8.ジリジリと暑い匂い
そして、光がまた熱を持ってきた。
窓ガラスに触ると、体が焼けるような熱い匂いがする。
熱い光が、ボクを包み込む。
この熱い光の中で、ボクはうとうとと眠ってしまうことが多くなった。
この季節は、キミちゃんが一番、ボクと長く一緒にいてくれた。
キミちゃんは、庭で水遊びをするのが大好きだった。
ホースから飛び出す、キラキラした水しぶきを、ボクは追いかけて跳ねた。
キミちゃんは、ボクが濡れても気にしなかった。
「コロ、もっと遊ぼう!」って、キミちゃんは、水しぶきの中で笑った。
水と、熱と、キミちゃんの笑顔の匂い。水が地面から白い煙となって上がってくる。
ボクとキミちゃんは、水だらけになって、ボクがブルブルって体を震わすと、キミちゃんがキャッキャッって笑ってた。
それがたのしくて、またキミちゃんのそばに行く。キミちゃんも水だらけだけどブルブルってしない。
ほら、キミちゃん、こうやるんだよ? ボクはもう一度お手本を見せてあげたんだ。それを見たキミちゃんが笑いながら「もう、コロやめて!」って言ってたんだ。
そうしてキミちゃんとボクはママから渡されたフワフワのタオルで包まれていた。キミちゃんにゴシゴシってされたけど、ちっともイヤじゃないよ。とってもいい気持ち。ブォーンってすごい音のするやつはちょっと怖いけど、でもキミちゃんが一緒だから平気だった。
そしてママがいつもおやつを用意してくれたんだ。こんな時はキミちゃんとボクは同じおやつを食べる。
甘くて赤くて、みずみずしいおやつ。キミちゃんと一緒のおやつ、おいしかったな。
今は、ただ熱い窓辺で寝ているだけ。でも、眠っていても、ボクの耳は、ちゃんとあの音を待っている。
キミちゃんの「ただいま」という声は、ボクの心臓の音と同じで、決して消えることはない。
ボクは、夢を見る。
夢の中のキミちゃんがボクを呼ぶ。笑いながらボクの名前を呼んでくれる。いつまでも、あの頃と少しも変わらない。だからボクも尻尾をブンブン振るんだ。
そして、窓の外は金色になって、カサカサの匂いがした。ボクは、もう窓辺に座っているのが辛くて、パパとママが敷いてくれた、フカフカの毛布の上で寝ている。
ママがボクの鼻先に水のお皿を持ってきてくれた。ママが優しく背中を撫でてくれている。
ああ、気持ちいい。
ボクはちょっとだけ目を開ける。最近すぐ眠くなるんだ。散歩も歩いている時間より、抱っこされている時間の方が長くなってきた。
見上げたママの顔がちょっとだけ寂しそうだった。
ママ大丈夫だよ。もうすぐキミちゃん帰ってくるから。待っていれば帰ってくる。だって待つのがボクの仕事だから。
窓から見えていた、いつもキミちゃんが曲がっていく角が、最近見えなくなってきた。チラチラと光の揺らぎが見えている。誰が歩いているの?キミちゃん?
景色は、何度も、何度も、変わった。
ボクは、ずっと、ずっと待っている。それがボクの全てだから。
<つづく>




