#14 人の恋路を邪魔する奴は
よろしくお願いします。
火の玉が僕の眼の前に来る。
右腕を振り抜くために力を込めようとした瞬間、
「『壁を成せ』!【クレイ・ウォール】!」
「気高きものを守る壁を!【ウィンディ】!」
突如、僕の目の前に壁が出来る。
火の玉が壁に当たり爆発して砕ける。
僕は、壁の破片からナティを守ろうと動こうとする。
すると風が吹くのを感じる。
僕とナティの周りに風の壁が出来、爆風や破片を受け流す。
僕の前に薄緑のドレスを着ている女性が現れる。その女性は幽霊のように体が薄く透けており浮いている。精霊?
僕はそれを見たところで意識を失った。
「なんだ!?増援か!?」
ナッドたちは慌てる。
逃げようとするが、
「うぉ!?」
突然、目の前に黒い影が舞う。
ナッドは慌てて下がる。
そこにいたのは、紫色の軽装に銀髪のショートボブの女性。頭には黒いロップイヤーが見えている。
両手には両刃のナイフが握られている。
「アサシン!?」
突如現れたアサシンの女性は4人に襲い掛かる。
武器を持っていない前衛職の2人と、魔法詠唱が必要な後衛職の2人。
1人とはいえアサシンと戦うには分が悪い。
「ちくしょう!!」
「近づかれると魔法が使えねぇ!抑え込め!」
4人は慌てる。
その間に、ナナキ達に数人の人影が近寄る。
「大丈夫!?ってヤバイ!?シェーン!この子回復!」
「はい!『恵を増やせ』【スクリプチャー】!『癒しの光を』【ヒール】!」
緑色のミディアムストレートのエルフと思われる女性がナナキ達に近づき、声をかけるもナナキの状態に気づき、後ろから走ってきた白いローブを着た女性に回復を指示する。
シェーンと呼ばれた白ローブの女性はナナキを見て、回復効果増幅魔法を使い、回復魔法を唱える。
ナナキの体が輝き、傷が消えていくが左腕の傷は酷すぎて治癒が進まない。
ナナキはすでに意識を失っている。
「くっ!?」
シェーンの顔が歪む。
「ニャニャキ!?」
ナティが駆け寄る。その後ろを赤い軽装にローブを羽織る男性が付き添う。
彼がナティの麻痺を薬で解除したのだ。
麻痺が解けたナティは、礼を言うことも忘れて、ただただナナキのことを想う。
「ニャニャキ!ニャニャキ!っ!【ヒール】!」
ナナキの反応はなく、左腕も回復が遅いのを見てナティも回復魔法をかける。
わずかに治癒速度が上がった気がするが、左腕は変わらず酷い。
「酷いですね。……今の私たちではこの左腕は、厳しいかもしれません」
顔を歪ませたまま、シェーンが言う。
周りのメンバーも顔を歪ませる。
「ポーションかけてもだめか?」
ナナキ達から少し離れた場所で盾を構えて守っていた重鎧を着た男が聞く。
シェーンは首を振る。
「ヒールをかけてほとんど回復しません。魔法ならば【リジェネレイト】。ポーションならば中級か
下手したら上級が必要です」
ナティ以外の全員が悩ましい顔をする。
ナティはその間も。
「【ヒール】!」
健気に回復を続ける。
シェーンたちはそんなナティを痛ましげに見つめている。
エルフの女性は顔を怒りに染める。
「あいつら!ぜっったいに!許さないわ!ディノ!あなたも行きなさい!私も行くわ!シェーンとツヴェルトはこの子たちを!」
「おうよ!」
「はい!」
「了解」
エルフの女性の言葉に他のメンバーが頷く。
ディノと呼ばれた重鎧の男は盾を構えたまま4人に突っ込む。その後ろにエルフの女性も短槍を持ち、付いていく。
「ニュウ!遅くなった!くらえやクソ共ぉ!!【シールド・チャージィ】!!」
「がぁ!?」
ディノはスキルを使い、突撃する。
ダスが避けきれずに、吹き飛ばされる。
「構わない。あの子たちは?」
「1人は麻痺ってただけだ。けど、前にいた奴は少しまずい。ここでは治しきれん。リリリ!魔術師潰せ!」
アサシンのニュウはディノの答えに、わずかに顔を歪ませ敵を睨む。
女性エルフのリリリは、ディノの言葉の前に魔法を準備する。
「言われずとも!醜き悪を焼き尽くせ【サラマンダー】!」
リリリの言葉とともに炎で構成された蜥蜴が現れ、レデンとザックに襲い掛かる。
2人は攻撃魔法を使おうとしていたので、防御魔法の詠唱が間に合わなかった。
「「ぎゃああぁぁぁぁ!!」」
レデンとザックの体が燃える。2人は地面を転がるもその火は消えなかった。
その光景にナッドはおびえ、逃げ出そうとするも。
「ここまでやって逃げんじゃねぇよ!【タウンティング・ハウル】!『うおぉぉぉぉ!!』」
「っ!?ちくしょう!?」
ディノが吠えるとナッドはビクリと体が跳ねディノの方を向く。
ディノのスキルは挑発効果を含む咆哮を上げ、敵の注意を強制的に集め行動を阻害する。
ナッドは逃亡が失敗した。
周りを見るとレデンとザックが粒子となり、消えるところだった。
「ダス!何してる!って、な!?」
ナッドが吹き飛ばされたダスを見ると、ダスが火に包まれ悶えながら消えていく光景が目に入った。
「ダス!?くそっ!くそっ!なんでこんな目にばっかり合うんだよ!?」
ナッドはその光景を見て、理不尽を嘆く。
完璧に自業自得ではあるが。
それが理解できるならPK行為などしていないだろう。
「そんなの簡単」
後ろから平坦な声が耳に入る。
バッと後ろに振り向くと、目に入ったのは靴の裏だった。
「ぶげ!?」
ナッドは顔を蹴られ後ろに仰向けに倒れる。
そこにいたのはアサシンのニュウだ。
ニュウはナッドの腹に飛び乗り、踏み込んで飛び上がる。
「ごう!?」
ナッドは踏まれた痛みと叩きつけられた痛みに悶える。
「人の恋路を邪魔する奴は」
ニュウは空中で体を捻り両足を揃え折り畳み、ナッドの顔の真上に位置付けながら言葉を紡ぐ。
ナッドはその光景をスローモーションになったように感じながら見て、ニュウの声がはっきりと耳に届く。
ニュウの鋭い瞳と目が合う。
「兎に踏まれて死んじまえ」
ニュウは両足を全力でナッドの顔に叩き込む。
ナッドの頭部は地面に食い込み、それでもさらにニュウの足はナッドの顔にめり込み、さらに足に力を込めた瞬間、ナッドは頭部から血を撒き散らし、全身が粒子となってはじけ飛んだ。
「ニャニャキ。ニャニャキ」
戦闘が終わってもナティはそんなことに気づかず、ナナキに寄り添い声をかけ続ける。
すでにナティの魔力は尽きているようで、今にも意識を手放しそうだ。
それでも声をかけ続ける。
その光景をシェーンたちは見守っている。
止めるのは簡単だが、そうすると今にも壊れそうな雰囲気を出しているため誰も声を掛けられない。
ナナキは目覚めない。息はしているが弱弱しい。左腕は未だに酷い火傷状態である。
今すぐ死に戻るわけではないが、このままここで放っておくわけにもいかない。
シェーンは決意を固める。
「ごめんなさい。『健やかな眠りを』【スリープ】」
眠りの魔法でナティを眠らせる。
ナティはナナキに縋りつくように眠る。
それでも涙は止まらない。
「急いで運びましょう。プレイヤーとはいえこのまま死に戻りさせたらこの子に合わせる顔がありません」
「この子は私が運ぶ」
ナナキを抱えようと、ニュウが近づく。
それにリリリが尋ねる。
「大丈夫なの?」
「この子は小さい。この中だと私が一番足が速い。先行してギルド病院に連れていく」
ニュウはナナキを丁寧に顔以外を布で包み背中に抱える。
姿勢を整えて問題ないことを確かめると一気に走り始める。
その光景を見てリリリたちも動く。
「じゃあ、この子は私が背負うわ。私たちも出来る限り急ぐわよ」
ナティを背負いながら言い、シェーラたちは頷き走り始める。
エアスト冒険者ギルドの受付奥でエリマは仕事をしていた。
シィナは2階で他の職員と検察業務を行っている。
「はぁ。随分消化される依頼の種類が偏ってるねぇ。討伐や調査ばかり消化されても困るのだけどねぇ」
エリマが依頼の選別をしていて、ため息を吐く。
共に仕事をしている後輩職員は苦笑する。
「まぁ、冒険者といえばここらへんの依頼ですからね。とはいえ、そろそろ何か考えないといけませんかね?」
冒険者の行動に理解を示すも、ギルド職員としてはこのままではいけない。
依頼として引き受けた以上対応しなければならない。
「そうだねぇ。見込みがある子達をピックアップして紹介するかねぇ」
「贔屓みたいなことして大丈夫ですか?」
「構わないよ。贔屓されるほど信頼されるのも上を行く冒険者には必要な要素さ」
エリマは堂々と不平等上等と口にする。
後輩はそんなエリマに再び苦笑すると、ふと思い出す。
「そういえば、猫ちゃん達まだ帰ってきませんね」
「そうだねぇ。まぁ、初めてのお外だから張り切ってるんだろう。鑑定も出来るしねぇ」
ナナキ達の話になると、エリマは苦笑する。
鑑定持ちに、後輩は少し目を見開く。
「鑑定持ちですか。なら、色々集めるか。プレイヤーならアイテムボックス持ってるでしょうし」
プレイヤーという用語はギルド本部から通達されたことで職員も呼ぶようになった。
ただ詳しいことは知らない。
分かっているのは『死んでも大神殿で蘇ること』『年を取らないこと』『成長が早いこと』『全員アイテムボックスを保持していること』くらいだ。何処から来て、なぜそのような能力を持っているかははっきりしていない。
というか、本人たちに聞いても分からなかったからだ。「異世界から来た」と言われても信じられないからだ。
「魔獣相手に戦闘もしているだろうしねぇ。慌てることはない……と信じたいねぇ」
エリマはなんでもないようにしているが、内心心配していた。
後輩もそれに気づいた。事実自分も同じ心境だからだ。
2人は心配を振り払おうと仕事に集中しようとすると、入り口の方がざわつくのが聞こえる。
2人は何事かと目を向けると。
そこには兎の獣人が何かを抱えて、駆け足でギルドに入ってきた。
大事そうに抱えられている何かは布に包まれている。
「っ!?ナナキ君!?」
「えっ!?」
エリマは布から見えていた顔を見て、すぐに気づいた。先ほどまで話題に出ていたこともすぐに気づいた理由でもある。
包まれていたのは、紛れもなくナナキだった。
エリマは慌ててカウンター近くまで出る。後輩職員も驚いている。
ナナキを抱えているニュウはエリマに目を向けるだけでそのままギルドに隣接されている病院へと駆け込んだ。
「悪い!ここは任せるよ!」
エリマは後輩の返事を聞かずに伝えて走り出す。
シィナとジェジェンに念話で連絡しながら、病院へと向かう。
その横で、もう1人慌てている人がいた。
ニナである。
ナナキとナティは一緒にいるはずだ。ならナティはどうしたのか。
ニナとエリマは疑問に思うも、それを知るためにナナキとニュウを追う。
病院に入ると目の前の病室にニュウの姿が見える。
2人は駆け込む。
「ナナキ君!?……っ!これはっ!?」
「そんな……何があったの!?」
ベッドに横になっているナナキの左腕は黒く焦げており、指が欠けている。
2人はその姿に絶句する。
「落ち着け。病人の前だ。うるさく騒いでも良くはならんぞ。エリマ。小娘」
2人に声を掛けるのは病院の治癒師であるエデヴァンスである。
白衣に白髪交じりの青い髪をオールバックにしているヒューマンである。やや不愛想だが治癒魔法はもちろん薬にも精通している。
「治癒魔法をかける。すぐに死ぬとかはねぇが邪魔だから出ていけ。話ならそこの兎娘からでも聞けるだろう」
エデヴァンスはエリマ達を病室から追い出す。
エリマ達は大人しく出ていく。
そこにシィナたちも現れた。タマもいる。
「エリマ!ナナキちゃんは!?」
シィナも慌てている。
エリマはエデヴァンスの対応とシィナの様子を見て、少し頭が冷えた。
「今、エデヴァンスが治療を開始したよ。すぐに命を落とすとかいう状況ではないらしい」
エリマの様子にシィナがホッと息を吐く。
ジェジェンも安心したように息を吐く。
タマは腕を組んで目を瞑っている。
「で?いったいにゃにがあったかは分かるのかにゃ?」
タマが尋ねる。
エリマが隣にいたニュウに顔を向ける。
「彼女がナナキ君を連れてきてくれた。多分彼女が知っていると思う」
全員がニュウに注目する。
ニュウは表情を変えることなく、話始める。
「私たちが見たのは途中から。そこは理解してほしい」
ニュウは断ってから、自分が見たことを話し始める。
ナティが無事なことには全員ホッとしたが、ナナキ達を襲ったプレイヤーに心当たりがあり、苦い顔をする。
「この前の奴らだねぇ。被害がないからギルドの使用制限で止めたのが仇になったねぇ」
エリマが吐き捨てるように言う。
「でも~あの時はそれが限界よ~。言い方は悪いけど~今回は運がなかったとしか言えないわ~。……まぁ、もう許さないけどね」
シィナが宥める。最後に恐ろしい表情でつぶやいたが。
「具体的ににゃにがあったかは、ニャティさんに聞くしかにゃいみたいですにゃ。少し落ち着いて待ちましょうにゃ」
ジェジェンが提案し、全員が病院から出る。
シィナは4人への対応のために離れる。
しばらく座って待っていると、ディノたちがギルドに入ってきた。
リリリの背中にはナティが背負われている。
それを見て、ニナが叫び駆け出す。
「ナティ!」
その声にリリリたちも気づく。ニナの後ろからニュウやエリマ達の姿があることも確認する。
「ナティ!大丈夫!?」
「魔法で眠ってるだけよ。薬か何か使えばすぐに起きるわ」
ニナの慌てている様子にリリリは声を掛け、ニナにナティを渡す。
ニナは目尻に涙を溜め、ナティを抱きしめる。
シェーンたちは、その様子を微笑んで見つめる。
ディノがニュウに声を掛ける。
「おう。お疲れだったな。あいつは大丈夫か?」
「そっちも。今、治癒師が回復してる」
ディノたちはニュウの言葉に頷くと、エリマに顔を向ける。
エリマは彼らに頭を下げる。
「今回は、彼らを助けてくれたことを彼らに代わって感謝するよ。本当にありがとう。私はギルド職員のエリマ。彼らの担当、と言ってもいい間柄だ。ニュウさんからは大体のことを聞いたけど君たちにも改めて伺ってもいいかな?」
ディノたちは頷く。
「かまわねぇよ。俺たちも連中はどうにかしてぇ」
エリマは改めて頭を下げる。
「感謝するよ。部屋に案内する。ニナさんはナティちゃんを連れて病院に連れて行ってくれるかい?ナティちゃんも目が覚めたらナナキ君に会いたいだろうしねぇ」
エリマの言葉にニナは頷き、病院に向かう。
エリマたちはそれを見送り、ディノたちを相談室へと連れていく。ジェジェンとタマも付いていく。
ニナはナティを抱いたままナナキの病室の前の椅子に座っている。
治療はまだ続いているようだった。
βテスターの情報だとリジェネレイトを使えばすぐに回復するはずだが、NPCとは仕様が違うのかもしれない。
ナティは未だに涙を流している。
それを見て、治療中のナナキを見せるのは難しいと考えて起こさずにいる。
悔しい思いが胸を埋める。
しかし、今回のは別に珍しいわけではない。
PKはどこでも起きている。
エリマ達の判断も何も問題はない。
シィナが言っていたように運がなかったのだ。
それでも思う。なぜ、ここでなのかと。
ニナはある決意をする。
掲示板を開き、入力を始める。それが何なのかをナナキ達が知るのは大分経ってからだった。
個人的にニュウさんの決め台詞が気に入っております。
ありがとうございました。




