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攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-  作者: 水無月いい人
第五章 《第一部》ヒーラー 黒き記憶の追憶篇

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第66話「交差する愛憎」

最近、俺は自分を制御出来ずにいる。


しかし。今に始まった事じゃない。昔からそうだった。感情を抑えきれず、心の中で暴れる何かをどうにか抑え込む日々。だから、俺は自分を隠し、偽りながら生きてきた。


家族にも、レイラにさえも――本当の俺を見せることはなかった。


だが、ある時ルクスという少女が現れた。

そいつは俺のことを『同族』だと言い、今まで俺が隠していたものをさらけ出させてくれた。


自分でも知らなかった深い場所に眠る感情を、一つずつ引き出していった。

それがどれだけ俺の中で救いになっていたか……きっと彼女は分からないだろう。


生まれた時から俺は、どこか自分が自分じゃない気がしていた。

この身体の中に、別の何かが潜んでいる――そんな感覚がいつもつきまとっていた。


それもお前(・・)のせいなのか?


俺は一体何者なんだ。

俺の中で暴れているお前は、一体何なんだ……教えてくれよ。


――ちっ……だんまりか。


お前はいつもそうだな。都合の悪い時はいつも何も言わずに黙り込む。

まるで俺の姿そのものを映しているみたいに。


そのくせ、どこかで強がるんだ……「俺ならできる」なんて。

結局何もできていないのに――。


最近、記憶がぼやけるような気がする。

俺の中の何かが消えかけて、代わりに違う記憶が割り込んでくるような感覚。

それは、俺の記憶なのか……それとも、お前の記憶なのか?


俺は……お前は……一体なんなんだ。


***


「アスフィ!!」


「………エルザか」


彼女の声に振り返ると、そこには戸惑いを隠しきれないエルザの姿があった。

その顔を見ると、なんとなく察するものがあったが、俺は言葉を飲み込む。


「その……すまない、疲れているところを」


「いや……いい、まだ昼だしな。それに疲れているのはお互い様だろう?」


視線を隣に移せば、ルクスが俺のベッドで静かに寝息を立てている。

その姿を見ていると、不思議と胸が締めつけられるような感覚に陥る。


「……ついにルクスと……そうか、良かったな」


「………悪いことをしたよ」


「……なぜだ?」


「…………レイラがいるのに……俺は……」


エルザはしばらく俺を見つめた後、口を開いた。


「……仕方ない、謝ればいいさ。レイラが目を覚ました時にでもな」


それが、どれだけ難しいことかエルザには分からないだろう。

俺はまだ誰も救えていない。


母さんも、レイラも――そして目の前のエルザも。

守るべき相手を抱えながら、ただ立ち止まっているだけだ。


なのに、どうしてだ。どうして――あのマキナ()が俺の頭をかすめるんだよ。


誰一人として守れていない俺が、どうして一人の女の子を――。


「俺は……バカだ……」


「……そんな風に思っていたんですか?」


「うむ……ルクス、起きていたのか」


いつの間に目を覚ましたのか、ルクスが俺を見つめていた。

その瞳には不安そうな色が浮かんでいる。


「まぁ……アスフィが自分を責めるのではないかと思いまして」


「……」


「私はアスフィを心から好きです。だから嬉しいんです。私に愛をくれたことが、とてもとても嬉しいんですよ?アスフィ」


ルクスの言葉は、まっすぐすぎて心に突き刺さる。

だが、同時に俺の中には罪悪感が湧き上がっていた。

ルクスのそばにいながら、頭の中にはずっとレイラの姿があった。

彼女が俺に向ける純粋な瞳が、余計に俺を追い詰める。


俺は……一人の女の子の感情を弄んだクズだ――。


「……アスフィよ。君は私の告白を受け入れてくれたではないか。私が助けて欲しい時に助けてくれた……それで十分だった。私が恋に落ちるのは、それだけで十分だったのだ……」


「エルザ………すみません。約束を破ってしまいました」


「……構わん……………とは言えない。正直怒っている……だが、ルクスの気持ちも分かるのだ。私もきっと遅かれ早かれ同じことをしていたはずだ」


こいつらは、何を言ってるんだ――。

俺の中で湧き上がる感情が抑えられない。


(落ち着けアスフィ。お前は悪くない)


お前は黙ってろ――。


(……マキナに会え)


マキナだと?


(マキナにもう一度会え。俺が話をしてやる)


なんでお前なんだよ。


(マキナは俺の女だからだ)


……意味わかんねぇよ。


「俺は……ルクスの気持ちを踏みにじった……レイラのことばかり頭にあった……。あいつが死んだ。俺はそれを未だに受け入れられていないんだよ」


「アスフィ……」


ルクスが俺をじっと見つめる。その瞳には悲しみと決意が宿っていた。

その視線をまともに受け止めるのが怖い――俺が背負った罪の重さを思い知らされるから。


「でもよ、やっぱり思ったんだ。俺はレイラも好きだし、ルクスも好きだ。こんな俺じゃダメかな?…………いや、聞かなくても分かってる……すまん……」


自分の口から出たその言葉が、自分でも驚くほど弱々しかった。

それでも、この胸に秘めた想いを言葉にしなければならないと思った。


「………ダメじゃないです。……レイラ……さんはきっと怒ると思います。まだ仲直りしていないですし……そんな女に最愛の人を先に取られたんですから……。ですから私も謝ります。死ねと言われたら死にます」


ルクスの覚悟が、言葉に宿っている。

その重みが俺の胸にのしかかる。


「おいおい覚悟が重すぎるよ……」


俺はその言葉を聞いて、思わず笑いそうになった。

だが、その覚悟の裏には彼女の純粋さが透けて見えた。


「だから一緒に謝りましょう?アスフィ」


ルクスの優しい笑顔が、俺の心を少し軽くした気がする。


「そうだぞ、あんまり思い詰めるな。ちなみに私はどうなんだ……その……好き……じゃないのか?」


エルザの言葉に、俺は驚いて彼女を見つめる。

まさかこんな形で、彼女自身の気持ちを問われるとは思わなかった。


エルザ・スタイリッシュ。彼女には何度も助けられた。剣術修行といいつつサンドバッグにされた日々……。レイラとのやり取りを邪魔してくる日々……。


……あれ?何故だろう。辛い思いでしか出てこない。


自分で振り返ると、彼女との日々は決して平穏ではなかった。

それでも、確かに支えられてきたことは事実だ。


「なぁエルザ、なんで昨日は来なかったんだ?」


「………なんのことだ」


「俺とルクスが、その……」


言葉に詰まりながらも、覚悟を決めて口を開く。


「お前、レイラの時は邪魔してただろ。それも意図的に……なのになんで昨日は部屋に入ってこなかったんだよ」


「何を言ってるんだアスフィは面白いやつだなハッハッハッ」


笑って誤魔化そうとするエルザ。だが、全く嘘が下手すぎる。

そもそも、お嬢様に嘘の才能なんて期待してない。

それにしても、どこ向いてんだよ。俺と目を合わせないって、バレバレすぎるだろ。


「カンのいいお前のことだ!俺は知っている!エルザ・スタイリッシュ!この際だから言ってやる!お前、何でそこまでして自分を隠すんだ!ミスタリスで誰でもないお前に言われた言葉だ!お前も隠してるだろ!何を隠しているエルザ・スタイリッシュ!!」


「………隠してなどいない……私はただお前が……」


エルザの声が小さくなる。

その姿を見ると、俺の胸の奥に何かが引っかかるような感覚が生まれた。

普段の堂々とした態度が、どこか影を潜めている。お前らしくないな、エルザ。


「……さぁ答えろエルザ・スタイリッシュ!」


俺はベッドから降り、部屋の前で立ち、未だに入ってこないエルザに近づいて言う。

ルクスは驚いて俺を見つめている。だが、俺は視線をそらさずにエルザを見据えた。


これは必要なことだ。

俺もルクスも気持ちを伝えた。

あとはお前だけだエルザ……隠しているものを吐け。


俺のことが好きなのは知っている……そんなのは百も承知だ。

だけど、お前の中にある本当の気持ちは、まだ俺には見えていない。


「……私はただ……お前が………」


「ああ」


俺の声に促されるように、エルザが唇を動かす。

その瞳には、決意とも戸惑いとも取れる複雑な感情が宿っていた。


「………………………お前が………」


エルザが覚悟を決めたその瞬間――


「憎い」


その一言は、俺が想像していた答えを遥かに超えるものだった。


言葉が理解できないわけじゃない。

だが、それを目の前で突きつけられると、胸の奥がズキリと痛む。


……憎い?


あのエルザが?俺を?

あの剣術修行で「ほらもっと全力で来い!」って笑ってたお前が?


これ、夢だよな。そうだ、夢オチに違いない――。


だけど、目の前のエルザの瞳は真剣そのものだった。

その視線に耐えられず、俺は目を伏せた。


……くそ、なんでこんな時に、過去のあの剣術修行のことを思い出すんだよ。

「ほら、ここが開いてるぞ!」とか言いながら、サンドバッグ扱いされた日々……。

え、あれ?それ、ただの八つ当たりじゃないか?とか。


いやいや、それでもあの時は楽しかった。むしろ笑える話だ。

だから――今、この空気をどうにかしてくれよ、エルザ……。


自分の胸に押し寄せる感情を抑えきれないまま、俺はただエルザの瞳を見つめていた。

何かを言わなきゃいけない気がするのに、言葉が出てこない。


本当に、お前は一体何を隠しているんだ、エルザ――。

ご覧いただきありがとうございました!


実はアスフィ、、、

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