第46話
「ほう。避けもしないとはさすがだな。近衛騎士殿」
「わたくしは陛下の騎士です! 陛下を御守り出来るならこの命惜しくありません!」
「そうか。ならば――」
男が再び鞭を振り上げたと同時。アリス様の悲痛な叫び声が聞こえました。
「やめてっ!」
「アリス様!」
「やめっ……」
「ダメです!」
いけない。アリス様が屈しそうになっています。血の気を失くした顔は引きつり、震える身体はいまにも膝から崩れ落ちそうになっています。
「……お願い……やめて……」
「アリス様! しっかりなさってください!」
「こんな状況でも主君の身を案じるとは。その心意気は称賛に値する」
「お願い……エリィを助けて……」
「アリス様!」
立つことが出来ず、ついに泣き崩れてしまったアリス様の名を叫ぶわたくしは自分の置かれた状況など忘れウィレット様を睨みました。
「まったく、こんな貧弱な小娘が王とは情けない。貴様の方がまだ度胸があるじゃないか」
「フェリルゼトーヌの王はアリス様しかいません!」
「そうか。ならばなにも心配することは無いな」
これからが本番だとウィレット様は躊躇うことなく頷き、鞭を振るった男へ合図を出します。
「そういうことだ。恨むなら女王を恨め」
「…………」
「それじゃ、まずは――」
鞭を打つ場所を見定めるようにわたくしを上から下、下から上と見回す男を前に立っているのがやっとのわたくしは硬く目を瞑ります。
「――加減はしてやる」
「……やめて……お願い……」
男の声に被せるようにアリス様の悲痛な声が聞こえます。その時です。
――動くなっ!
耳に届くその声にわたくしはハッと目を開けました。そこには甲冑に身を固めた兵士たちの姿があり、一糸乱れぬ動きでウィレット様を取り囲みました。彼らの甲冑にあるのは王家の紋章。間違いありません。




