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触手勇者(途中打ち切り)  作者: 刃羽器霧
前振り的なアレ
5/12

確認 その2

お昼休みのお供なので土・日・祝の更新は基本的にありません。

 実地訓練までの3日でわかったことは、少なくともこの国には魅力がないということだ。


 ここ、ランドゥール王国はこの大陸の南端にある。三方を隣接する国とは敵対状態にあり、現在はどことも休戦中だ。ただし条約を交わしているのは西方のみ。

 北方、東方はただの小康状態に過ぎない。


 北の国を超えると魔族領になる。基本的にこの大陸では内部に向かうと魔族領ということらしい。


 魔族はめったに魔族領から進出してこない。一説には内部に向かうほど土地が豊かになるからだと言われている。が、ルドルフあたりは信じていないようだ。

 当然シオンも眉唾だと思っている。


 ただし土地があるのだけは間違いない。

 ランドゥール王国は南部諸国では1番の勢力を誇るらしいが――その理由の一端は当然勇者召喚にある――その彼らでも大陸北部がどうなっているのかは知らないのだ。

 つまり東廻りでも西廻りでも大陸を踏破した人間はいないのだ。


 だから魔族領を目指す人間が後を絶たないかというとそうでもない。

 冒険者など個々人が向かうことはいくらでもありうるが、それでも微々たるものである。理由は単純に魔族領と国を隔てる自然の要害を超えられないからだ。

 国を挙げての進出となると歴史的にも数えるほどらしい。


 そうであれば魔族自体も眉唾に類されそうなものだがそうはなっていない。

 魔王の存在があるからだ。


 魔王。

 魔族を率いる者。これも一説には人間の国王と同じくたくさんいるらしいがはっきりとはしていない。


 唯一つ確かなことは忘れた頃に圧倒的な戦力で以って人間たちを蹂躙し、陵辱していくということだ。

 飽きて魔族領へ帰ることもあれば、勇者に討たれることもあり、いつの間にかいなくなっているということもある。


 ここだけを聞けば少なくとも複数の魔王が確認されているように思うが、本当に彼ら彼女らが魔王だったのかはわからないらしい。

 ただ歴史家や吟遊詩人たちが『魔王』と括っているだけで。


 ルドルフのこの客観的な物言いをシオンはかなり高く評価した。

 宮廷魔術師総長なので当たり前かもしれないが、王という権威が当然である社会において権威に寄り掛からない見方というのはそう簡単にできることではない。


 あるいはヴァイセンと友人だからこそありえるのかもしれないが。


 とはいえ結局はそこ止まりなのだ。

 この国は大部分がルドルフに寄りかかって成立している。そしてそのルドルフも勇者頼みの老人でしかない。


 さらに言えば人類と敵対しているはずの魔王と戦うにはまず人間国家を平定しなくてはいけないという体たらく。

 その平定にまた勇者(たにん)を募るという悪循環。


 少なくともシオンという人間が味方をするには凡庸すぎた。

 あるいはランドゥールという国に対してルドルフは優秀すぎた。


 そのルドルフが友誼を結ぶのに失敗した以上、この国にシオンを取り込むすべはなく、彼はランドゥール王国という国から完全に興味を失くした。


 ヴァイセンも優秀ではあるが、面白みに欠ける。贔屓するからには面白さというのは絶対的な要件だ。


 結論としてシオンはこの国を出ることに決めた。


 問題はどう出て行くか、である。


 魔王よろしく蹂躙してしまってもいいが、人間が嫌いなわけでもなく、あまり禍根を残すような去り方はどうだろうかと思う。

 同様に隣国を潰すのも憚られた。


 結果、誰かを暗殺するか、というところに落ち着いた。


 ちなみに生前のシオンは誰かを殺した経験はない。半殺しなら何度かあるが。

 それでもたぶん躊躇しないだろうという予感がある。


 自分はもう人間ではなく別のなにかだ。具体的には触手だ。


 そういう感覚がシオンを支配していた。


「誰を殺すか決まったか?」


 訓練から4日。会議室でシオンはヴァイセンとルドルフに訊いた。


「そうじゃのう……」


 名残を惜しむようにルドルフが口を開く。

 告げられたのは北と東の有力者合わせて4名。

 殺した証拠をどうするかという話をシオンが持ちだしたがルドルフたちは英霊を信じることにしたようだった。

 むしろ報復なく出ていくこと、そして行き先が魔族領であることに安堵したようだ。


 こうしてシオンは魔族領へ向かうこととなった。


「ま、短い間だったが世話になった」


 身一つでシオンは2人を振り返る。


「達者でな」


 そして返答もさせずにランドゥール王国を去った。

 マッハ20の超速移動である。あっという間に国王と宮廷魔術師総長の視界から消える。


 会議室に残ったのはあらゆる意味で虚無だけであった。



 そのシオンはランドゥールの上空、雲の上に滞空している。

 舞空術と虚空瞬動の合わせ技みたいな機構で飛ぶことができるが、ホバリングは苦手である。だから微妙に飛び跳ねるように上昇を続けていた。


「さて」


 シオンは悪い笑みを浮かべて呟いた。


 蹂躙するつもりはないが、せっかく英霊モドキが現れたというのに成果が暗殺だけでは物足りなかろうという配慮により、オプションで付けてもらった催淫機構を使ってみることにした。


 基本的には液状の、いわゆる媚薬だが、『機構』という以上それだけではない。

 催眠暗示のようなものも備えている。


「存分にまぐわうがいい!」


 バッと両手を広げ叫ぶ!


「ウェザーリポート・ヘヴィウェザー!!!!」


 パァァァと大きな、本当に巨大な虹がそこかしこに現れる。

 そしてフラクタルのように小さな虹も次々に生まれていった。


 この虹を見た者、あるいは小さな虹に触れた者は発情する。それは視覚を持ち、なおかつ交尾をする生物全てに波及し影響を与えた。


 さらに言えば少なくともランドゥールを含む周辺4カ国は間違いなく影響下にある。


「どうせ戦うならベッドの上で……っと、ちょっと効果が強すぎたか」


 遥か彼方の眼下では取るものもとりあえずおっ始めるものが大多数。なんとか諌めているものはさすがに熟練の戦士が多いようだった。

 もっともそれも数分で瓦解するだろうが。


「なおこの虹の効果は俺には無効だ。サブリミナル画像を正確に認識することができるからな。一瞬現れる画像も俺にすれば紙芝居と変わらない速度でしかない」


 一頻り効果を確認するとシオンは悠々と4人のターゲットの元へと飛んだ。


 約束は守るタチである。


 ちなみにターゲットのところへは堂々と侵入し、最中だった首を掻っ切っていった。相手の女がそのことを気にするより先に動かなくなったことに不平を叫ぶのが少しだけ面白かった。


 4人ともブスだったのが惜しい。

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