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第64話「愛に魅せられて」

ご覧いただきありがとうございます。

ルクスの回が続きます…。

「じゃあ改めて、私の正体を聞いてみちゃおっかなー!」


椅子に座り、ニコニコしながらディンは言う。


「もちろん、もう罰ゲームは無いから安心してね!」


罰ゲーム……二度としたくないものだったな。

あの屈辱的な時間を思い出すだけで寒気がする。

そういえば、ルクスやエルザはなんて答えたんだろうか……?

王では無いとすると、やはり『神』と答えるのが正解だったのか?


「……私は神と答えました」


「なに!?……神じゃないのか!」


『神』と答えたルクスは不正解だった……?

だとしたら、ディンの正体は何だというのか?


「……オーディン」


「正解だよ!私はオーディン!ってね!」


「オーディン……ですか……神の名称を当てるなんて無理です」


ルクスは頬を膨らませ、不満げに呟いた。

その仕草に少しだけ笑ってしまいそうになるが、今はそんな場合じゃない。

確かに、神の名称を当てるなんて不可能だろ。

いや、待てよ。エルザは一人正解した。あいつはなんて答えたんだ?


「……エルザ、お前はなんて答えたんだ」


「私は創造神(・・・)と答えた」


「……なんでそんな言葉がピンポイントで浮かんでくるんだよ」


「ヒントなら沢山あったぞ」


ヒント?そんなものあったか……?

俺の目にディンにはアイリスのような違和感があるようには思えなかった。


だから、神だなんて考えもしなかった。


「『神木』……これを見た瞬間、私はディンを神だと確信していた」


エルザの声は冷静だが、確かな自信が込められている。俺にはそんな発想が微塵も浮かばなかった。言われてみれば、確かに妙な場所だった。でもそれだけじゃ、ディンが神だとは思えない。


「他にも、分かりやすい所を上げるならこんな高い所に一人で住んでいることや、私より小柄でありながら私以上のパワー。そんな人間がいるはずが無いだろう」


……たしかに。エルザよりも小柄な少女が、あのエルザに力で勝っている……言われてみれば確かにおかしい。……何故俺は気付かなかったんだ……。


少なくともルクスは『神』だと気付いていたようだが……結局分からなかったのは俺だけだったのか。アイリスのような違和感を感じなかったから、その選択肢は無かったな……。

俺が鈍感すぎただけか。


「にしてもエルザはなんで、オーディンだと分かったんだ?」


「うむ、それなのだが。私もオーディンの名前までは知らなかった。創造神と答えただけだからな」


「うん!私も迷ったよ?正解にしようかな〜?どうしよっかな〜ってね!でもまぁいっか!って!大正解というより、正解って感じかな!」


そんなガバガバ判定ならもう『神』でも正解でいいだろ。ルクスがなんか可哀想だ……。


「創造神については……私はおじいちゃんからよく話を聞いていた」


「なにをだ?」


「創造神という神が”人類を創った”と」


「……なに?」


エルザは衝撃の発言をする。その言葉に流石の俺も言葉を失った。


「私のおじいちゃんは物知りだったのだ。創造神は人類を創り、この世界に新たな命を生み出したと……確かそう言っていた気がする」


ディンが人類を作った……?

……いや、アイリスも瞬時に街を創れるんだ。いつかの時、俺はアイリスに聞いたことがあった。

人類も神が創ったのかと……俺の予想は当たっていたってことか。


「だが、それだけじゃディンが創造神と分からないだろう?」


「そうだ。私は迷った。これは『神』と答えるべきなのかと……だから私は『神木』を目にしてから、ここに来る道中、冒険者を観察していたことを思い出したのだ」


「観察……?」


「この『アスガルド帝国』には色んな人種がいる。ヒューマン、獣人、ドワーフ、竜人……極めつけは、あの森(・・・)に引きこもりがちなエルフまでいた」


エルフまでこんな所にいたのか。気付かなかった……。

そういえばエルフの姉妹、コルネとコレイは元気だろうか。


「……私はここでおじいちゃんの話を思い出したのだ。まさか『アスガルド帝国』にいる者達は全員ディンが創造したのでは無いかと。確信はなかったがな」


「……そうか。流石の観察眼だなエルザ」


「私には考えが至りませんでした」


「うむ、私もおじいちゃんの話がなければルクスと同じ結果だったろう」


エルザのおじいちゃん何者だよ。


「エルザの言うことは大体合っているよ!だけど、不正解!」


「なに!?どこか間違っていたのだ!」


「君は『アスガルド帝国』にいる者全員を私が創造したと考えているよね!それは違う!私が創造したのはほんの十数人程度だよ!その後は子を産み、外から来た者たちと……そうして増えていったのさ!私だって何でもかんでも創造していい訳じゃないからね……他の神との話し合いの元行われたものだよ!」


他の神……その中にはゼウス・マキナ……

彼女も含まれているのだろうか。


「でもやっぱり、エルザは正解したね!私の読み通りだよ!流石は剣王エルブレイドの娘だね!」


「…………ああ、素直に喜んでおくことにするよ」


エルザの祖父は剣王だったのか。なんか凄そうな肩書きだ。


「さて!暗くなってきたし今夜はここら辺にしよう!」


「あれ?そんなに経っていたんですか?」


「うむ、二人は随分と長い間眠っていたぞ」


「そうだったのか……全然気付かなかった」


「時間はたっぷりある!この話の続きはまたいずれするとしよう!……君たちにはそれを聞く権利があるからね。……私は少し用事があるから出るよ!君たちはここを自分の家だと思って好きに使っていいからね!風呂トイレ完備の私自慢の家だからね!」


とディンは会議があると言い、そそくさと家を出て行った。

なんだよ会議って。俺たちは取り残されてしまった。


「……好きに使ってもいいと言われたので、私はシャワーを浴びたいです」


「俺は少し休むよ」


「アスフィ……か、体洗ってくれないのですか?」


え、急に何言ってんだルクスのやつ。頭でも打ったのか?


「……ルクス、お前ディンに何かされたのか?なにを魅せられたんだ?」


「………とてもいい夢でしたよ。大好きな人と友のいい夢です」


ルクスは笑いながらそう言うのだ。

俺は本気で可愛いと思ってしまった。


「うむ、ではルクスの体は私が洗おうではないか!」


「え、ええ?エルザがですか?」


「嫌なのか?」


「………仕方ないですね、洗わせてあげます」


こうしてエルザとルクスは風呂に向かった。なんだかいつもより仲が良く見えた気がした。


***


(なあ)


(なぁおいって!)


なんだようるせーな。疲れてるんだ。邪魔するな。


(覗かねーのか?)


……ああ


(バカやろう!覗かないでどうするよ!)


俺はまだ死にたくないんだよ。


(相手がオーケー出してんだ!そこは一緒に入るとこだろ!)


どうしてそうなる。


(ルクスは……それを求めてるぞ)


はぁ……お前は少し黙ってろ。俺は疲れたから寝る。


(ちっ、わからず屋な野郎だな……お前のために言ってやってんのによ)


***


俺は夢を見た。彼女……マキナとの大切で楽しかったあの頃の日々。

マキナ……お前はまだ俺の事を覚えてくれているのだろうか。

あの日の出来事を……忘れられないあの日の事を。

お前が忘れても、俺は必ず覚えてるからな……マキ……ナ。


……

…………

………………


「………マキ……ナ」


「私はルクスです」


「……え、なんでルクスがここに……?」


「ダメですか?」


ベッドで寝ている俺の横で一緒に寝ているルクス。

ディンからは一人一人部屋が与えられた。

俺は確かに自分の部屋で、誰にも邪魔されずに眠っていたはずだ。

なのに、なぜルクスがここにいる?

俺が寝ている間に何かあったのか?


「何してるんだよルクス」


声に多少の警戒心を込めて問いかける。

彼女の行動にはいつも何かしら理由がある。

ただ、今はその理由が全く読めない。


「……私は夢を見ました」


「ディンのか?」


「はい、とても幸せな夢です。アスフィが居て、エルザが居て……レイモンドにも謝ることが出来ました」


「……そうか」


レイラのことか。

ルクスはずっと、心のどこかでその名前に縛られていたんだろう。

罪悪感――彼女の優しさがそうさせていたのかもしれない。

あいつはいつも、過去の自分を責めるような表情を見せることがあった。

その苦しみをずっと抱え込んできたのだろう。


「アスフィとの日々は楽しいものでした」


「……そうか」


自分が何をしてきたかを思い返す。

彼女が言う「楽しい日々」とは、一体どの瞬間を指しているんだろうか。

俺自身、楽しいと思える瞬間もあったが、同時に命の危険や緊張が付きまとっていた。

それでも、ルクスにとっては――それすらも大切な思い出なのか。


「……夜は激しかったですけど……そ、それも含めて幸せでした」


「お、おう……そう……だったのか」


ルクスの夢の中の俺、何してんだよ……。

自制しろ、夢の中の俺!

現実の俺が何もしてないのに、何故こんな恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだ……。

だが、彼女が「幸せ」と言ったのは嘘じゃないだろう。

その表情が物語っていた。


「………エルザと約束したんです」


「なにをだ?」


「勝負をしようと」


「……そうなのか」


俺は「何の?」とは聞かなかった。

さすがにそこまで無神経じゃないつもりだ。

ルクスがエルザと何かを賭けたのだろうということだけは、彼女の言葉から察せた。


「はい……ですがここに来て思いました。私は悪い子です。なので勝負は放棄します」


「え?それって負けるってことじゃないのか?」


「いえ、勝ちます」


ん?よく分からないぞ。

勝負を放棄して、どうやって勝つんだよ。


「まぁ頑張れよ、勝負は勝負だからな」


「はい、応援ありがとうございます」


ルクスの目が一瞬だけ潤んだように見えた。

次の瞬間、彼女は俺の唇に触れるように口づけをしてきた。


「好きですアスフィ」


――俺は一瞬、頭が真っ白になった。

彼女の口から出たその言葉は、想像以上に重たく、強い感情を含んでいた。

だが、それ以上に彼女の覚悟が伝わってくる。


「……ずっと好きでしたよ。だから今日は私だけに()を下さい」


ルクスは本気だ。

茶化すこともできるが、それは彼女の気持ちを踏みにじる行為になる。

彼女はここまでの思いを抱えて、勇気を振り絞ってこの言葉を紡いだのだ。


「………分かった」


深く息を吸い込み、覚悟を決める。

ここで逃げるのは、男としても、仲間としても失格だ。


「…………今日の僕は……アスフィだけのものだよ?だから好きにして………いいよ?」


彼女の顔がほんのり赤く染まりながらも、どこか誇らしげに微笑んでいた。

その瞬間、俺は彼女に向き合うことを決意した。


***


次の日、俺はエルザに怒られ……なかった。

いつものように空気を読まずに部屋に入ってくることもなかった。


それがまた、レイラがここにいないことを再認識させられるのだ。


俺はレイラという存在がいながらルクスに手を出してしまった。最低だ。


(……それは違う)


何が違う。クズだろ。


俺はまだレイラという一人の女性に心を縛られていた。


そしてルクスもまた、普段と違う。

昨晩の出来事が夢だったのか現実だったのか、曖昧なままだ。

だが、ルクスの表情を見る限り、何か吹っ切れたようにも思えたのだった。

ご覧いただきありがとうございました。

ルクス……可愛いです

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