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#5 冒険者になりました

よろしくお願いします。

 幸せな時間は続けたい。

 けど、進まないと何も出来ない。

 今のところ、僕はペット枠でいる気がしてならない。


「僕にはどんにゃ支援がもらえるんですかにゃ?」


 僕は質問する。

 支援してくれるとはいえ2人は職員だ。限界はあるだろう。


 エリマさんが少し考えながら答える。


「そうだねぇ。考えているのは宿の提供・依頼の選別と紹介・パーティーの紹介・冒険者として必要な講習の受講代無料かねぇ」


 依頼やパーティーはなんとなく分かるけど、それ以外は意外だった。


「宿まで?しかも講習無料とかそこまでいいんですかにゃ?」

「宿については君の安全を守るため。残念だけど冒険者の妖精族が泊まれる宿なんて従業員に金を握らせれば簡単に誘拐に協力してしまう。衛兵も結局権力の奴隷さ。貴族とかに声をかけられれば誘拐なんて無かったことにされる。かといって防犯対策がしっかりしている宿は高いから、駆け出しの君が払い続けるのは無理だねぇ。だから私たちの協力者が経営してるところを紹介するよ。安全だし格安で泊めてくれる」


 やっぱり王族貴族を簡単に捕まえられないか。日本もそうなのだからそりゃそうだよねぇ。

 確かに休んでる時まで警戒したくない。ログインしたら檻の中なんて真っ平ごめんだ。


「講習は~この街の外に出たときに襲われないように~注意点を予め把握してもらうためよ~。私たちが完璧に守れるわけじゃないしね~。君も1日中護衛とか就けられたくないでしょ~?」


 うん。嫌だ。確かに街中や外は危ないか。ただでさえ人が多くなってるのに。


「ただ講習に関しては方法をちょっと考えている」

「にゃぜ?」

「一般的な安全対策は教えられるが、ケット・シーの固有能力について私たちが教えられる術はない。普通のケット・シーならともかく、君は渡り人だ。自分の力のことも分からない部分があるだろう?」


 エリマさんは顔をしかめながら答えてくれる。


「あぁ~。確かに」


 ケット・シーの性や妖精族の加護とか曖昧なものをどう把握しようかはずっと考えてはいた。攻略サイトを探してみたが、βテストではケット・シーでプレイした人がおらず詳細不明なのだ。


「さっきシィナがケット・シーの知り合いがいると言ったのは覚えてるかい?」

「はいにゃ」

「その知り合いに講師として来てもらおうと思ってるんだよ」


 おぉ!それは非常にありがたい。この世界出身のケット・シーの知り合いは早めに欲しいと思っていた。しかし、エリマさんの『50年振り』発言に心の中で絶望していた。

 2人の知り合いということは戦闘能力も高いだろう。こうして紹介してくれるということは渡り人のことも知ってるのだろう。

 猫の呪いとか職業とかも相談したい。

 断る理由はない!


「ありがとうございますにゃ!嬉しいですにゃ!」


 素直にお礼と喜びを伝える。

 2人は安心したようにホッとしていた。


「よかった。考えた甲斐があるよ」


 さっきのことを思い出していたんだろう。心配してくれたみたいだ。

本当に優しい2人だ。


「じゃ~連絡入れとくわ~。悪いけど数日待ってね~。さすがに明日とかは来れないわ~。それまでは依頼とか普通の講習受けて待ってて~」

「はいですにゃ」


 それは仕方ない。王国から来るなら時間は掛かるだろう。来てくれるだけありがたい。

 本当にいい出会いが出来た。これもケット・シーの運が招いたのだろうか。

 いや、どうでもいいか。幸せに思うことに理由なんて……いらないんだ。



 とりあえず方針も決まった。

 時間を確認する。!?。3時間もいたのか!?

 外はもう夕暮れ時だろう。

 さすがに外にも出れないし、買い物も難しいな。大人しく宿を紹介してもらって今日は休もう。


「さっそくですけど。宿ってどこにあるんですかにゃ?」

「うん?宿かい?って、かなり時間が経ってるねぇ。ごめんねぇ」


 エリマさんも時間に気づいてなかったか。

それだけ僕のことに集中してくれていたってことかな。

そうだと嬉しいな。


「大丈夫ですにゃ。すごく有意義で、嬉しかったですにゃ」


 僕は微笑んで言う。もちろんお世辞なんかではなく本音である。


「本当にいい子ね~。ナナキちゃんは~。ボソッ(やっぱりものにしたいわ~)」


 背中がゾワッとした。しっぽがピンッと伸びて毛が逆立つ。


「!?」


 僕は後ろを振り返る。何もいない。

 続いて周りを見渡す。何もいない。



 そんな様子のナナキを見て、エリマは半目でシィナを見る。

 シィナはエリマに手を合わせて謝る。しかし、浮かんでいる表情は実にいい笑顔である。

 反省どころかむしろ盛り上がっているシィナの様子にため息を吐き、ナナキに声をかける。


「どうしたんだい?なんか変で気持ち悪いものでも見つけたかい?」


 妙に具体的に聞いている。

 ナナキはそんなことにも、シィナの様子にも気づかずに返事をする。


「いえ。にゃんかすごい寒気が。大丈夫みたいですにゃ」


 エリマは改めてシィナを見る。さすがに元に戻っていた。

 また、ため息を吐き、ナナキに話しかける。


「はぁ。……なんか怖いことがあったら遠慮なく言いなさいねぇ。出来る限り守ってあげるわ」


 さすがに本気になったシィナの相手はナナキには荷が重すぎるだろう。

 いや、ナナキはまず、すでに自分に好意を向けられていることすら気づいていない。


(というよりは、好意が向けられると思ってない……って感じだねぇ。やっかいな経験をしてるみたいだねぇ。とはいえ、手を出すのはさすがにねぇ)


 ナナキの微妙なズレをエリマは感じた。

 しかし、いくらなんでも今日会ったばかりの関係で口出し出来ることではなさそうだと判断して何も言わなかった。

 シィナも気づいたようだがエリマ同様手出しは難しいと感じているのだろう。眉間に皺が出来ている。




 微妙な空気になりながらも僕達はギルドホールに戻ってきた。

 やや人が減った気がするも相変わらず並んでいる人の数は多い。


 視線を感じながら僕は進む。

 すると、シィナさんが受付の1人に声をかける。


「ごめんなさいね~。任せっぱなしにして~。大丈夫だった~?」

「はい。なんとか乗り切った感じですね。ただ……これが毎日になると流石に何人か倒れると思います。今日は検察業務は完全に止まってしまいましたし」


 声をかけられた後輩がやや疲労感を漂わせて答える。

 流石に1人で数百人相手に受付業務はきつかったようだ。



 普段なら全体で数百人を相手にする程度なのに、それを1人で対応し、応援を呼ぼうにも他の受付も同じ人数を相手にしなければいけないのだ。


 裏方にいたものも鑑定・換金業務や依頼人の対応、経理・決算業務に他組織との連絡などに追われていて、受付業務を補佐できる余裕は無くなっていた。


 検察業務とは、依頼内容に違いがないか、不備や詐欺がないかを冒険者に依頼を出す前に確認することである。依頼者と冒険者の関係を取り持つ重要な仕事である。


 討伐・探索関係は職員では限界があるので冒険者に調査の依頼を出すこともある。調査依頼は基本ギルドから報酬が出る。そのため冒険者の評価に大きく関係すると考えられており、人気の依頼とされている。



「そうね~。ギルドマスターに相談してみるわ~。ところであの子の登録は出来た~?」


 シィナさんは何となく予想していたのか簡単に返答する。

 そして何かを頼んでいたのか首尾を確認する。


「はい。出来ています。これが認識票です」

「ありがとね~。ナナキちゃ~ん」

「にゃ?」


 後輩から何かを受け取ったシィナさんは礼を言い、僕を呼んだ。素直にシィナに近づく。


 その様子に後輩や並んでいたプレイヤー達がほっこりする。業務の疲れや長時間並んでいることによる苛立ちを癒す。


「はいこれ~」

「にゃ?」

 

 受け取ったのはタグである。タグには僕の名前が書いてある。

 名乗ったのは相談室に入ってからで、一度も2人は離れてないのにどうやって?

 いつの間に作っていたのだろうか。何か操作している様子もなかった。魔法か何かだろうか。


「それが冒険者ギルドに登録した証。【認識票】通称ギルタグだよ。失くしたらお金もらうから注意するんだねぇ」


 エリマさんが説明をしてくれる。


「登録したばかりだからGランクからスタートだよ。ランクはG、F、E、D、C、B、A、S、Xの順で高くなっていくねぇ。ランク昇格の基準は依頼の成功度、依頼内容、態度、実力を中心に見るねぇ。他はその時々で判断材料の補完となるよ。パーティー内での役割、その遂行度、盗賊討伐が出来るかどうか、護衛時の対応、他のパーティーとの連携とかだねぇ。ランクが高くなるほど求められる材料は多く細かくなるねぇ」


 すごく丁寧な説明だ。周りで聞いているプレイヤーと思われる冒険者も興味津々に聞いている。


「依頼の失敗に関してだけど討伐系に対しては実力的に厳しい場合や他の魔獣も現れたりとイレギュラーがあるから、あまりランク審査には響かないよ。ただ失敗時には報告書を書いてもらう。その報告書は次に依頼する冒険者の情報源になるから職員からすれば重要だねぇ。だから理由がしょうもなければ、さすがに問題視されるよ」


 なるほど。手当たり次第とかは危険だな。下手したら他の冒険者を巻き込みかねない。情報収集は大事だな。


「もちろん冒険者同士の揉め事も注意。ギルド内や依頼に関わることならギルドが仲裁と調査、処罰する。けどそれ以外での揉め事は一般市民として衛兵の管轄だからねぇ。私たちは助けないよ。……もちろん冒険者による殺人もね」


 エリマさんの雰囲気が鋭くなり、僕も周りも息を飲む。


「注意してほしいのは、『見殺し』だよ」

「見殺し……」

「そう。盗賊、魔獣、そして卑劣な冒険者。これらによって襲われている冒険者を見殺しにすることは『最低の禁忌』と言われている」

「最低の禁忌。でも助けに入ると死んでしまうと分かっているのに、助けに行けというのもダメじゃにゃいですかにゃ?」


 僕の疑問に他の冒険者も頷く。


「そうだねぇ。その通りだよ。でも、見殺しにしたと噂されている冒険者と一緒に仕事できるかねぇ?信頼できるかい?」

「それは……」


 他の冒険者も眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


 当然だ。仕方ないと分かってはいる。自分でも同じ状況だったら同じ判断する可能性がある。しかし、信頼も信用も出来ない。絶対に頭の片隅にある。『また見殺しにされるのでは?』と。


「どうすれば?」


 僕は質問する。


「諦める。そしてその街から離れる」

「……え?」


 エリマさんの答えに聞いていた冒険者全員が唖然とする。

 ふと、奥のテーブルに座っている冒険者が目に入る。すごく苦々しい顔をして目を閉じている。耐えるかのように。


「そう。どうしようもないんだよ。逃げれば後ろ指を指されて信用を失い、助けようとすれば命を落とす。仲間の信用か命か。けど命は難しいよねぇ。だから逃げるしかない。しかし街には戻れない。まぁ、パーティーが全員死んだなら、バレないけど。もし1人でも生き延びていれば?という不安はある。だから、街に戻らず遠く離れた他の街か、他国か。だよ。見殺しは罪にはならない。だからその街に戻らなければ知られることはない。依頼は失敗扱いになるだけだからねぇ」


 ……。自分は悪くない。自分が殺したわけではない。なのに疑われる。……それはきついなぁ。


「新しい街でも信用0からのスタートだ。ランク審査も初めからになったことに等しい。いや、むしろ厳しくなると言ってもいいねぇ。誰にとっても全く良いことはない。故に『最低の禁忌』」


 見捨てられた者、見捨てた者、ギルド、依頼者。全員が損しかしない。確かに最低だな。


「とりあえず今伝えておくべきなのはこれくらいだねぇ。質問はあるかい?」

「いえ。大丈夫ですにゃ」


 僕は目を合わせ、しっかりと頷いた。

 エリマさんは微笑んで僕の頭をゆっくり撫でた。


「なら今日は休みなねぇ。贔屓して申し訳ないけど、君には頑張ってもらいたいからねぇ。シィナ。後はまかせるよ」

「お疲れ様~。説明ありがとね~。じゃあ、ナナキちゃん。案内するわね~」

「はいにゃ。エリマさんありがとうございますにゃ。これからもよろしくお願いしますにゃ」


 僕はエリマさんに頭を下げる。


「うん」


 エリマさんは最後にもう一度僕の頭を撫でて、カウンターの奥へと歩いていく。その後ろ姿に僕はもう一度頭を下げる。


「本当に良い子ね~。じゃ~行きましょうか~」

「お願いしますにゃ」



 僕とシィナさんは街を歩いていく。


 きれいなエルフとその後ろをチョコチョコ歩いている猫人の姿に周りは全員ほっこりして見つめてしまう。


 僕は視線を感じるがシィナさんが堂々しているので、あまり気にならなくなってきた。


 大通りを進んでいき、大きな交差点に差し掛かる。

 シィナさんはまっすぐ進もうとするが、僕は変なにおいを感じて左を見る。


(煙の臭い?……あれは?)


 僕が見たのは通りの両端に並んで建っているほとんどの建物に大きめの煙突があり、そこから煙を出していた。その建物からは多くの冒険者と見られる人たちが出入りしている。


 どうやらここは武具屋通りのようだ。


「ここは『スミス・ストリート』よ~。名前通り鍛冶職人を始めとした職人が集まっているわ~。ナナキちゃんも関わる場所だから覚えといてね~」

「僕が買えそうにゃ武器を扱っている武具屋はありますかにゃ?」

「店舗はやっぱり質がいいから高めよね~。安全のためには質は重要だけどね~。成りたてのナナキちゃんは少し厳しいかもね~」


 やっぱりか。でもナイフだけじゃなー。


 もちろん僕は初期装備だ。質素なベストとショートパンツ、銅のナイフとポーチ。ナナキの装備はこれだけだ。毛があるからかシャツはないし、足は素足だが肉球のおかげか全く痛くない。ポーチはアイテムボックスだ。ポーチを触るとウィンドウが展開されて物の出し入れができる。必ずポーチに触らないといけないから戦闘時のアイテム使用には注意が必要だ。

 ……。僕、防具もダメちゃう?


「……シィニャさん。僕の服ってこのままだとダメですにゃ?」


 僕はシィナさんに質問する。

 僕の質問にシィナさんはにこ~っと笑みを深める。


「そのままで外に出るなんて、絶対に、許さない、わ~。もし、そんなことしたら~ギルド内でず~~~~~~っと招き猫してもらうわよ~」


 目と噴き出るオーラが剣のように鋭くなる。


「モチロンデスニャ。ゴメンニャサイデスニャ。ユルシテクダサイニャ」


 僕が許されるのは謝り、従うことだけだ。猫であろうと主従関係は絶対である。


「ふふ~。やっぱりいい子ね~」


 シィナさんは元に戻って僕の頭を撫でる。


 周りの人達は先ほどのシィナ同様に「許しませんよ!」という視線を飛ばしていたり、シィナにおびえていたナナキに憐みの目で見ていたり、招き猫を想像してトリップしていたり、それを見てそそくさと離れていくなど様々な反応をしている。


「この通りを進むと『見習い広場』というのがあるの~。そこなら質に差があるけど~手頃の値段でいいものが買えるかもよ~」


 シィナさんは通りの奥を指さして言う。

 見習い広場?


「職人の弟子が~広場で露店を開いて~自分の作品を売るの~。師匠にお墨付きをもらっても~使ってくれなきゃ本当の評価は出来ないでしょ~。でも師匠の店で出しても~出来の違いが分かるから売れないし~ってことで~広場で自分の顧客を作ったり~商売の練習をするの~」


 なるほど。品評会ってことか。


「見習いの作品と言っても~ちゃんと師匠が認めた物だけが売られてるから~馬鹿にできないわよ~。行ってみる~?」

「いいんですかにゃ?」


 願ったりではあるが。早くギルドに戻らないといけないのでは?


「私はもう今日は終業よ~。昨日からずっとギルドにいたからね~。それにナナキちゃんはカモにされそうで~ほっとけないかな~。装備の相談も受け付けるわよ~。これも支援の1つよ~」

「にゃ~……。分かりましたにゃ。お願いしますにゃ」

 休んでもらった方がいい気がするけど……。支援と言われれば断りづらい。


「じゃ、行きましょ~」


 再び僕はシィナさんの後ろをついていく。



少し補完を。

冒険者はプレイヤー・NPCの両方を含めた総称です。このゲームはパッと見ではNPCとの違いが分かりませんので。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ケット・シー可愛い! [気になる点] 『最低の禁忌』の下りを読んで思ったのは 冒険者ギルドこそ『最低の組織』だなと。 そもそも身の丈にあってない手助けをギルド側が許容してしまったらそうい…
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