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第60話「『アスガルド帝国』」

さぁ新しい国。彼らに待ち受けるものとは、、、


どうぞ最後まで御覧ください!

俺たちはついに『アスガルド帝国』へ到着した。

ここまでの道のりは険しく、苦難の連続だった。本当に……まじで……いろいろあった……。


途中、ゼウスとアイリスが食糧を持ってきてくれなかったら、俺達は間違いなく死んでいた。

感謝すべきなのは分かっているが、あまり礼を言うと調子に乗りそうだから控えることにした。

特にアイリス。彼女は一番調子に乗るタイプだ。


『アスガルド帝国』。

帝国と聞いていたから、もっと壮大な石造りの街なんかを想像していたが、実際は緑豊かな場所だった。どちらかというとフォレスティアに近い印象だ。ミスタリスほどの規模ではなく、どこか穏やかな雰囲気を漂わせている。


「なんだか緑が多いな……」


俺は思わず呟いた。


「そうですね……帝国と聞いていましたので、勝手に石壁のイメージを持っていました」


「うむ、私もだ」


エルザとルクスもどうやら俺と同じ感想のようだ。そんな中、アイリスが微笑みながら言った。


「フフっ皆さん、『アスガルド帝国』は緑豊かな場所です。気を休めるのにはピッタリなことでしょう」


「我は食えるものがあればどこでもいい」


ゼウスの飄々とした言葉に、俺は呆れる。こいつ、いつまで付いてくるんだよ。マキナと一緒に帰ればよかったのに。目的がいまいち分からない。


「とりあえず、冒険者協会に行きましょう」


ルクスに促され、俺たちは『アスガルド帝国』の冒険者協会を目指した。


この国には門番がいない。その点もフォレスティアと似ている。門を開けて中に入ると、そこには多種多様な人々が行き交っていた。


ヒューマン、獣人、エルフ、ドワーフ……種族もさまざまだ。鎧を着た冒険者らしき姿もちらほら見える。


「あそこのようです、冒険者協会」


ルクスがその辺の人に声をかけて場所を確認してくれたようだ。しかし、話をした相手はそそくさと逃げるように立ち去っていった。まるで悪魔でも見たかのような態度だった。そんなに怖いか、俺たち。……いや、これはルクスを怖がっていたのか。


「……大丈夫か?」


俺が声をかけると、ルクスは少しだけ笑みを浮かべながら頷いた。


「え、ええ。慣れていますので。では、皆さん行きましょう」


その言葉に込められた強さは、彼女がこれまでどれほどの困難を乗り越えてきたのかを感じさせるものだった。

だが、その背中にはどこか疲労が滲んでいるようにも見える。無理をしていないだろうか――そんな思いが胸をよぎる。


ルクスの表情はいつも通り穏やかだ。だが、俺には分かる。彼女が何も言わずに背負い込む性格だということを。

それでも、俺には彼女を支える力なんて無い。今の俺に出来ることなど、何一つ無いのだ。


「アスフィもついに冒険者だな!」


先頭を歩くエルザが明るい声で俺に振り返り言う。その無邪気な笑顔が、場の重苦しい空気を軽くしてくれたように感じた。こんな時でも空気を変えてくれるエルザには、本当に助けられる。


俺は彼女に向けて小さく笑みを返した。


「別にいいんだけどな」


そんな会話をしながら、俺たちは冒険者協会へと向かった。


---


冒険者協会に入ると、受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれる。

胸元が大きく開いた服から見える谷間は、男なら誰でも視線を引かれるものだった。しかし、何故だろうか。この姿になってから胸にあの時ほど興味を惹かれない。


「こんにちは、依頼ですか?クエストですか?」


「いや、冒険者になりたいんですが」


俺がそう伝えると、彼女は渡された紙に記入を求めてきた。


えーっと性別は男、名前はアスフィ・シーネット、年齢は十二歳。才能の有無は「有り」で、魔法か剣術かの選択は「魔法」。使用可能な魔法は……回復魔法のみ。


書き終えた紙を渡すと、受付のお姉さんが確認し始めた。


そして少しの待機を命じられ、俺は腰を下ろす。


……しばらくすると、


「アスフィーシーネットさーーーんいらっしゃいますかー?」


名前を呼ばれた俺はカウンターへ向かう。


「申し訳ありません、記入ミスが御座いまして」


「そうですか、すみません。どこですか?」


「こちらの年齢の所が十二となっています」


「はい、そうですね」


「記入ミスになりますので、もう一度正しい年齢を書いて頂けますか?」


……記入ミスじゃないんだけど。

そうか、誕生日を迎えたと思われたのか。


「すみません……これでいいですか?」


「い、いえですから十三もダメです」


「えーっと?」


「”十五”と書いて頂けませんと登録できません」


……結局、冒険者登録の規定に引っかかり、俺は冒険者にはなれなかった。


「なぜバカ正直に言うのだ!そんなもの適当に言っておけばいいのだ!」


エルザが悔しそうに言う。


「年齢詐称はいけませんが、今のアスフィはどう見ても十二歳ではありませんよ……」


ルクスが静かに諭すように言った。


「つってもなぁ」


俺は肩をすくめる。年齢を偽ることは俺にはできなかった。……だって事実まだ十二だし。


そんな俺に、アイリスが軽く笑みを浮かべて言う。


「まぁ良いではありませんかルクスお姉様。わたくしたちがいれば同行者として問題ありませんわ」


確かに、俺一人で冒険するなら問題だけど、ルクスとエルザがいれば依頼の同行者として行動できる。


問題ない、これでいい。以前もレイラと…………クソッ……まただ。俺はいつもレイラのことを考えてしまう。


(お前のせいじゃない)


うるせぇ。何も知らないくせに勝手なこと言うんじゃねぇ。


俺は自分の中の”ナニカ”に応える。


「冒険者協会の規定に則れば、S級冒険者が付いていれば大丈夫なんでしたか。ならそれもそうですね」


ルクスもどうやら納得した様子で頷いた。


「では飯だ!飯を食べるぞ!」


エルザの呑気さに呆れる。だが、この流れも悪くない。


「丁度いいのでサクッと終わるクエストでも受けて、早いとこ報酬金を貰いましょう」


ルクスが冒険者協会で適当なクエストを受けようと動き出す。その背中を見送りながら、俺は深く息を吐いた。


――しばらくして、ルクスがクエストの依頼書を持って戻ってきた。


「貰ってきましたよ。マンティコア三体討伐です」


「推奨ランクは?」


「S級ですね」


俺は思わず眉をひそめる。大丈夫かよ……。


「問題ありません。マンティコアなら何度も倒してきましたから」


ルクスは自信満々に言う。それに対抗するように、エルザも言葉を続けた。


「うむ、私も一度戦ってみたいものだな」


「じゃあいくか、そのコア退治」


俺たちはクエストに向けて準備を整え始めた。

すると、その様子を見ていたアイリスとゼウスが静かに言った。


「わたくし達はこちらで用事がありますので、皆さんでどうぞ」


「ああ、我らには構わずいってこい」


こいつら……また何か企んでいるんだろうな。そんな気がしてならないが、今は腹も減っているし、とにかく早くクエストを終わらせようと意識を切り替えた。


***


マンティコア。ライオンのような見た目で、大きな爪が特徴的なモンスターだ。この爪は一撃で即死級の威力を持つと言われている。それで何人もの冒険者が命を落としてきたらしい。


さらにその大きな体格に反して驚くほどのスピードがあり、動きを見極めるのは至難の業だという。たった一体でもA級認定されている理由がよく分かる。だが、マンティコアは群れることがない。


そんな危険な相手だが――


「はぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!」


エルザが真っ二つにしてしまった。

一撃必殺。その豪快さに俺は目を見張る。エルザの戦闘力は、やはり常軌を逸している。


続いて、詠唱を終えたルクスがその手を掲げる。


「――『爆炎の嵐(ファイアーストーム)!』」


凄まじい炎の嵐がマンティコアを焼き尽くし、跡形もなく塵にする。これで二体討伐だ。

残りはあと一体か……と思ったその時――


「あ、見つけた」


俺の目の前に最後の一体が現れた。


そのマンティコアは、獰猛な目で俺を睨みつける。初めて見るそれに全身の毛が逆立つような緊張感が走る。だが、俺の相手じゃない。


「『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』」


俺は静かに呟き、魔法を放つ。

その呪詛じみた力がマンティコアを蝕み、巨体は力なく地に伏せた。


これで三体討伐完了だ。

無事に終わったことで安堵する暇もなく、ルクスが冷静に行動を続ける。


「討伐の証に、対象の一部を剥ぎ取る必要があります。二人とも、手伝って下さい」


そう言うと彼女は、マンティコアの尻尾を三つ剥ぎ取り、小さな袋に詰めていく。

その手際の良さに感心していると、彼女が少しだけ微笑んだ。


「これをしないと討伐の証明にならないので」


流石、冒険者歴が長いだけある。頼りになる。


「ではいこう!私はもう腹が減って倒れそうだ!」


エルザが叫びながら前に進む。その言葉に俺たちも頷き、帰路に着いた。


***


『アスガルド帝国』へ帰還した時には、すでに辺りは暗くなっていた。

街の中から漂ってくる美味しそうな匂いに、自然と足が店の方へ向かう。


「いい匂いだなぁ……!!」


「そうですねぇ~ヨダレが出そうです」


「ヨダレはもう勘弁してくれ……」


俺はルクスに苦笑いを浮かべながら、気持ちを切り替えた。

今日の労働の後の食事は、どれだけ美味いのか――期待が膨らんでいく。


俺たちは街の居酒屋へ入った。

木造の落ち着いた店構えで、中からは賑やかな声と活気が溢れていた。


「へいらっしゃい!」


ヒューマンの若い男が明るい声で出迎えてくれる。

その元気な態度に、思わずこちらも気が緩んだ。


「なにか美味いものをくれ!」


エルザが元気よく頼む。……適当だな。


「私もテキトーなものとあと……お酒を少々……少しなら良いですよね?」


ルクスが俺をちらりと見ながら、少しだけお酒をねだるように言う。

その顔があまりに可愛らしく、俺は仕方なく頷いた。


仕方ない。流れに乗るか。


「俺もなんかテキトーな物を頼む」


結局、俺たち三人とも頼み方が適当だった。


「あいよー!」


店主は見事な手際で次々と料理を作っていく。

一人で全てをこなす姿はまさにワンオペのプロだ。その腕前に感心しながら、俺たちは料理を待った。


「見事ですね……」


ルクスがぽつりと呟く。その目には尊敬の念が込められていた。

料理を嗜むルクスにとって、店主の技術は特別なものに映ったのだろう。


「へい、お待ち!」


次々とテーブルに並べられた料理に、俺たちは自然と目を奪われた。

魚の刺し身、肉厚なステーキ、そして香ばしい香りを漂わせる焼き物。どれも見た瞬間に美味いと確信できるものばかりだ。


「いただきます!」


エルザは勢いよく箸を持ち、料理を次々と口に運び始めた。

一心不乱に食べるその姿に、俺は思わず笑ってしまう。


ルクスは、丁寧に料理を味わいながらも、少しずつお酒を飲んでいた。

食べては飲み、飲んでは食べる。その様子がなんとも微笑ましい。


俺はそんな二人を眺めながら、ゆっくりと食事を進める。

静かに箸を進め、料理の味を一つひとつ噛みしめるように味わった。


「…………美味いな」


口にした料理があまりに美味しく、つい声が漏れてしまった。

『アスガルド帝国』に着いてからの初めての食事。

その味は、これまでの疲れを忘れさせるような、最高のひとときだった。


”彼女”が現れるまでは――。

御覧いただきありがとうございます!

不穏な空気が流れる、、、。


次回もよろしくお願いします!

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