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触手勇者(途中打ち切り)  作者: 刃羽器霧
本編的なソレ
10/12

西エリア その1

 東西南北それぞれの領土を統括するのが魔王である。


 結論から言えば人間の領域に現れる魔王は代理であったり、出奔した魔族が自称しているだけのまがい物なのだ。


 そして魔族領を大別すれば、南に吸血族、東に悪魔族、北に魔人族が棲む。

 もちろんどれにも所属しないような――たとえば巨人族のような種族も存在するが、そういう一族も必ずどこかの魔王の庇護下に置かれている。


 では西の領域に棲むのはどんな種族かというと、ダークエルフである。

 彼女らは魔人族あたりから『半端者』と蔑まれる弱小一族で、魔王であるアキナヴォアが生まれるまでかなりの長期間迫害を受けていた。


 そのせいなのか連帯感が強く、仲間意識も強い。


 個々の実力はそれほどでもないが軍として連携した強さは4つの魔王軍の中でもダントツである。


「――――状況を」


 短くアキナヴォアが言った。表情は鎧兜の奥に沈み、伺うことができない。言葉だけの印象ならば淡々としたものだ。


「はッ! 斥候からの定期報告によれば対象は徒歩にて進行中。かなり鋭いようで目視圏内に居たものは攻撃を受けております」


 エルフのイメージ通り、なだらかな曲線の肢体を少し露出の高いチュニックとミニスカートで彩った女士官が滑舌よく魔王の問いに答える。幾人か存在するアキナヴォアの側近の1人である。


「被害状況は?」


「いずれも軽微です!」


「敵は高度な催眠術を使う。必ず2班一組で行動。一方の催眠状態に備えること」


「了解しました!」


「向こうからの襲撃は?」


「今のところありません!」


「………………」


 鎧の魔王はじっと考える。


 魔族領は基本的に入るのも難しいが生き残るのも難しい。生きている野生動物の強さが人間の世界に棲む物とは桁違いだからだ。


 ゆえにどの魔王も魔族領と言われている領域のさらに内側に警戒ラインを引いている。

 そこに辿りつけてようやく敵と認識しても良い――というレベルなのだ。


 今回侵入してきた勇者はそういう意味ではかなりできるようだ。足手まといを2人も連れ、歩きというもっとも野生動物に襲われやすい移動手段で入りながら、着々と歩を進めている。


 すると問題となるのは魔族領に入り込んできた理由だ。


 魔王討伐ではないだろう。もちろん最終的な目的はそれかもしれないが、人数が少なすぎる。斥候目的だろうか。


 しかしそうであるなら足手まといを連れている理由が判然としない。


「――――推定目的地は?」


「このまま行けばダールの村に到達します! ですが目的地と考えるには普通すぎます。レベル差があるとはいえ、人間の世界にも同等の村はあるでしょう」


「ダールの村の住人は?」


「アルラウネです」


 緑色の肌をした花の妖精である。サイズは様々であるが全員が女性で他種族のオスを捕獲して繁殖する単性種族だ。


 ただの人間であれば交わった瞬間、精を根こそぎ持って行かれて死ぬが、ここまで来るレベルであればさすがに即死することはないだろう。むしろ調度良い試金石かもしれない。


「――――このまま斥候を続けろ。ダールの村の連中には悪いが試させてもらおう」


「了解しました!!」






 その頃シオンは。


「うまーーーーーーいぃ!!!!!」


 なんちゃってサバイバルを盛大に満喫していた。


 ミアータやリンクスからすればなんちゃってでは済まないガチサバイバルだったが、基本的にシオンがあらゆることを済ませてしまうので、ここ最近は気が抜けつつある。


「うん。おいしい」


「うまうまですにゃ」


 シオンの絶叫リアクションに2人はツッコミもなくモシャモシャよくわからないシャケもどきを頬張る。シオンのうざいテンションにはスルーが一番だとこの1年で理解していた。


「この明らかに天然ではありえないショッキングピンクの身さえ慣れれば、脂もしっかり載ってて、それでいてさっぱりしていておいしい。あと口も悪くない。欲を言えば単調な味わいを変えるための付け合せがほしい」


「魚は天才ですにゃ。旨いですからにゃー」


「お前らこの深海魚もびっくりのグロ造形はシカトかよ」


 言いながらシオンもバリバリ頭からかじる。見た目はグロいが、焼けばパリっとした歯ざわりがよく、煎餅のように食べられる。身を食べた後の骨も同様。


 魔族領に入ってから川には必ずいるので基本的なメニューになっている。


「しっかし、かなり歩いてるけど全然住人がいねえな。時々チラチラ視線を感じるからいないわけじゃないんだろうけど」


「捕まえないの?」


「見てるだけのやつを捕まえるのもなあ……」


「シオンが勇者であることは魔族側も了解しているはず。むしろ警戒しているんだと思う」


「そりゃな」


「うまうまですにゃー」


 ミアータとの会話にリンクスはめったに入ってこない。難しいからだ。


「俺はもっと平和的に触手プレイが楽しみたいだけなんだがなあ」


「ド変態すぎて言葉がない」


「お前らにはしねー。頼まれたら考えるけど、自分からはしねー」


「ぜひそのままのあなたでいて」


「まあこの先はどうなるかわからんがなあ」


 ミアータは魔女っ娘属性、リンクスはそのまま獣耳属性である。いちおう2人ともシオンの触手プレイ射程内ではあるが、やや幼い。


 幼さと触手は食い合せとしては良くない。どちらも男性に対するイニシアチブを与える属性だからだ。生前からそこそこ女性経験のあるシオンはロリにはさほど興味ない。


 むしろ女性らしい体つきのほうが好みである。


 ただし日本人に限る。


 そういう意味でコーカソイド系のミアータとリンクスはかなり微妙なラインにいる。

 これ以上成長してしまえば『美人』の範疇からは外れるおそれがある。

 一方で上手く成長し美女となれば完璧に触手射程に入る。


 この兼ね合いが楽しくもあり不安でもあり。


 つくづく変態である。


「ま、それはそれとして」


 シオンは立ち上がるとズルリと脱皮した。グネグネとゴムのような皮膜が足元に落ちる。

 それを広げてちょうどいい高さで頂点を固定する。それから四隅を地面に固定する。

 固定するのはもちろん硬化した触手だ。

 もう一度脱皮して今度は地面に敷く。

 簡易テントの完成だ。


「今は今なりに相手してもらうぜ!」


 ミアータはため息をついて、リンクスはワクワクとした表情でシオンを見上げた。


 夜どころか夕暮れもまだまだこれからであるが、シオンはヤるときはヤる男である。


 今日の行軍はこれまでとなった。

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