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103/177

103話

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 身体の復元。


 それは、魔法使いの中でも希少な回復技術を持つ術師の――さらに、その中でも限られた者にしか扱えない技術。


 そして、内臓の復元となれば――その数は、さらに絞られる。


 今、ランは――その領域へと、足を踏み入れようとしていた。


「絶対に、無理です!」


 アスリッタさんが、声を張り上げる。


「ランさんは、既に魔力欠乏の一歩手前なんです! これ以上無理をしたら――ランさんの命が、危険です!」


 アスリッタさんは、なおも続けた。


「第一、我が国でも、内臓の修復ができる術師なんて――いません! 大陸中を探し回っても、十人いるかどうか……!」


 ランは、その言葉を受け流すようにして、静かに集中を始めていた。


「アスリッタさん!」


 俺は、頭を下げる。


「できることは、全部、やりたいんです! お願いします!」


「……はぁ」


 アスリッタさんは、深く息を吐いた。


「まったく……あの人の孫ね。……わかったわ」


 そうして、ランのサポートを引き受けることを、了承してくれた。


「ランちゃんが、本当に危なくなったら――止めるからね。いいわね?」


                       ◆


 ランは、イメージの構築を終え、魔法を組み上げた。


 魔力を圧縮し、光属性へと変換していく。


 ――光が、ランの掌から、父さんの身体を、優しく、温かく照らし出した。


「ランさん。脾臓と、胃壁の損傷さえ修復できれば――何とかなるわ」


 アスリッタさんが、傷口からそっと手を差し入れ、患部をランに見せる。


 ランは、まず――脾臓へと、光を集中させた。


 光は、まるで小さな虫の群れのように形を変え、破れた脾臓の周りへと、集まっていく。


 ――ランは、今、極限の集中状態にあった。


 何十億もの、小さな、小さな、肉の粒。


 今日初めて知った、その概念。


 それをイメージし、魔法として組み込む。それには、並々ならぬ想像力と、センスと、そして高度な魔力操作技術が――同時に求められる。


 ランの才能は、この極限の場面で――確かに、開花していた。


 光の虫たちが、細胞の活動を、急激に活発化させていく。


 細胞が、分裂を、急速に繰り返し始めた。


「そんな……すごい……」


 アスリッタは、驚愕に言葉を失っていた。


 幼少の頃から水魔法の回復系統を中心に修めてきた、自他ともに認める神童――その自分でさえ、到底辿り着けなかった、内臓の修復。


 それを、まだ成人にも満たない子供が、成し遂げようとしている。


 脾臓は、うにうにと組織を伸ばし――そして、ついに。


 破れていた部分が、繋がり――修復された。


「ひ……脾臓の修復を、確認しました……!」


 アスリッタさんが、驚きに目を見開きながら、震える声で報告する。


「はあ、はあ、はあ……次、お願いします」


 ランは、もはや汗も干上がり――唇はカサカサに乾き、青紫色に変色していた。


「ランさん! もう、限界です!」


「大丈夫、です。……次を」


 ランは、鬼気迫る表情で、アスリッタさんへ次の指示を促す。


「……あとは、胃です。ここが――一番、損傷が大きいです」


 ランは、光虫をさらに生み出し、胃の修復へと向かわせた。


 胃の壁が、少しずつ、少しずつ伸びていき――修復が進んでいく。


 だが。


 胃の損傷は広範囲に及んでいた。


 ――半分ほど、修復が進んだところで。


 その進行が、ぴたりと、止まった。


「ランさん!!」


 アスリッタが、叫ぶ。


 ――ランが、糸が切れたように、崩れ落ちた。


 アスリッタさんが、すぐさま駆け寄り、抱き起こす。


「……魔力欠乏症です。残念ですが……もう、魔法の実行は――不可能かと」


 アスリッタさんが、顔を歪めながら、絞り出すように、そう告げた。


 ――くそ。くそ。


 何か。何か、もう――本当に、何もないのか。


「エル! 俺も、何かできないか!!」


 掠れた声で叫んだのは――ギンお兄ちゃんだった。


「何でもいい! 少しでも――助けになれるんなら!」


 涙目になっているギンお兄ちゃん。


 俺は、必死に考える。


 これまでの経験の中に――何か、ヒントは、ないか。


「……俺の魔力を、分けられないのか?」


 ――ギンの、その一言に。


 俺は、半ば呆然とした。





 ――その手があったか。

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