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54話 『孤独に別れを』

 驚天動地――、ことわざで「青天の霹靂」と人は称す。まさしく雷が全身を駆け巡ったかのような衝撃と驚愕。天をもどよめきかせる痺れがトウマの全身を駆け巡ったのだ。


『奇跡の人』などという厨二病チックな諡が与えられている自分? らしき人物にトウマは開いた口が塞がらなかった。

 物語の時間軸は二百年前、タイムマシンならぬ便利道具が出せる某アニメのキャラがいたら是非とも出して欲しいのだが叶わぬ空虚な妄想に過ぎない。


「いやいや! 馬鹿げてるって!」


 地面を這うように移動しながらトウマは一度は捨てた書物を拾い上げる。挿絵と長ったらしい文章。まるで何かの報告書のような形で、だけど普通の本という印象は持ってて、不気味な蔵書だった。


「……なんだよこれ、本当に俺か??」


 挿絵の中、無数の管に繋がれたカプセルの中に閉じ込められているかのような状態の青年はトウマと瓜二つ。俗に言うドッペルゲンガーだ。

 この場に鏡は無いが、それが自分であることくらいトウマでも分かる。この世界で自分の顔を拝んでいるのは自分なのだから。


 苦い珈琲を飲んだ時のように顔を顰めながらトウマは絵から文章に視線を移す。以前までのトウマであればすぐに放棄しただろう。しかし、魔導書を読んだトウマからすればどうということは無い。


「何か、自分の英雄譚みたいなのを読むのって気持ち悪いな」


 自分で自分の歴史を振り返ってみると「こうしておけば」「これで正しかったのか?」などと、後悔が多く掘り起こされる。大抵の人がそれに嫌悪感を抱くもので、トウマも例外ではない。


 それでも目を背けまいと視線を文章に釘付けにするトウマ。

『二百年前』に存在するはずのない自分がいた事に矛盾を覚えつつ、読むのだが――、



※※※



 トウマ・カガヤは英雄である。

 『二百年前』の人魔総力大戦争において、人間側の大将として全体の指揮を取った人類の英雄。


 その出自は全くもって不明であり、彼は突如としてシュラーゲル王国史に名を表すのだ。かの『言霊の神』こと名家出身のヘルメス・アーサーと共に。


 だがトウマという人間はどこまでも謎で、その後忽然とシュラーゲルの歴史から消え去る。活動期間は恐らく一ヶ月程。皇族次女との魔法訓練に明け暮れていたと思われる。


 そもそも、剣士であるのか、魔法使いなのか、貴族なのか、皇族なのか、どれに該当するのか予測が立たない。

 王国を去った後は隣都市、『サラディン』にて謎のミレーユという少女と行動を共にしていたらしく、何かの魔法を追い求めていたようであった。恐らくは彼の代名詞『転移魔法』をここで育んでいたものと考えられる。


 魔法都市サラディンは最先端魔法都市で――


 サラディンを去りしトウマは■の友と■■■■の森に入り、■■兵と交戦。これに■■し、■■■で■■■■と、■■■■■あ■■■――――――




 トウマ・カガヤは常に他人の死に敏感な性格であったと言われている。誰かの死をまるで嗅いでいるかのように選別し、行動。仲間の命を何回も救って来たと言われている。(■■■■からの供述)


 しかし、最期は寂しいものであった。

 人魔総力大戦争を勝利に導いた彼は、戦後の翌日卒倒。彼の側近■■■■が最期の言葉を受け取り、死を看取ったと言われている。


「友を守れて良かった」


 これが臨終を看取った仲間が口にした言葉である。


 世界を救った英雄を死なせる訳にはいかぬ、と世界中の回復魔法士を集結させ、彼の命を完全に落とさぬようなんとか今日まで肉体を保っている。

 だが、どれだけ最高峰の回復魔法掛けても彼は目を覚ますことは無かった。


 まるで魂が抜け落ちているように――。


 突如として現れ、世界を救い多くの命を救った英雄は世界を救うために産まれた『奇跡の人』であると伝えられている。

 だが、どうやら野暮な考えを持つ人間もいるらしくトウマ・カガヤを異世界人と称す人間が一定数存在する。


 その真実の真偽について仲間は一切語ることはせず、皆各々の帰るべき場所へと散って行った。いずれの日か本人が目を覚ました時、真実を確かめ、歴史を動かす日がくることを信じて終わりとする。



※※※



「最後の最後まで良くわかんねぇな」


 読み終えてみれば呆気ないと思ったトウマは感想を述べる。

 自分と重なる点はあまりにも多かったが、未来の事ばかりで矛盾点を探そうにも無理だった。

 加えて文字が廃れていたり、インクが抜け落ちている箇所があって重要箇所が読めなかった所もあった。


「これがもし本当なら俺は帰れなかったのか……」


 この書物の通りに未来が進むのであればトウマはこの世界で生を終えることになる。恐らくだが死亡時の年齢も相当若いだろう。


「友を守れて良かった、か」


 重ねてにはなるがこの未来通りに進むのであればトウマは人を守って死ぬ。それも『友』という言葉を遺して。


 友という言葉がトウマの心にフックを掛ける。

 友という言葉は良い。響きが、意味が、概念が、全てが良い。この単語を聞いて嫌悪するものはまず世界には居ないだろう。


 共に助け合い、努力し、慈しみ、時には憎み、恨み、それでも相手を一生の仲間として許してしまう。それが友だ。


「…………」


 トウマは少し心がキュッと締め付けられたような気がした。

 この世界に来てからというもの『友達』と言い切れる人間と関係を育んだことが無い。

 ミレーユは果たして該当するのか。向こうがどう思っているのか知らないが、現状、トウマは友だと思っていない。


 作りたい、などと思ったことは無い。

 否――()()()()と言い切った方が良いだろう。


 恐れているのだ。トウマは存在自体が呪いに等しい。彼の持っている『手帳』は自分だけでなく、周りの人間も不幸にしている。自分と関われば、その渦に呑み込まれるかもしれない。

 助けるなどと簡単に言い切れるほどトウマは出来た人間では無いのだ。死因が自分と思っただけでも吐きそうになる。


 故に『友』という存在を作ることはせず、他者とは一定の距離を保ち、境界線を引いている。自分にとっても相手にとっても人生という長い旅の中で優雅に生きることができるよう一歩、いや三歩ほど引いてトウマは相手をいつも見ている。


 もちろんどうしようもないほど困った時は手を差し伸べるが、それ以外は再び距離を置く。

 それを貫くこと、もう一ヶ月が過ぎた。意外と余裕などと啖呵を切っていたが、この書を読んだ瞬間、自分の中で何かが音を立てて崩れた。


 砂で出来た城が崩れ、ただの砂に返ったように、今までの自分の信念にリセットが入った。


「友達か……」


 元の世界に何人か少ないが友達は普通にいる。

 別に孤独でも平気だ。どうってことは無いのだが、「そうか、友達か」と再び口にするトウマ。


『キャハッ! 仲間っていうのは良いよねー、何モノにも変え難い財産に成り代われる存在だからさ!』


「お前……!」


 忌々しい笑いと共に自身の内側から身を起こした『最悪』の生き物に反応するトウマ。するとまた「キャハ!」と小悪魔的に笑うと、


『友達ってね凄く良くてねー、欲しいものに手が届かない時とかー、望んでいるものをあげる時とかー、良いものをくれるんだよねー!』


「お前の言葉には耳を貸さねぇ、早く失せろ」


『それでいてね友達って、壊れやすくもあるんだよね! たった一回の衝突で関係が壊れて二度と戻らないこともあって、自分は修復したくて止まないのに相手はもう過去の記憶に囚われずに前を向いててー』


「……」


『でもー逆に言えば一回で好転することもある! あの子みたいにどん底から這い上がって来たことに惹かれて一生の財産を手に入れる、なんてこともある!』


『孤独が怖くて怖くて、死ぬのが恐ろしくて恐ろしくて、距離を取りたい! でも自分一人じゃあなんとか出来ないことが多い。時には誰かに手を差し伸べて欲しい、そんな君に必要なのが友達! キャハ!」


「……満足か? 終わったならさっさと失せろ」


『えぇ? どうしたの? 前にも増して不安と恐怖の色が強くなってるよ? 泣いちゃう? 震えちゃう? 死んじゃう? 死んじゃうの?』


「……く、黙れ! 俺は一人でやって行けるはず、だ」


『無理無理、私が忠告してあげてるんだから大人しく聴きなよー! 君じゃあ無理だよ、一人で異世界帰還なんて目処すら立ってないでしょ?』


「いや、この魔法陣さえ完成すればーー!」


『無理だよ? 忘れちゃった? 魔法陣に流し込む魔力は圧倒的に足りないよ? その補填はどうするの?』


「……っ、魔晶石でなんとか」


『キャハハハ! 無駄無駄!! 魔晶石を使って異世界転移なんて世界中からかき集めても足りないのに! 無理だよ! キャハハハ!!』


「……ちっ」


『孤独、それはまさしく君みたいに自分一人で何とかしようとする傲慢人のことを言うのかもね。帰りたいんだったら大人しく友達を捜した方がいいんじゃない?』


 何も言い返せないトウマはフッと頭を過ぎったことがある。

 勇者などと呼ばれる人間はいつも仲間に囲まれている。魔王を討伐し物語の主人公となる勇者は決して一人ではない。


 勇者とて一人の人間で出来ることに限りがある。それは得意不得意の面だが、心の面でみればどうだろうか。どうしても挫けそうな時、寄り掛かることが出来る存在も必要だ。あと一歩で届きそうなのに届かない。圧倒的に足りない部分。


 自分で補うことが出来ない部分を友というものによって埋め、大いなることを達成する。果たしてその時、勇者は隣にいる人間が自分のせいで死んでしまったら、などと弱気なことを考えるだろうか。


 答えは決まっている――考えない。

 何故か、勇者にはその最悪の結末を塗り替える自信とそうさせないための未来を作り出す自負があるからだ。

 

 くれたものにはお返しを、きちんと勇者は仲間を引率し先陣を切る。飽くなき脅威から守り、人々の心に光を灯す。

 そして最後、全てを終えた後に仲間に振り返ってこう言い放つのだ、


「君たちがいてくれて良かった」


 死などという未来に怯え、守ろうとしているトウマもまた正しい。だがそれ以上に勇者の判断は適格。トウマのように守る方法はあるにしても、それではいつか折れてしまう。


 一本の矢は脆く、弱い。だが束となれば万力の握力をも耐え凌ぐ。

 

 もしかしたら想像が出来ないのかもしれない、死という未来を乗り越えても再び襲いかかる死を乗り越え未来を。そして、その未来から守り切れる自分の像を――。


 故に留まっている。故にこうして孤独と常に戦わなければいけない。一度でも人を信用すれば良いものを、他人の言いなりになって頭を下げる必要は無かったのかもしれない。


 やり切れる自信が無いから逃げ続ける、ならば逃げられない配置に自分を動かす。その盤上に自分を登場させ、布石を打つ。

 出来る、出来るはず。今まで一人でやっていたことが出来た。二人なら、三人ならもっともっと大きなことが出来るはずだ。


「……はっ、孤独に別れをだな」


『キャハ! いいの? 信じちゃうの私の言葉を? あの子を無視して私を?』


「違う、お前らを信じる云々じゃなくて俺は自分を、関わった人間を信じてみる。俺()()なら乗り越えられるってこの先証明してみせる」


 立ち上がって、自分の拳を強く握る。

 これからは友を信じる。まぁ作り始めるところからだが……。


「こんな辛気臭い場所に居られるか! こんな過去の出来事なんてどうだって良い、俺は俺の道を往く!」


「手始めにまず、牢屋に捕まっている初めの友、ミレーユを救いに行く!」


「いざっ!」と力強く自分の胸を叩きながら冷たい石を蹴り抜いたトウマは真っ暗で入口の小さい扉から部屋を後にした。そこに孤独という感情も置き去りにして――。


『最悪』は動き出したトウマを見て大きく、汚げに口角を上げた。そして、本人には聞こえないように小さく、小さく呟いた。



『貪欲の加護 エッセン・グルック』

 

 トウマの体全体から滲み出ている正の感情の縁を、大きく口を開けて自らの体内に取り込んだのだ。

 

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