103話
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身体の復元。
それは、魔法使いの中でも希少な回復技術を持つ術師の――さらに、その中でも限られた者にしか扱えない技術。
そして、内臓の復元となれば――その数は、さらに絞られる。
今、ランは――その領域へと、足を踏み入れようとしていた。
「絶対に、無理です!」
アスリッタさんが、声を張り上げる。
「ランさんは、既に魔力欠乏の一歩手前なんです! これ以上無理をしたら――ランさんの命が、危険です!」
アスリッタさんは、なおも続けた。
「第一、我が国でも、内臓の修復ができる術師なんて――いません! 大陸中を探し回っても、十人いるかどうか……!」
ランは、その言葉を受け流すようにして、静かに集中を始めていた。
「アスリッタさん!」
俺は、頭を下げる。
「できることは、全部、やりたいんです! お願いします!」
「……はぁ」
アスリッタさんは、深く息を吐いた。
「まったく……あの人の孫ね。……わかったわ」
そうして、ランのサポートを引き受けることを、了承してくれた。
「ランちゃんが、本当に危なくなったら――止めるからね。いいわね?」
◆
ランは、イメージの構築を終え、魔法を組み上げた。
魔力を圧縮し、光属性へと変換していく。
――光が、ランの掌から、父さんの身体を、優しく、温かく照らし出した。
「ランさん。脾臓と、胃壁の損傷さえ修復できれば――何とかなるわ」
アスリッタさんが、傷口からそっと手を差し入れ、患部をランに見せる。
ランは、まず――脾臓へと、光を集中させた。
光は、まるで小さな虫の群れのように形を変え、破れた脾臓の周りへと、集まっていく。
――ランは、今、極限の集中状態にあった。
何十億もの、小さな、小さな、肉の粒。
今日初めて知った、その概念。
それをイメージし、魔法として組み込む。それには、並々ならぬ想像力と、センスと、そして高度な魔力操作技術が――同時に求められる。
ランの才能は、この極限の場面で――確かに、開花していた。
光の虫たちが、細胞の活動を、急激に活発化させていく。
細胞が、分裂を、急速に繰り返し始めた。
「そんな……すごい……」
アスリッタは、驚愕に言葉を失っていた。
幼少の頃から水魔法の回復系統を中心に修めてきた、自他ともに認める神童――その自分でさえ、到底辿り着けなかった、内臓の修復。
それを、まだ成人にも満たない子供が、成し遂げようとしている。
脾臓は、うにうにと組織を伸ばし――そして、ついに。
破れていた部分が、繋がり――修復された。
「ひ……脾臓の修復を、確認しました……!」
アスリッタさんが、驚きに目を見開きながら、震える声で報告する。
「はあ、はあ、はあ……次、お願いします」
ランは、もはや汗も干上がり――唇はカサカサに乾き、青紫色に変色していた。
「ランさん! もう、限界です!」
「大丈夫、です。……次を」
ランは、鬼気迫る表情で、アスリッタさんへ次の指示を促す。
「……あとは、胃です。ここが――一番、損傷が大きいです」
ランは、光虫をさらに生み出し、胃の修復へと向かわせた。
胃の壁が、少しずつ、少しずつ伸びていき――修復が進んでいく。
だが。
胃の損傷は広範囲に及んでいた。
――半分ほど、修復が進んだところで。
その進行が、ぴたりと、止まった。
「ランさん!!」
アスリッタが、叫ぶ。
――ランが、糸が切れたように、崩れ落ちた。
アスリッタさんが、すぐさま駆け寄り、抱き起こす。
「……魔力欠乏症です。残念ですが……もう、魔法の実行は――不可能かと」
アスリッタさんが、顔を歪めながら、絞り出すように、そう告げた。
――くそ。くそ。
何か。何か、もう――本当に、何もないのか。
「エル! 俺も、何かできないか!!」
掠れた声で叫んだのは――ギンお兄ちゃんだった。
「何でもいい! 少しでも――助けになれるんなら!」
涙目になっているギンお兄ちゃん。
俺は、必死に考える。
これまでの経験の中に――何か、ヒントは、ないか。
「……俺の魔力を、分けられないのか?」
――ギンの、その一言に。
俺は、半ば呆然とした。
――その手があったか。




