して魔王軍の侵攻ルートに向かう。

 城下町は戦時中にしては活気があって、ここだけ見ていると本当に魔王軍が攻めてくるのか疑わしいくらいだ。

 しかし、街を囲む高い城壁を潜り、2キロほど歩くと風景は一変した。

 城下町に供給する作物を作る農村のはずなのに、静まり返っている。


「人がいませんね」

「農村から人が逃げたのか」


 結構マズい状況のようだ。


「魔王の軍勢というのはどの方向でしょうか?」

「あっちだな。だいたい2日で行けると思う」


 ざっと見渡して、方角を割り出した。

 アンカーのリミットが72時間だから、問題はないけど、何か不測の事態があったら詰んでしまう。


「葛見殿は初めてですか?」

「ああ、まあ、そうだな」


 こっちからあっちに向かうのは初めてだ。ウソは言ってない。


「それにしてはずいぶんと馴れたご様子ですね」


 未緒の視線が日本刀のように鋭い。ああ、やっぱり未緒に斬られそう。


「国王から宰相まで根掘り葉掘り聞いたからねえ。それに、似たような世界には行ったことがあるから。後はもう経験と勘でなんとかなるもんだよ」

「そういうものですか?」

「そうそう。先輩勇者を信じなさい」


 未緒が僕を見る疑わしげな目が痛い。さらに追及の問いが続く。


「私はその《でびじょん》という組織も寡聞にして知りません」

「いやー、僕も自分が召喚されて連れ戻されるまで知らなかったよ。こんなことがあるなんて普通の人は知らないんじゃないかな」

「それは……確かにそうですね。まるで神隠しのように連れ去られるわけですから調べようもないでしょうし」

「神隠し……そうか。向こうからしたらそうだな」


 僕が召喚されて消えた後、両親はどうしているだろうか。探してるだろうな。それとも、別の世界にいることで何かが変わっているのだろうか。存在しなかったことになっているとか。

 多元宇宙のことについては《ディヴィジョン》にもよくわかっていないことが多いらしい。まあ、説明されても小難しい理論やら数式を持ち出されたらどうしようもないけど。




「葛見殿、少し休みませんか」


 未緒が後ろから声をかけてきたのは、どれくらい歩いた後だっただろうか。振り返ると、未緒は足を痛そうにして息を荒くしている。


「葛見殿は健脚ですね。私は少し……疲れました」


 膝に手を突いて、未緒が言う。足は少し震えている。

 しまった。僕の体は強化されてるけど、未緒は普通の人間だった。おまけに食事も取っていない。


「ごめん。無理をさせた。今ご飯を出すよ」

「出すとは、弁当でも持参したのですか?」

「ああ、アイテムボックスって言ってね。こんな感じで」


 僕は空間に手を突っ込んで、整理していた空間からテーブルとイスを2客取り出し、その上に昨日作っておいた料理を並べた。

 アイテムボックスはもちろん異世界で手に入れたスキルだ。時間が静止した状態で保管できるので、生ものや保温・保冷にちょうどいい。

 未緒は湯気を立ち上らせる料理を見て目を丸くした。


「これは……」

「そんなに手の込んだものは作れないし、敵地の真ん中だからこんなもんかな」

「こんなの見たことないです……」


 称賛と解釈して、未緒に勧める。と言っても、ハンバーガーとチーズオムレツ、コーヒーなんだけど。

 怪しいところから取り出したせいか、未緒はおっかなびっくりハンバーガーをつかみ、一口食べる。ぱあっと表情が明るくなった。


「食べたことのない味ですが、美味しいです」

「そ、そう? 普通の味だと思うけど」

「パンも食べたことがないほど柔らかくて甘いですね。野菜は……あんまり味がしませんけれど、肉は芳ばしいですね」

「気に入ってもらえてよかった」


 少しは態度が柔らかくなってくれると嬉しい。もう一息かなと、低いコミュ力を総動員して話題を振る。


「佐久良さんはどこで剣道を?」

「実家の道場は大震災で潰れました。今は母方の親戚の道場に元に身を寄せています」

「ああ、そうか」


 東北なのか。子供の頃に被災したんじゃ思い出すのも辛いよな。話題作り失敗で撃沈してしまった。

 ぎこちない食事の後、陽が暮れるまで進んだところで、今日は街道沿いの廃屋で休むことになった。


「言っておきますが、この線より近づいたら自害します」


 未緒は長剣で床に線を刻むと、ベッドの上に座った。僕は部屋の反対側の壁にもたれかかった。


「これでいい?」

「……はい。仕方がありません」


 まだ気を許してくれない。可愛い女の子ににらまれるのは精神的に辛い。


「うん、でも、これってフラグかもなぁ」

「ふらぐとは?」

「知らない? 例えば『この戦争が終わったら結婚するんだ』とか言ったら、次の戦闘で死んじゃうの」

「呪いですか?」

「ああ、そうかも。言霊は呪いになるのかもな」

「それで、この場合はどうなるのですか?」

「そうだなぁ。天気が急変して雷鳴になって、怯えた佐久良さんが僕に飛びついてくるとかかな」

「ありえません」

「それもフラグかも」


 が、結局、フラグは見事にへし折られ、何事もないまま朝を迎えた。サーヴィス精神がない。フラグは当人がそれを認識しないと立たないのかもしれない。

 まあ、そんなイベントが起こっても困るだけなんだけど。いくら勇者を経験したって、ぼっち歴が長い僕に対処できるなんて思い上がりも甚だしい。わかってる。魔王の相手の方が気が楽だ。


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