彼女たちのプロローグ
前回までのあらすじ
脱糞の末死んでしまった主人公シオンは触手能力(+α)を神様に授けてもらった上で勇者として異世界に旅立った。
なんやかんやあって人間の世界を蹂躙したあと、改めて魔族領へと向かったのだった。
明らかに邪悪な気配のする触手能力は英霊としての力と偽って。
魔族領・中央――“集結の塔”最上階。
円卓に4人の魔族が集っていた。
1人を除けば全員が美女と言える。その1人も分厚い鎧を纏っているせいで中身が見えないだけだ。
東の席に座る青い肌の女が言った。
「なにやら人間どもが騒がしいようだが」
背もたれの孔から矢印のような尻尾がゆらゆらと揺れる。背中には蝙蝠の羽が生えていて見るからに悪魔という風体の美女だ。眦の鋭い金眼が威圧感を増している。
「少々調子に乗った勇者がおるようだのう」
南の席に座る異様に髪の長い女がそれに答える。
真っ白な肌に同じように白い和服を纏った華奢な美女だ。真っ黒な髪はそれだけで闇夜の深淵を思わせる。それが真っ直ぐに腰のさらに下まで伸びていた。座っているせいで床についてしまいそうなほどだ。
「ほう……勇者。最近は人間どもの諍いに使われるばかりであったが」
正面――北の席に座る褐色肌の美女が頷く。
グルリと円を描くような角と黒目と白目の反転した眼が彼女もまた人間ではないと主張していた。東の席の美女ともども露出の高い服装だ。悪魔風の美女がビキニ状のであるのに対して、彼女は要所要所で孔の開いた、体の線が浮き出るようなワンピースを纏っている。
「中々にイキが良いらしいのう。此方の領の人間どもは壊滅しておったわ」
南の和服美女が楽しそうに告げた。
「それほどの手練か」
北の褐色美女が興味を示す。
「少なくとも催眠能力は魔王級――此方らに匹敵するであろうの」
「催眠? 壊滅の理由はそれか?」
東の悪魔美女が疑問を呈する。
「然り。誰も彼もまぐわいを止めんのじゃ」
「………………」
西の席に座る鎧が視線だけで続きを促した。
「すでに9割位上が腹上死あるいは餓死しておる。催眠にかかったのは1年近く前じゃからのう」
「ずっと解けなかったのか?」
と、悪魔美女。
「催眠自体は2週間ほど続いたようじゃ。その後遺症――というべきか、解けても止められなんだ。今生き残っておるのは精神の強い者だけじゃのう」
「確かにそれができるのであれば魔王級と呼ぶに吝かではないが」
少々がっかりしたように褐色美女が言葉を連ねた。
「魔王に催眠は効かぬからな……」
「然り。此方らには催眠と言わずあらゆる状態異常は通用せん」
「であればさほど脅威ではないな」
悪魔美女も興味を失くしたように言う。
「それがそうでもなさそうじゃ」
楽しそうに口元を歪めて着物美女が煽る。上げた口角から鋭い牙が覗いた。
「此方の手の者からの報告によれば彼奴は目にも止まらぬ速さで動くらしい」
「ほう……」
少なくとも褐色美女は興味を回復したようだ。
「しかしそれだけでは、な」
悪魔美女には一押し足りないらしい。
「うむ。だがこの報告を上げたのはカトブレパスの者じゃ」
「見切りに特化した単眼種族か。であれば期待はできるな」
「………………」
鎧も興味を示す。
「そして面白いのはここからじゃ」
勿体付けるように着物美女は言った。
「……彼奴が此方らの領域に入った」
「ほう……具体的にはどこだ?」
興味津々という具合に褐色美女が尋ねる。
「西」
着物美女の端的な返答に視線が鎧に集まる。
「アキナヴォアのところか」
少し羨ましそうに悪魔美女。
「お手並み拝見というところだな」
褐色美女は楽しそうに言った。
「なんなら手を貸してやっても良いぞ?」
着物美女も邪悪に笑っていた。
「………………」
それを首のふりだけで断り、鎧――アキナヴォアが立ち上がる。
「――――戻る」
短くそれだけを言うとアキナヴォアは円卓の間を出て行った。
「……それで」
後ろ姿を見送り、東の悪魔美女が口を開く。
「なにを隠したんだ?」
視線の先には邪悪に笑う着物美女。
「なんのことかのう?」
「アキナヴォアには言っていないことがあるのだろう? 尤も彼女もそれはわかっているだろうがな」
褐色美女も呆れたように着物美女を見遣る。
悪魔の金眼と褐色肌の反転目が着物美女の赤い三白眼を射抜く。
ニヤリと長い黒髪の美女はそれを見つめ返した。
「彼奴は人間ではないらしい。――曰く“英霊”だとか」
ようやく正ヒロインの登場だぜ……。




