道連れ
シオンは結局大陸の西側に居た。
南にあるランドゥールから東廻りに南部諸国を巡り、魔族領に向かうつもりだったのだが、ランドゥールと休戦条約を交わしていた西の国が思った以上に西に長く、魔族領から離れてしまったのだ。
マッハ20からすれば誤差とも言える距離だが、シオンはダンジョン攻略の際、マップを埋めてから次のマップへ移るタチである。
とりあえず人間の世界を見て回ることにした。
「ハーレムを作るならやっぱり触手は必須技能だと思うんだよね。とくに双子。『前はお姉ちゃんに譲ってもらったから後ろは私……』とか妹ちゃんが言ってるのを見ると触手があれば全部解決するのに、とか思うわけよ、俺は」
そう話す相手は当然双子である。赤と青い髪しか違いがわからないくらいによく似た2人の少女はシオンの触手に釣り上げられて拘束されていた。
「御託はどうでも良い! 我らを離せ! 怪物め!!」
赤いほうが強気に叫ぶ。
「なに、ひょっとして助けてもらったって思ってる?」
「このまま無事に返せば褒賞は思うままだぞ! それで良かろう!」
「それはどうかな? 少なくとも助けられたはずのキミですら化け物扱いなんだから、そうじゃない国の人間は間違いなく俺こそが襲ったと思うだろうねえ……」
シオンはグルリと首を回す。
そこには血に煙るような凄惨な襲撃痕があった。彼女たちが乗っていた馬車も、それを襲った盗賊たちも、誰も彼もが惨殺され、原形を留めていない。
シオンがこの現場に遭遇した時にはすでに双子たちは2人しか残っておらず、だからこそ遠慮無く殲滅した結果がコレだった。
「馬車の造りを見るにキミたちは王族か、それの準じる貴族ってところ。それをこんなところを馬車1つで走っていたところを見るにワケありで、襲った側も盗賊に見せかけた敵対勢力ってところかね? しかし逃走用の馬車を用意できなかったのかそれともそこまで考えの回らなかったアホなのかでけっこう評価変わるよな、この事態。さておき、法国で見聞きしたところによるとこの先の国では内紛の兆しがあるってことだったからそれ絡み……だろ?」
法国というのはランドゥールの西にあった国だ。
「それでいて無事に返せば……っていうのは誰に返せばいいんだろうな? ちなみに法国に逃げようとしていたんなら今俺に捕まっても同じ事だと言っておくぜ」
「貴様……法国でなにをした!? いや、まずそもそも何者だ!?」
「誰でもないよ。ちょっと触手の生えたお茶目なオニーサン。法国でヤッたことは見るとちょっと発情する虹をばら撒いてきた。今頃はみんな猿みたいに盛ってヤり倒してるだろうぜ」
「き、キサマ!」
ジタバタと暴れようとしても拘束はほどけない。プロポーションを保つための運動はしても戦うために鍛えているわけではないのだろう体ではそれが限界だった。
「キミはもう少し相方を見習ったほうがいいな。ねえ?」
「姉さんは良くも悪くも直情・直感的。ところでアナタ、かなり頭いいわよね?」
「まあ、悪いと言われたことはないね」
「じゃあ取引がある」
「ミアータ!!」
「姉さんは黙ってて。今はこうするしかない」
青い髪のほう、ミアータは淡々と取引の内容を告げる。
「私たちの国を助けてほしい。代償は私の体」
「ミアータ!! なにを言っている! そんなことをしなくても法国に行けばいいだろう!」
「どうやって? 馬車もない、頼れる人もいない。手段がない。仮にこの人に連れて行ってもらっても本当に法国がそんなことになっていたら手がなくなってしまう。だったら初めからここで頼んだほうがいい」
「私たち2人で行けばいいだろう!」
「無理。野営の仕方もわからないし、そうでなくても魔獣に襲われたら一溜まりもない」
「そんなの魔法で!」
「その魔法を使うための杖はもうない」
「ッ…………!!」
「ただし姉さんだけはちゃんと助けてほしい。私が2人分働く」
これはシオンに向けられた言葉だ。
「ふうん? 意外と信用されてるカンジ?」
「盗賊たちをどうやって倒したかすらわからない。これは異常なこと。そしてこの触手が一番の謎。でも間違いなくアナタはこれを使いこなしている。だったらそれに賭けるのは当然のこと」
「いつ裏切るかわからんぜ? という話なんだけど」
「どの道私たちは手詰まり。逆転の目が残っていただけ御の字」
「なんだ、内乱ってのはそんなに終局まで進んでたのか」
「お父様が無能すぎた」
「いいね。そういう冷めた思考は嫌いじゃない」
「成立?」
「『助ける』の具体的な目標によるな。後生面倒見ろと言われても割に合わん」
「そこまでは言わない。ただ私たちの敵性存在の殲滅と姉さんの王位継承を見届けてほしい」
「ミアータ! 私はお前を犠牲にしてまで王になるつもりなどない!!」
「姉さん以外に王は務まらない」
妹のほうはすげななく姉の言を切り捨てた。
「どう?」
「キミら魔法が使えるのか」
「私は防性魔法が専門だから攻性魔法は得意じゃないけれど。姉さんは逆」
「ふうん。魔法を教えてくれるなら自我くらいは残してやるけど?」
「……わかった」
「それと俺の最終的な目的地は魔族領だ。そのつもりでいるように」
「それも」
「では取引成立」
するりと青い髪の妹、ミアータを下ろす。150センチ程度の身長に、手のひらサイズのおっぱい、それと安産型とは言いがたい小さなおしりの少女だ。実年齢はよくわからないが大宇宙の意思により18歳以上なのは確定である。
髪の毛が短いのはたぶん逃亡の際に切ったからだろう。どの国も高貴な家の女性は髪が長い。裕福さを示すのに丁度良いからだ。
「さて、お前はどうする? 取引の兼ね合いで傷つけることはせんが」
ちなみに今は触手を口に突っ込んでいるのでしゃべることもできなくなっている。うるさくて話しがまとまらなそうだったので黙らせたのだ。
ちなみに味はイチゴ味で噛んでもゴムみたいな弾力で切れない。だからと言ってシオンが気持ち良いわけでもない。感覚神経の通っていないただの張り形である。
「ミアータ!!」
触手を抜くと開口一番叫ぶ。
「姉さん」
それを妹は静かに遮った。
「この内乱はもともと私たちが双子だったから起きたこと。だったらせめて幕くらいは自分で閉めたい。それに私はもう王族として過ごすことにうんざりしている。私にとってもチャンスなの」
「だったら自分から……っ! いや、それが出来ないからこうしているのだものな」
激情に駆られやすくともさすがにミアータと双子だけあって姉も聡い。王位を捨てることはそれほど簡単ではないのだ。
「私はこの内乱で死んだことにして。それで四方丸く収まる」
「…………………………ッッ! ……………………わかった」
苦渋の決断を下し、姉は妹の提案を飲んだ。
「降ろせ。もう暴れん」
シオンはミアータに確認すると青い髪の少女はうなずいた。
降りた姉はすぐさま駆け出し妹を抱きしめる。
「ミアータ……」
妹の名を呟く姉の頬には滂沱の涙が流れていた。




