表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コロの窓辺〜犬の気持ち〜  作者: 雨後乃筍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/9

9.キラキラの匂い

 ボクは、今、毛布の上で眠っている。外は、青々とした匂いがする。きっと、また、あの新しい季節が来たんだ。


 ボクは片目を開けてみた。ぼんやりとした光の中に、その新しい匂いを感じる。


 とても、とても眠い。


 瞼が重くて、開けられない。体の力が、全部、ふわふわと抜けてしまいそうだ。


 パパとママの声が、遠くで聞こえる。最近いろいろな音が聞こえなくなってきた。二人は、ボクの頭を、何度も、何度も撫でてくれている。その手のひらは、とても温かい。二人の匂いは、悲しいけれど、今は優しさの方が強い。


 でも、ボクは、起きなければならない。

 ボクの仕事は、待つことだから。

 キミちゃんが、もうすぐ帰ってくる。

 今日キミちゃんが帰ってきたら、すぐに起きるんだ。


 そして、キミちゃんの匂いを、たくさん嗅ぐんだ。

 キミちゃんに、ボクがずっと待っていたことを、全身で伝えなくちゃ。


 ああ、眠い。うとうと。


 パパとママの声が聞こえなくなった。

 部屋のあかりが暗くなっていく。


 少し怖い……。

 少し寂しい……。

 ……遠い、遠い。とても遠い場所から、誰かの声が聞こえた。


「コロ!」


 ボクは、全身の毛が逆立つような、強い喜びで、耳をピクッと動かした。


 キミちゃんの声だ。

 重い瞼を開けて、窓辺を見る。窓辺に行かなくちゃ。それがボクの仕事。

 いつもの、ウキウキする足音が、聞こえなかった。

 ボクの耳は、もう、音を聞くのが下手になってしまったのかな。


 全然気づかなかった。


 すごいよキミちゃん、いつのまにか、ボクのすぐそばに来てくれたんだ。

 ボクの背中を優しく優しく撫でてくれる。

 ボクは、うれしくって、心臓がバクバクする。


「コロ!」


 キミちゃんが、もう一度、ボクを呼ぶ。

 声が近い。ああ、キミちゃんの匂いがいっぱいだ。

 うれしい、うれしい。

 ボクは、精一杯、尻尾を振った。


「コロ、行こう」


 キミちゃんの声が、ボクを優しく包み込む。

 その声を聞いた時、体が軽くなった。まるで重い布団の中から出たみたいに。

 その声は、あの朝、キミちゃんがボクの頭を撫でてくれたときの手の感触みたいに、温かくて、柔らかい。


 どこへ行くの、キミちゃん? たのしい散歩? 秘密の場所?

 ボクの目の前に、光が見える。


 窓から入ってくる、朝の光でも、午後のオレンジ色の光でもない。


 もっと、もっと、暖かくて、やさしい光だ。

 キラキラって、ボクを呼んでいる。

 この光の中には、悲しい匂いも、心配な匂いもない。

 ただ、喜びの匂いだけがある。

 キミちゃんの匂いがする。

 色々な匂いが混ざっている、大好きな匂いだ。

 キミちゃんの匂いが、ボクの全身を、隅々まで満たしていく。


 キミちゃん、一緒に行けるね。


 キラキラの光の洪水が、ボクとキミちゃんを包んだ。どこまでも大好きな匂いに溢れた光。


――ありがとう。


 誰が言ったの?

 パパ?ママ?それともキミちゃん?

 ああ、これはボクの言葉だ。


――ありがとう。


<コロの窓辺 完>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ