#8 でかい壁
やっと戦闘です!
よろしくお願いします。
戦闘開始が告げられようとしている。
僕は、直前にエリマさんに言われた言葉を思い出す。
『いいかいナナキ君。君は本当に運がいいねぇ。いきなり壁に出会えたのだから』
『壁ですかにゃ?』
『そうだよ。ハーフジャイアントなんて滅多に会えない。しかもマーセナリーだ。はっきり言うよ。今の君では絶対に勝てない』
『まだ一度も戦ったことにゃいですしね』
『それもあるがねぇ。君はこの世界では小さい。つまり、ほぼ全ての戦いの相手は大きいものだ。訓練相手になるもので、ハーフジャイアントは一番大きい部類に入る。つまり、彼との戦闘に慣れればある程度の相手とも余裕を持てるようになるだろうねぇ。だから……死なないように頑張りたまえ♪』
すごくいい笑顔で送り出された。
回想を終え、オグマさんを見る。
6mほど離れているがそれでも大きい。怖い。
でも、ここで生きていくには戦わないと。
負けて逃げるのは……もう嫌だ!
ナナキは感じるままに構える。
腰を落として、四つん這いになりかけるほどしゃがむ。顔はもちろんオグマから離さない。
眼の瞳孔が細くなっていく。手足の爪が伸びる。
いつでも反応出来るようにする。
そんな様子を訓練所の端で見ている人影が『5つ』あった。
「大丈夫かなぁ」
「うわぁ。構えも猫みたいになった」
「ふむん。どっちもいいわねん。原石だわん。いいの見つけたわねん。シィナ」
「でしょ~。ナナキちゃんは可愛いしね~」
「さてさて、どうなるかねぇ」
エリマ達である。その中に新顔がいる。
名前はナラルス。
シィナ、エリマと同じエルフに属している。三つ編みにされている赤みがかった銀髪。褐色の肌を持っている。シィナとエリマとは違う色気がある。
しかし、ナラルスは他の2人とは決定的に違う点がある。
ナラルスは男なのである。
女性と見間違いそうなくびれや顔つきをしており、街に出ると普通にナンパされる。しゃべり方も拍車をかけている。ちなみにこれはわざとである。
ナラルスは腹黒である。女性の格好をしていると相手が油断してくれるからだ。戦いでも交渉でも。
交渉で相手の性別を間違えるのは失態である。
交渉での失態は契約の譲歩か自分の首にて償う。ナラルスはそれを狙っている。だから女性と同じように美の追求を怠らないのだ。
そんなナラルスは現在『朝日の止まり木亭』のオーナーしている。だから、2人が連れてきた存在に興味を惹かれて見に来た。
「エマ。あなたも鬼畜ねん。期待してるとはいえ、いきなり猫君にあの子と戦わせるなんてん」
「だからこそだよラル。一番つらいことは最初に体験しとくべきだよねぇ」
お互いを愛称で呼びながら話すエリマとナラルス。
それを聞いてリュリィが質問する。
「辛いこと?そんなに実力差があるんですか?お互いの戦い方も種族でなんとなくわかりますから対応も出来ると思うんですけど」
お互いに今日始めたばかりだ。職業や種族によって差はあるだろうが全く手が出ないなんてことがあるのだろうか。
むしろケット・シーの方が能力が未知数だ。ナナキの方が分があるようにすら思う。
リュリィの疑問にナラルスが答える。
「分かっててもどうにもならないことはあるものよん。特にあの組み合わせはねん」
リュリィは納得できないようだ。
「見てれば分かるよ。どうにもならない差ってやつがねぇ」
その言葉が終わるのとほぼ同時に戦いの開始が告げられる。
5人ともが会話をやめて2人を見る。
すぐに数人が目を見開くことになる。
「それではPvPファイトォ!」
開始が告げられ、僕は6mほど先のオグマさんの動きを逃すまいと見つめる。
開始と同時にオグマさんが左足を一歩踏み込んだのを見た次の瞬間。
僕の視界が拳で埋まった。
「ニャ゛!?オ゛ゥ!?!?」
僕は突然の拳に驚き一瞬硬直するが、ギリギリで右に跳び回避に成功する。
しかし、後を考えず跳んだので着地に失敗し地面を転がる。
「ぐうぅ!?」
うまく受け身が取れなかったが、無理矢理体を起こしてオグマさんを探す。
すぐにオグマさんは見つかった。
オグマさんは右足を前に出し、右腕を振り抜いた状態で止まっていた。
隙だらけだが僕は動けなかった。
いきなり無茶をして受け身も取れなかったため、ダメージで体がいうことを聞かなかったこと。
そして……
(何が起こった!?なんであの大きさであんなに速い!?)
僕の頭の中も混乱していたからだ。
僕はオグマさんを見る。
オグマさんはゆっくり最初の位置に体を戻して、また構える。
それを見て僕は理解した。気づいてしまった
(2歩?オグマにとってあの距離は2歩の踏み込みで埋まるのか!?あの距離はオグマにとってすでに間合いの中だった!?)
エリマさんが勝てないと言った理由は単純に「間合い」の違いだった。
僕が驚愕し動かなかったため、オグマさんはもう一度攻撃を仕掛けてきた。
挙動は先ほどと全く同じ。ただ……少しだけ力を込めた。
それだけで僕には倍近く速くなったように感じた。
(横は間に合わない!後ろ!……!?無理だ!?)
「にゃ!ぐぅうあぁっ!?」
僕は咄嗟に後ろに跳んだがオグマの間合いからは逃げられず、拳をくらう。
なんとか腕を組み腹への直撃は避けたが衝撃は凄まじかった。
僕は後ろへと吹き飛ばされる。
「ぎぃっ!ぎゅうっ!に゛っ!に゛あ゛あ゛ああぁ!」
3回ほどバウンドし手足に力を込め、爪を地面突き刺してブレーキをかけて5mほど滑って止まる。 15mほどは飛んだ。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
たった2手。始まって3分も経っていない。
それだけで僕の体力はもう限界に近かった。
オグマさんがゆっくりと近づいてくる。
恐ろしい威圧感。
僕は手足の力が抜けて押しつぶされそうになる。
(ぼくっ!まあいはっ!あいつっ!はんぶんっ!もないっ!はやくっ!うごくっ!?いやっ!とどかないっ!っ!くそっ!)
敏捷値は僕の方が間違いなく高い。僕の方が足は間違いなく速い。
しかし、間合いの違いが絶望的だった。
ナナキの腕は50cmもない。オグマに当てるには最低でも1m以内に近づかないといけない。
いくら体の大きさゆえに初動が遅かろうと、6mと1mも差があればさすがに届く前に対応される。そうなるとナナキにはもう逃げ道はない。
詰んでいる。どうしようもなく詰んでいる。
(まだ!まだまだまだまだまだ!何かできる!何かある!)
僕は考える。敗北は無慈悲に近づいてくる。
(!!!あった。まだあった!)
「にゃ゛あああぁぁぁ!!」
「ナナキちゃん!!!」
ファナが叫ぶ。リュリィも口元を押さえている。
「……これはさすがにあんまりじゃないのん?エマ?」
「まさか……あそこまで動けるとは…ねぇ。これは……壁ってどころじゃないねぇ」
「ナナキちゃんは諦めてないみたいね~」
オグマの動きが想像以上に良かった。想像以上過ぎた。
まさか反撃すらさせないとは。
「猫君もすごいわよん?正直最初ので終わったと思ったものん。2撃目も横が間に合わないと判断して、すぐに後ろに跳んでダメージを軽減したりねん。…今も間合いの差と敏捷の意味の無さに気づいても、あきらめずに考えてるわん。それでもあの巨人君の壁は大きすぎるわん」
「そうだねぇ。さすがにここまでかねぇ」
ナラルスの言葉にエリマも諦めの表情を浮かべる。
『にゃ゛あああぁぁぁ!!!』
「!?なに!?」
「っ!!それがまだあったか!」
突如響くナナキの叫びにファナが驚く。
それによる変化をエリマは感じ取った。
ナルシスとシィナがエリマに尋ねようとしたその時。
ナナキによって答えが示される。
『【ピット・フォール】!!』
魔法は使っていいと言われた。そしてスキルはダメとは言われていない!
「【ピット・フォール】!!」
妖精魔法【ピット・フォール】落とし穴だ。
レベルが低いため大きいのは出来ない。
しかし。
「!?」
オグマさんの左足の地面が消えて、左に大きくバランスを崩す。
ナナキが叫んだ時に、構えたのが仇になった。
その隙を僕は逃さず、距離を詰めるようと走る。
「甘い!【地変≪隆起≫】!」
オグマさんは体を支えようと出していた右腕を引き、再度地面に叩きつける。
するとオグマさんの真下の地面が盛り上がる。
巨人族固有スキル【地変≪隆起≫】である。
「くっ!?」
僕は目の前に突如岩が突出し止まらざるを得なかった。
オグマさんはスキルで落とし穴を消し、僕が止まった隙に態勢を整えようとする。
しかし、僕もその隙を見逃さなかった。
「【トリック≪スイッチ≫】」
突如、オグマの真後ろにナナキが現れる。
「!?!?」
「【爪技≪衝≫】!」
振り返ろうとしたオグマさんの頭に向けて飛び掛かり、僕はスキルで攻撃する。
(届け!決まった!)
完璧なタイミングで無防備なところへの攻撃。僕は直撃を確信した。
だからナナキは油断した。
ゾワリとナナキの背中に怖気が走る。
「すまない」
ヴァンッ!
ナナキの攻撃が弾かれた。
ナナキは空中でバランスを崩す。
それでもオグマを見続けた。
だから、何が起きたか理解した。
オグマの筋肉が高速で震えて衝撃波を出したのだ。ナナキの攻撃が当たる瞬間に。
「1つだけ嘘を言った」
何をしたかは分かった。分かったけど。
(なぜそれが出来る?巨人族スキルは使っていた。じゃあマーセナリー?そんな馬鹿な。じゃあなんだ??待て。……マーセナリー?)
僕は違和感を持った。
「マーセナリーはサブだ」
僕は衝撃を受けた。
(マーセナリーは戦闘職だが……ロール系の、サブ職業の性質も合わせ持つ上位職!)
上位戦闘職にはロールプレイを意識させるものが多い。例えば騎士・バーサーカー・勇者・人斬りなどが上げられる。これはサブ職業欄にも選択肢として現れることがある。
ナナキにもキャラクターメイキングの時に【ニャーサーカー】があった。ならサブ職業にも上位職が出てもおかしくない。
(メイン職業にレアがなければ、サブ職業にレアが出現する!?)
「おれは……【武闘家】だ」
武闘家スキル【体技≪体震≫】。それが衝撃波の正体だ。
オグマさんが体を左に捻り、右手を握る。
僕はまだ空中。使える技は全部使った。
オグマさんの右ストレートが放たれる。
僕は結果を受け入れた。一瞬でも勝ちを望めた。
今はこれで……満足だ。
「……オグマは……でかいにゃあ」
体に強烈な衝撃が走り、視界が左右上下に動き回り、また背中に衝撃を感じた瞬間に記憶は途切れた。
いかがでしたか?
難しいですね(-_-;)
ありがとうございました。




