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#4 その手が幸せだった

よろしくお願いします。

 ぶら下げられたまま入ったのは『相談室』と書かれた部屋だ。

 部屋の中はテーブル1つ、椅子が4つと質素な部屋だ。窓もない。


 僕はぶら下げられたまま部屋の中を見渡す。


「最低限の物しかないし窓もない部屋だけどねぇ。ここは冒険者や職員が相談事や密談で使う部屋でねぇ。防音に透視妨害も万全だよ」


 エリマが説明しながら僕を降ろす。


「密談って大丈夫にゃんですか?」


 犯罪に使われないのだろうか。尋問にも使われている気がする。


「ここを使うには必ずギルド職員が同伴することになってるねぇ。もちろんギルド職員との癒着がないように同伴する職員は申請された時にランダムに決められるしねぇ」

「ランダムに?」

「運命神と遊戯神が作った神器でねぇ。神器と言っても大量生産されてるからありがたみはないけどねぇ。されど神器。細工なんて出来やしない」


 意外と神は身近なようだ。

 そこにシィナがお盆にコップを載せて入ってきた。


「あら~。まだ座ってなかったの~?さぁ~、座ってちょっと落ち着きましょ~」

「おぉ。それもそうだねぇ。どうぞ猫君」


 促されて座る。反対側に2人も座り、シィナがお茶を配る。


「猫ちゃんは冷たいお茶にしといたからね~」

「ありがとうございますにゃ」


 猫舌だよね。やっぱり。

 3人ともお茶を一口飲む。一息ついてエリマが話を始める。


「ふぅ。さて。君の時間をあまり奪うのも良くないしねぇ。改めて私はエリマで、隣がシィナ。エルフ族に属しているよ」


 エリマさんはミディアムパーマで緑色の髪を持つエルフ。髪の長さは肩ほどまで。眼は常に眠たげで半目。しかし覗く瞳からは深い知性を感じる。スタイルはエルフの定番イメージそのまま。

 シィナさんは腰に届きそうな赤色の長髪をハーフアップで結んでいるおっとりエルフ。常に笑顔を浮かべている。多分怒ると怖いタイプだ。同じく深い知性を感じる。スタイルはエリマさんとは真逆でメリハリのある体つきだ。


「ニャニャキですにゃ。ケット・シーですにゃ。……ニャ前がちゃんと言えにゃいにゃ」


 僕も名乗るが猫語のせいで正しく発音できないことに気づき落ち込む。

 2人はその様子を見て苦笑する。


「フフ。大丈夫よ~。ケット・シーのしゃべり方は知ってるから~。ナナキちゃんね~」


 シィナさんが僕の名前を答える。ちゃん付けだが。


「ありがとうございますにゃ。ただ僕は男ですにゃ」


 正確に名前を把握してくれたことにお礼をいい、性別を訂正する。


「分かってるわよ~」

「にゃ?」


 しかしシィナさんは男だと気づいていた。

 ならなんでちゃん付けで呼ぶ?


「男の子だろうと可愛いんだったらちゃん付けでいいのよ~」


 悪びれもなくシィナさんは答える。

 僕は抵抗を試みる。


「けど」

「いいのよ~」

「僕は」

「いいのよ~」

「あの」

「いいのよ~」

「いや『い・い・の・よ~……ね?』ハイ。カマイマセンニャ」


 抵抗なんて出来なかった。してはいけなかった。


 エリマさんがその様子に苦笑しながら説明を続ける。


「さて、今回ここに来てもらったのはさっきも言ったけどねぇ。ケット・シーはもちろん、妖精族はヒューマンが治める街では住みにくいんだよねぇ。君もここに来るまで大変じゃなかったかい?」


 聞かれて僕はギルドに来るまでのことを思い出す。


「確かに周りの人たちは大きくて歩きにくかったにゃあ」

「それだけかい?他になかったかねぇ?」

「まだこの街に来たばっかりにゃので。宿も取ってにゃいですし」


 エリマさんはさらに聞いてきたが僕の言葉を聞いて納得する。


「あぁ。君達は『渡り人』だったねぇ。今日来たのかい?なら無理ないねぇ。やれやれ……神々も手抜きだねぇ」

「渡り人?手抜き?」


 渡り人はプレイヤーのことだろう。僕たちのことを知っている?女神様は世界の管理しているものくらいまでとしか言ってなかったけど。

 しかも手抜きとは?少なくともあの女神様は丁寧で優しかったけどなぁ。手抜きしているようには感じなかったけど。

 僕の疑問を感じたのだろう。今度はシィナさんが答える。


「渡り人は異世界から来た特異点なる存在のことよ~。今までは現れても1人か2人くらいだったけど~。今回はちょっと多すぎるって言葉じゃ片づけられないわね~。……めんどくさいわ~」


 どうやら昔にもいた設定があるようだ。もしかしてβテストのことか?

 それならもっと多いか。多分なにか伝説があるのだろう。

 なんか最後には素が出ていた気がするけど。そこは気にしたらまた怖いことになりそうだ。

 シィナさんは続ける。


「渡り人のことはギルドマスターも知らないから~外では言わないでね~。私とエリマは昔にちょっと色々あって~たまたま知っただけなのよ~。で~神々の手抜きって部分に関しては~ナナキちゃんがこの街に来たことに関してよ~。ケット・シーにふさわしい国があるのだから~そこに送ってあげれば~ってことよ~」


 いろいろあったって。ギルドマスターも知らないことを知っているって。もしかしてこの2人って滅茶苦茶重要人物なのでは?このまま話してて僕は大丈夫なのか?

 けど、僕にふさわしい国っていうのは気になる。


「渡り人については分かりましたにゃ。別に話す(はにゃす)必要もにゃいし、はにゃす友人もいにゃいので。ケット・シーが暮らしやすい国があるんですかにゃ?」


 僕は質問する。さらりとボッチであることを宣言したが。


「さらっと悲しいこと言ったねぇナナキ君。まぁ、暮らしやすいも何もねぇ。そこはケット・シーが王の国だよ。ケット・シーが暮らすのにこれ以上の場所はないよねぇ」


 うるさいです。そこは流してください。でも君呼びありがとうございます。

 それにしても王がケット・シーの国かぁ。ケット・シーは王政って伝承あった気がするなぁ。時間があったんだからゲーム以外のことも調べとけばよかった。


「遠いんですかにゃ?」


 行かないといけないだろう。多分種族イベントみたいなのあるはずだし。

 てか行きたい。


「隣の国だよ。ここからは馬車で2週間くらいかねぇ」


 近いのか遠いのか分からん。

 というか。


「隣の国にゃのに50年も来にゃいんですかにゃ?」

「暮らしにくいって分かってる国に来るわけないわよ~。それに~その国はケット・シーだけじゃなくて~ほとんどの妖精族が住んでるわ~。他の種族も移住してきて~他の国に比べて豊かなのよ~。この国よりもね~」


 意外とすごいなケット・シー王!?……けど。


「それって他の国と戦ににゃったりしにゃいんですかにゃ?……その……奴隷とか」


 豊かで珍しい妖精族が集まっている国なんて狙われないわけがない。

 2人は僕の言葉を聞いて顔をしかめる。


「……その通りだよ。情けないけどねぇ。何度か戦が起こっているよ。全部返り討ちにされてるけどねぇ。かなりのやり手なんだよ。あそこの王は」

「自分からは絶対侵略しないのよね~。そのおかげか周りの小国が属国になったり~統合されたりで国土増やして~その都度戦起こされてるけど~全部返り討ちにしたの~。ちゃんと取り込んだ国の人たちも守ってたしね~」

「そのせいでさらに同盟国が増えてねぇ。暮らしやすさを求めて移住者もかなり出てしまった。それで国として成り立たなくなった国も出たくらいだ。そんな国も引き受けたりしてねぇ。それを繰り返した結果、今やこの大陸で1,2を争う大国だよ。ちなみにこの国は上から4番手くらいかねぇ。君はそんな国から出たいかい?国内でも十分観光できるしねぇ」

「出にゃいですにゃ」


 即答する。むしろ早く行きたい。


「だろうねぇ。……というわけで、ギルドでは他の国で妖精族を確認したら保護できるようにしときたいんだよ。ギルドは原則国には所属しないからねぇ。戦争は避けたいだろう?」


 僕は何度も頷く。そして出てきた疑問を口にする。


「……もしかしてお二人はそのためにこのギルドに?」


 お国事情も詳しく、渡り人にも関わっている。そんな存在が2人もギルドマスターでもなく職員でいれるものか?しかし実際に2人はベテランではあるが職員でここにいる。そんな理由は限られている。


 2人は僕の質問に一瞬目を見開き硬直した。すぐに落ち着いたが僕はそれを見逃さなかった。


「……お見事。参ったねぇ。やっぱりケット・シーは見た目で油断できないねぇ」

「全くだわ~。まぁ、おかげで助かることもあるけどね~」


 2人は僕が確信したことに気づき、自分たちの失敗をぼやく。


「まぁ、私たちはギルド職員が本職なのは本当だよ。あくまでこれはお手伝いさんだねぇ」

「知り合いにケット・シーもいるし~私たちの出身国も~今はあの国の一部だしね~。妖精族が他国で嫌な目に会うのはさすがにいい気分じゃないわ~」


 それで僕は助かったのだからありがたいことだ。お二人とは仲良くしとくべきだ。この国で無事で過ごすためには。……利用してるみたいで嫌だけど。……いや、利用……してるのか。もう。

 2人の善意を打算で縋る。その事実に気づいてしまった。……結局、こうなのか。変われると思ってきたのに。

 僕は胸が苦しくなった。


「……君は、不器用だねぇ」


 不意に頭に手を置かれ優しく撫でられる。いつの間にか俯いていたようだ。……温かい。

 エリマさんは僕の頭を撫でながら言葉を続ける。


「なんとなく考えていることは分かるねぇ。利用していると思ったかい?そして、それは嫌かい?」


 見事に当てられた。上げようとした顔が上げられなくなる。


「……本当に不器用だねぇ。……そして本当に優しいねぇ」

「……優しい?」


 利用している僕が?


「私たちは利用してほしいからこうして君と話している。そうすれば君を守れるし、私たちの国に来て、楽しく過ごしてくれるだろうからねぇ。言ったろう?お手伝いさんだって。言ったろう?妖精族が辛い目に会うのはいい気分じゃないって。……これはね、私たちの自己満足なんだよ」


 エリマさんの言葉に顔を跳ね上げる。エリマさんは撫でていた手を引っ込めて言葉を続ける。


「君は私たちを利用してこの街で安全に過ごせばいい。そして私たちの国で楽しめばいい。そうすれば君の人生は楽しいものだ。そして、私たちは君を守り、君を国に送り出し、君が楽しく過ごしていることをどこかで聞く。そうすれば私たちは自己満足に浸れる。どっちも損はしてないだろう?なら、これは良いことなんだよ。苦しむことはないよ。……覚えておきなさい。知性あるものの行いは、全て自己満足の上に成り立っているんだよ。その自己満足を満たすために皆生きてるんだよ」


 エリマさんの言葉を頭が刻む。けど、上手く入ってこない。


「困ったことはお願いすればいいのよ~。そうすれば、皆出来る範囲で助けてくれるわ~。自分から出来る範囲で助けているのだから、それは嫌な負担ではないわ~。あなたはそれを笑顔で受け取ればいいの~。この場合は受け取らなかったり~申し訳なく思う方が相手を傷つけるわ~」


 シィナさんが続ける。言っていることは分かる。分かるが。


「納得出来そうにないわね~。まぁ、これは自分で分かってもらうしかないわね~。とりあえず~しばらく私たちの自己満足を受けてくれないかしら~。ある程度出来ることが増えたらその時にまた考えてくれればいいわ~」

「はいにゃ。……ありがとうございますにゃ」


 まだ自分では分からない。だから断るよりは受ける方が分かるかもしれない。そう思った。

 僕はお礼を言う。


「はい。こちらこそありがとね~」


 今度はシィナさんが撫でてくる。エリマさんとは感触は違うが。こっちも温かかった。

 それをエリマさんも微笑みながら見つめている。


 誰も言葉を話さず、時間が過ぎていく。

 しかし、僕はこの時間がたまらなく嬉しかった。

 



 感じる手の温かさがたまらなく……幸せだった。











「あの……いつまで撫でる(にゃでる)んですかにゃ?」

「ふふ~……(この毛ざわりたまらないわ~。可愛いし~……私のものにしようかしら)」

「……はぁ。(これははまったねぇ。……ご愁傷様ナナキ君。……まぁ、気持ちは分かるけどねぇ)」


猫語のルビってどっちがいいですかねぇ(-_-;)今回のように「話す」に「はにゃす」のルビか、「はにゃす」に「話す」のルビか。


読んでいただきありがとうございました。

今のところゲーム感一切ないですよね(笑)


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