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後編

社交会も終わり宮廷は静けさを取り戻す。参加者がぞろぞろと帰途につくが、その口に昇るのは聖女と王太子の婚約についての事だった。




ある者はそれを予感しある者については全く寝耳に水だった。




しかし、ここまではっきりと明言してくるとは。




今後、太子の言うとおりにかの少女と太子の間での婚約は成されるのか。




聖女の今後はどうなるのか。




人々は様々な憶測を巡らすのだった。








だが、そんな事も露知らず、




「ぶはははははははははははは!!!!」




大爆笑する者が一人いた。




「笑い過ぎですお姉さまぁ……」




思わず目の前の少女に嗜められるくらいの大爆笑であった。




「やー、ゴメンゴメン。あんなに上手く行くとは思わなくってさー」




その声の主は先程婚約破棄されたばかりの聖女エリスであった。




「まぁー、でもいいじゃない!あんたもぽっと出のあたしから長年の思い人を取り返せたんだしさー」




「それはそうなんですがぁ……」




どことなくフィフイスの視線が定まらない。




「きーちゃんがあんな事平然と言うのは、何というかショックというか……」




「まあまあ、いいじゃない。これからあんたがあの馬鹿王子を支えてやらないと」




「……はぁい」




ちょっと元気なく返すフィフイス。彼女の心配も無理もないとエリスも同情するが。




金もあるし地位もある。スタイルもいいし身長もある。それでいてイケメン、と良いとこ尽くしの王太子であるが、いかんせん中身があれだ。




しかし、あれでも取り巻き連中に比べれば随分マシな方である。何せ連中ときたら頭はない癖に陰謀好き。ろくでもない事ばかりやらかしているが自覚がない。責任なしに国家機密をチラシ感覚で捏造、不正持ち出ししても平然と居直る連中ばかりである。




その度、自分や勇者が尻拭いやっていてはキリがない。




「それにさー、そろそろ帰らないとアイツがねー」




たはは、と笑うエリス。




「そんじゃあさ、また何かあったら困るしさ、そろそろお暇するわ」




手近なバッグに最低限の荷物だけを詰め込む。衣服もさっきの長いドレスではなくショートパンツにジャケットというラフな出で立ちだ。




「う~、行かないで下さいよぉお姉さまぁ。わたし、とっても不安で……」




大きなため息をつき、そう呟くフィフイス。




「大丈夫、何かあったら駆けつけてあげるし。それに、これがあれば何時でも連絡出来るでしょ?」




そう言ってみせたのは翡翠のはまったネックレス。それはフィフイスがポケットに入れているものと同じものだ。




「これからはあんたがしっかりしないと、ね?」




そう言ってフィフイスの目に溜まった涙をそっと拭ってやる。




そして、今度こそ彼女は出ていった。その後ろ姿を、引き留める事も出来ずにフィフイスは見つめているのだった。






そして、ケビンとフィフイスは無事に婚約し、ついに結婚式がとり行われる事になったのだ。








ケビンは朝から落ち着かなかった。今日は待ちに待った結婚式である。王子としての義務は増えるが仕方ない。それよりも花嫁の姿が待ちどうしくて堪らなかった。




式は進み、いよいよ彼女が現れる。




王子の待つ所まで、一歩、一歩と近づいてくる。衆人はその美しさに思わず見とれ、言葉を失った。




……あれ?




何かおかしい。




虫の知らせがする。




近づいてくるのは確かに彼女なのだが、彼女ではない。




ぞくり。




嫌な予感がした。




その時、王子は猛烈に逃げ出したくなり思わず駆け出そうとした。




が、ダメ……!




既に彼女は目の前まで来ていたのだ。




ベールの裾から唇が覗く。




何時ものあの唇だ。




だか、何か違う!




そうは思っても、体が、皆が、環境が逃げ出す事を許さない!




彼は顔を青ざめさせ、震える手でゆっくりとベールを捲った。








「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」








そこに現れたのは少し切れ長の目をした、しかし落ち着きと包容力をたゆませた、大人の美女だった。




「あ、ああああああああああああああっ!!」




ケビンはその顔に驚愕した。




何故なら、彼が聖女と婚約した時うっとおしかったので追放した筈の侍女の姿だったのだ。




「あのぅ、そんなに驚かれると傷つくのですがぁ」




少ししょげた振りをして笑う彼女の姿に観衆は思わず見惚れるが、王子当人はそれ所ではない。




「ば、馬鹿な!?お前は確かに追放し、し、死んだ筈だぞ!?何で生きているんだよ!?」




「死んだ筈って、この通り、足もついてますよぉ」




ひらり、とドレスの裾を捲ると美しい足が露になる。




「ち、父上!どうなってるんですか!?」




慌てて国王に問いただすが、




「ま、待て!お主は彼女がファティアである事に気づいとらんかったのか!!?」




逆に国王が聞いてくる。




確かに、声と口調はフィフイスそのものだ。だが、しかし、顔はあのファティアなのだ、あの野暮ったかった。




「馬鹿な、詐欺だ、犯罪だ!!こんな結婚は有り得ない!!直ちに婚約は解消する!!」




と喚き散らすが、




「馬鹿な、そんな事出来るわけなかろう!?大体、お前とファティアが復縁すると言うから聖女は心打たれて身を引かれたのだぞ!?今更、お前の一存でどうにか成るわけあるまい!!?」




そう言われてもケビンは納得できない。納得できないものは納得出来ないのだ。




「そ、そうか。お前らグルだったんだな!!?姿形を変えてうまうまと僕に近づいて結婚する。そういう計画だったんだな!?」




「あらあらぁ~、今更気づかれたんですかぁ?」




王子の指摘にフィフイスはくすっと微笑む。




「貴方にぃ、追放された時、本当にショックだったんですぅ。




けど、お姉さまに『あなたじゃないとこの国は救えない、だから、頑張って』って言われたんですぅ。




それで、あたし頑張ったんです。あなた方に気に入られるように。あなたの支えになれるように。あなたを導けるようにってぇ」




「いやいやいや!僕はお前なんかに支えられたくないし導かれたくもない!!」




「でもでもぉ、そうしたらこの件はどうなされますかぁ?」




彼女が手にしていたのは、ケビンが不正に使い込んだ国の資金と銀行からの借金の証文。




「あ、安心して下さい?これはぁ、ちゃあんとあたしが返済しておきましたからぁ」




にこっと笑う彼女に、ケビンは心の底から戦慄した。




「だ、誰か……」




王子は涙をためながら辺りを見渡す。




しかし、皆、この結婚を祝う者ばかりで彼を助けだそうというものはいない。




ふと、見知った顔が目に映る。




そこには勇者と共に参列しているエリスの姿。




「頑張ってね~」と手をひらひらと振っていた。






あ、あの女ああああああああああああああ!!?






王子は叫ぼうと思ったが、フィフイスに、すっと口を塞がれた。




こうして勝負は決したのだった。








かくしてケビンはフィフイスと結婚した。




王子は以前の様な放蕩は行えず、びしびしとしごかれているらしい。




そして、王国は再び平和がもたらされた。




その陰には賢明なる王妃の支えと、勇者や聖女達の助けがあったという。










終わり





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