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10話

 家の扉を開けた瞬間、部屋の空気がいつもと違うことに気づいた。

 父と、見たことのない厳つい老人が、囲炉裏を囲んで深刻そうに話し込んでいる。


 その老人は、服の上からでもはっきりと分かるほどの筋骨隆々な体つきをしていた。

 鋭い眼光、風雪に晒されたような皮膚、そしてただ者ではない威圧感。

 ——これは、長年戦場に身を置いていた者の気配だ。


 俺がその存在に注目していると、不意に老人の目と視線がぶつかった。


 「お前がエルかああ!」


 咆哮にも似た大声を上げ、雷のような勢いでこちらへ突っ込んできた。


 「うわっ!?」


 反射的に身体強化の意識が働き、回避行動を取ろうとしたが——

 あっさりと捕まえられた。


 「ほう、なかなかの身のこなしじゃのう」

 老人はにやりと笑い、しわくちゃな顔をさらに皺だらけにしながら続けた。


 「くっ……誰だお前……!」


 「わしはジーク。お前のじいちゃんだ!」


 ……じ、じいちゃん?


 


 ――――――――――――――――――


 


 その後、父の口からも改めて紹介され、どうやらこの豪傑な老人は本当に俺の祖父——ジークというらしい。

 危なっかしいが、どこか憎めない笑顔の持ち主だった。


 「がっはははは! この人生で孫を抱けるとは、感慨深いのう!」

 酒を手に大声で笑うその姿は、なんとも豪快だった。


 「で、親父。今日は何か用があって来たのか? もう随分帰ってこなかったくせに」

 父が呆れたように訊ねると、ジークは器用に酒盃を揺らしながら、重々しく口を開いた。


 「なに……ちと北の連中の動きが気になってな」


 「北の……って、まさかヴァイキングの連中か?」


 「ああ、そうだ」


 ジークの目が鋭さを増した。


 「……リンドンが襲われたらしい」


 「なに……!? 本当かそれは」


 「間違いねえ。船で見に行ったが……酷い有様だった」


 「……北の野蛮人どもめ。ついに協定を破ったか」


 ……協定?


 「おじいちゃん、その“協定”って——」


 「エル! お父さんたちのお話を邪魔しちゃいけませんよ!」


 母の声が響き、気づけば腕を引かれていた。

 せっかく重要な話に入りかけたというのに、無念にも寝室へと連行され、布団に押し込まれる。


 ……明日、聞こう。

 必ず。

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