~はじめてのいただきます~
「いただきます」
当たり前に使っている言葉ですが
主人公は改めて考えることになります。
私がそう尋ねると、動物達は顔を見合わせた。
───全部。
「全部?」
───全部。
───全部食べられるよ。
───おいしいよ!
動物達は自信満々に頷いている。
……参考にならない。
「これはどうやって剥くの?」
───剥かないよ?
「えっ」
それなら味見しながら覚えるしかないか。
───そのまま齧るんだ。
横から兎が不思議そうに首を傾げた。
「そのまま?」
───うん。
───おいしいよ。
勧められるまま少しだけ齧ってみる。
シャリッ。
「あ、おいしい」
甘さの中に少しだけ酸味がある。
りんごのような味だった。
───でしょ!
───おいしいでしょ!
なぜか動物達が得意げだ。
「でも料理に使うなら切った方が良さそう」
とりあえず食材を並べていく。
見たことのないものばかりだが、
なんとなく見覚えのある物もある。
葉物野菜のようなもの。
芋のようなもの。
果実らしきもの。
そして魔物の肉。
「うーん……」
腕を組みながら食材を見つめる。
考え込んでいると、動物達が次々と覗き込んできた。
───決まった?
「まだ決めてないよ」
───えぇー。
「えぇーじゃないよ」
「よし、とりあえずスープかな」
───すーぷ?
───何それ?
「えっ」
「煮込んで、」
そう説明を始めようとして、言葉が止まる。
相手は森の動物達だった。
煮込むという発想自体がないのかもしれない。
───火で温めるの?
───なんで?
───そのまま食べればいいじゃん。
「そのままでも食べられるけど……」
並べられた食材へ視線を落とす。
「温めた方がおいしいものもあるんだよ」
───おいしい?
───もっと?
───本当に?
「あとね、人間だとお腹壊しちゃうかも」
───じゃあ、あの人みたいにきらきら〜って作ったら?
「あの人?」
───寝てる人!
───いつもきらきら〜ってやって食べてるよ!
「あぁ……」
昨日見た魔法を思い出す。
たしかに便利そうだった。
けれど。
「私、魔法使えないから」
その言葉に動物達は固まった。
───え?
───使えないの?
───人間なのに?
不思議そうな視線が集まる。
「それに、こっちの方が慣れてるしね」
その後は手伝ってもらったり、
逆に邪魔をされたりしながら料理を続けた。
そして、ようやくご飯が出来上がった。
「できたー!」
───おぉー!
───いい匂い!
───早く食べたい!
動物達の歓声を聞きながら、
出来上がった料理をテーブルへ運んでいく。
一皿。
また一皿。
並べ終えた頃、
「……ご飯の匂い」
気だるそうな声が部屋に響いた。
振り返ると、
ソファの上で女性がゆっくりと体を起こして
伸びをしていた。
匂いにつられ、ぼーっとしたままふらふらと椅子に座ると
「……食べてもいいかしら」
「まだ」
「みんなもテーブルに」
───はーい!
元気よく返事をした動物達はテーブルに集まった。
「じゃあ、いただきます」
そう言って、いつも通り手を合わせると
───“いただきます”ってなに?
───なんで手を合わせるの?
そんな質問が飛んでくる
「えっと……」
少し考える。
当たり前のようにやっていたけれど、
理由を聞かれると難しい。
「命や食べ物、作ってくれた人に感謝する挨拶……かな」
───感謝?
───木の実にも?
───お肉にも?
「うん」
「みんなにも感謝の意味を込めてだよ。」
動物達は顔を見合わせ、頷いた。
そして、嬉しそうに尻尾や耳を揺らす。
───だったらボク達も、作ってくれた感謝を込めて!
その言葉に続いて
───いただきます!
───いただきまーす!
女性はまだ眠そうなまま
「……いただきます」
そう呟いてスプーンを手に取った。
一口食べる。
二口目も食べる。
そして。
「おいしい」
その一言と同時に、動物達も一斉に料理へ飛びついた。
───おいしい!
───あったかい!
───柔らかい!
───いつもの木の実と全然違う!
あちこちから歓声が上がる。
「そんなに?」
───うん!
───すごい!
───魔法みたい!
「それはちょっと違うかな」
思わず笑ってしまう。
気づけば私もスプーンを手に取っていた。
温かいスープを口に運ぶ。
見知らぬ世界の食材。
初めて作った料理。
そして、一緒に食べてくれる仲間達。
「……おいしい」
自分で作ったはずなのに、
いつもより少しだけおいしく感じた。
窓の外には綺麗な月明かりが広がっていた。
賑やかな声はしばらく止むことがなかった。
初めてみんなで食卓を囲みました。
主人公にとっても、森の仲間たちにとっても
初めての体験でしたね。
楽しくなっていつもより少し長くなってしまいました、
次回は女性との関係性、進むのでしょうか?




