エピローグ②
――決まったのか
執務室を出た直後。背後から聞こえた声に立ち止まると振り返り、声の主であるグラビス様へ「決まりました」と頷きました。
「ブレアム様をお呼びして来ます」
「そうか。ホルスでの一件が決めてか?」
「はい」
政治的な考え方は違ってもブレアム様はこの国にはアリス様が必要と思っておられます。ならばアリス様と保守派の貴族を繋ぐ架け橋という意味でもブレアム様を側近に置くのは妥当。そう判断してアリス様へ彼を宰相にするよう進言した。そう告げるとグラビス様は静かに頷きました。
「陛下が決断されたのなら俺たちはそれに従うだけだ。けどな――」
「わかっています。陛下へ推薦した以上、わたくしもその責を負うものと思っています」
わたくしの本来の役目はアリス様を御守りすることです。出過ぎた真似は控えなければなりません。それでもアリス様が――女王陛下が望まれるのならわたくしは臣下として国造りの一翼を担う覚悟でいます。
「ブレアム様の屋敷へ行ってきます」
「使いを出さないのか」
「陛下から直接仰せ使いましたので」
「そうか」
仕方ない近衛騎士だと肩を竦めるグラビス様は使者を送れとは言わず、わたくしの我儘に付き合ってくださいます。
「ブレアム邸ならすぐの距離だ。小間使いを出すほどでもないか」
「申し訳ありません。戻るまで陛下をお願いいたします」
「任せろ。エーリカ殿もすぐ近くとは言え気を付けるんだぞ」
「大丈夫です。いまはちゃんと近衛騎士ですから」
少しばかり皮肉にグラビス様は苦笑されます。ちょうどその時通りがかった従女にブレアム邸へ行く告げ、グラビス様へ一礼してその場を離れました。
わたくしがブレアム様を推さなければアリス様は別の貴族を宰相に登用していたことでしょう。ならば自ら陛下の前へ連れて行かなければ示しがつきません。
(意見具申したのですから最後まで責任を持たなければ)
ブレアム様へなんと切り出しましょうか。いきなり宰相へ起用すると伝えて良いものでしょうか。
父上がクーゼウィンの宰相を拝命した時のことはよく覚えていません。やはり「陛下がお呼びです」と言うべきでしょう。
(宰相は決まりました。次は何処に手を付ければ良いのでしょうか)
出来れば街の“視察”にはしばらく行きたくありません。それでもアリス様が行きたいと言われるなら今度はしっかり護衛を付けましょう。
(いえ、近衛騎士はわたくしです。わたくしが陛下を守らなければ)
ブレアム邸へ向かう道中、わたくしはそんなことを思いながらもアリス様が目指す国が少しずつ出来上がっていく喜びを感じるのでした。




