67話 『神の■■、トウマ・カガヤ』
「他人の生死を狂わせる……まさか……!」
「『手帳』が正しくいい例だね」
「これも、お前が?」
「うん? それはボクじゃない。ボクの方こそ、君に渡した神物を知りたいものさ」
当てが外れたら、とでも言うべきか。彼女がもしもトウマの所有する『手帳』を渡したのであれば異世界召喚の原因も彼女なのだが、どうやら違うらしい。
「まぁそれは調べればすぐに分かることだからさ。これは省くね」
「……分かった」
「さっき述べたように、異世界人はボクたち神様にも理解不能な存在。容姿こそ同じ人間だけど、未知の力を秘めている。魔力も持っていないのに不思議だよね」
「魔力の消費が呪いの解呪に繋がった要因は何だ?」
「ただ消費するだけじゃ無理だよ。ボクだって試したけど、無理だった。だから異世界人の未知の力と、ボクの呪いを中和させてる間に、魔力を消費する。君は、魔力ゼロだから魔力を受け止める器を作る所だったけどね」
「その器を作るにも魔力が?」
「その通り。後は君がボクの魔力を使った通りさ。旅期間中に始まり、サラディンに来てからのこと。有難いことに、魔力消費の激しい転移魔法を君は選んでくれた。本当に歓喜極まったよ」
「だけど、これらは全て過程に過ぎない。ボクの目的はそこじゃない。天界からボクを追放し、悪巧みをしている悪神を排除することだ」
ギュッと拳を作り、全身に力を入れる。
「誰だよ、その悪神ってやつは」
「君も良く知っている人さ。なんなら対面したこともある」
「……あいつか? あの、『最悪』野郎」
「……それも違くはないね。悪神の仲間だから。というよりもさ、君気がついてる?」
「何が? 俺が死にかけてることは微塵も忘れてないぞ」
「違う違う。その『最悪』とやらに記憶を弄られてるの」
「は? どういうことだよ」
「いや読んで字のごとくなんだけど。『最悪』の名前、忘れてるよ。それだけじゃなくて、あいつとのやり取り諸々。見る限り結構好き放題されてるね」
「あの野郎……じゃあ、俺が時折忘れていることがあるのは全てあいつのせいか?!」
ミユという少女との関わりや、その死にまつわること。辻褄の合わないことが、その『最悪』とやらのせいなら合点がいくのだが。
「いや、奴が消しているのは自分と接触した時だけだね。二つ名だけ消さないのは、あいつの性格が出てるな」
「そうなると、俺はやっぱり『手帳』の代償で失ってることもあるのか……」
「残念ながらそれはそうだね」
「なぁ、どうしてだと思う? どうして俺がその『手帳』を持っているんだと思う? 俺が異世界人だからか? はたまた俺に特別な理由があるのか? でも俺は平凡な家庭出身だから、そんなことは無いはず。じゃあなんでだ、どうしてだ?」
「落ち着いて落ち着いて。さっきも言ったけど、ボクが渡した訳じゃないからそれは分からない。でも、これだけは言える――」
「君が変えることで生じるエネルギーを狙ってる」
「……? ますます分からん。どういうことだ?」
「まず、君はどうして『手帳』に書かれた死を変えてるんだい?」
「えぇと、それは帰還するためのエネルギーを集めるためかな。魔法陣を作ることができても、そこに流し込むエネルギーが足りないから」
「帰還のためのエネルギーはどうすることで発生する?」
「他者の死を塗り替えた時……それがあれか? 異世界人によって狂わされた因果律、それがエネルギーに変換されるのか?!」
「そ。で、そのエネルギーは魔力以上に強力であらゆる事の代わりが利く。君の作り出すエネルギーはとても危険だ。一歩間違えれば世界を滅ぼしかねない」
「滅ぼす、まさかそれで世界を――」
パズルピースのようにあてがわれている事象。ラストピースを嵌めようとするトウマに、彼女は否を叩きつけた。
「滅ぼすんじゃない、邪神を復活させるんだ」
「何だよその厨二病チックな展開ぃ!」
「些細なことじゃないよ。何せ、本当に復活仕掛けているからね。復活したらこの星は終焉を迎える」
「はぁ……で、そいつの目的はなんなの? 世界を統べたいわけ?」
「知らない、ボクが知ってるのはそこまでさ。だから、君は今後今まで以上に人を疑わないといけない。エネルギーを狙わんとする人物は絶対に近くにいる。だから君には誰にも関係を持って欲しくなかったんだけど……」
「いや、無理だよ。だって俺はこの世界で、一人で生きていける自信がない。ましてや、唯一俺の何から何まで知っているお前も失うんだ。
俺が今の今まで一人なら、本当に独りになる……。そんなの。無理に決まってる」
「……苦しいだろうけど、そうしないといけないんだ。圧をかけるようで悪いけど、君の選択で世界は大きく変わる。ボクとしてはあらゆる世界を、君を脅威から守るため、誰とも関わって欲しくない」
彼女の言葉にトウマを口を紡ぐ。全てはトウマという人間を守るために彼女はミレーユを助けるなと言った。
しかし、やはり無理だ。知識も無く、仲間も無しに知らない世界を歩くのは危険極まりない。
ガリッと奥歯を噛み締めた直後、強い眠気をトウマは感じた。
「もう、時間だ。寝覚めの時が来てるみたいだね」
「最後に君に――なきゃ――ことが、あっ――」
彼女の言葉も絶え絶えに聞こえるようになって来た。それでも耐えねばとトウマは踏ん張りを利かせる。
「君はボクの■■なんだ。――の■■、また――う」
途切れ途切れの言葉に耳を傾けることも出来ず、トウマは意識を手放した。




