↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-  作者: 水無月いい人
第四章 《第一部》ヒーラー 運命の神域篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/289

第61話「Odin」

さぁ新キャラ登場回です。

腹を満たした俺たちは宿を探していた。


「もう満員です、すみません」


「すみません、いっぱいなんです」


「ごめんねぇ、うちもう満員なのよ~」


***


俺たちは立ち尽くす……。どこに行っても返ってくるのは「満員です」の一言ばかりだった。

夜の冷たい空気が肌に刺さるようで、俺たちの疲れをさらに増幅させていく。


「……困った。なぁどうする?」


俺が問いかけると、エルザは短く答えた。


「うむ……」


言葉に詰まったその様子に、普段の元気な彼女の影は感じられない。

そしてさっきから隣で口数の少ないルクスが小さく呟いた。


「……私が居るからでしょうか」


その言葉に、俺は思わず顔を向けた。

彼女が自分を責めるような表情を浮かべているのが分かった。


ルクスは自分の『白い悪魔』という異名のせいだと思っているらしい。

確かに、『水の都フィルマリア』の時も、門番に対してその異名を名乗ったことで恐れられていた。今回も冒険者協会の場所を聞くため、仕方なくその異名を口にしていたのだろう。だが、『白い悪魔』なんて畏怖の象徴を名乗りたいわけがない。


俺が何か言葉を返そうとしたその時だった。


「――違うよ!この街はね、本当にいっぱいなんだよ!」


元気いっぱいの声が飛び込んできた。

その声の主は、一人の少女だった。


「誰……?」


俺が尋ねると、彼女はにっこりと笑って言った。


「初めまして!私の名前はディン!よろしくね!」


緑髪に緑の瞳を持つ少女。明るく屈託のない笑顔が印象的だった。


「……あ、ああ俺の名前はアスフィだ」


戸惑いつつも名乗ると、エルザとルクスも続いた。


「私の名前はエルザ・スタイリッシュだ!」


「私はルクス……です」


相変わらずエルザはフルネームだな……と内心苦笑しつつ、俺たちはディンに自己紹介を返した。


「アスフィと~エルザと~ルクス!分かったよ覚えた!よろしくね!」


ディンは満面の笑みでそう言うと、興味津々な様子でこちらを見つめる。

緑髪に緑目、薄手の服装――どこか自然に馴染むような彼女の雰囲気に、俺は少しだけ安心感を覚えた。


「良かったら君たち(うち)に来る?泊まる場所無いんだよね!私の(うち)でよければ泊めてあげるよ!」


「いいのですか?」


ルクスが慎重に尋ねる。


「うむ、ではすまないが頼む」


エルザは即答で乗り気だ。 俺もディンの好意を無下にするわけにはいかないと思い、言葉を続けた。


「ディンと言ったな。君がいいなら悪いがお願いできるか?俺達もどうしようかと考えていたところだったんだ」


「うん!ぜんっぜん大丈夫だよ!気にしないで!じゃあいこっか!案内するね!」


ディンはそう言うと軽い足取りで先へ進んでいく。

こうして、俺たちはディンの案内で彼女の家へ向かうことになった。


なんかこんなこと、『水の都フィルマリア』でもあった気がするな。

俺たちは夜の『アスガルド帝国』を歩く。夜だというのに街は賑やかで、至るところから話し声や笑い声が聞こえてくる。眠らない街ってやつか?そんな印象を受けた。


「なぁ、ディンの家って結構遠いのか?」


俺が歩き疲れた声で尋ねると、ディンは振り返りながら答えた。


「うーん、そうだね!ここからだと~ちょっと遠いかも!」


「そ、そうか……」


俺たちはディンの言葉を信じて歩き続けるしかなかった。


――その後もしばらく歩く。


「な、なぁ……まだか?」


「うん、もうちょっとだよ!」


「そ、そうか……」


ディンの「もうちょっと」という言葉が段々と信用できなくなりつつあった。

疲労感が足に蓄積していくのを感じながら、それでも足を止めることはできなかった。


そして――


「さぁ!」


ディンが勢いよく振り返った。


「お、やっとか」


思わず安堵の声が漏れる。だが、ディンの次の言葉がその期待を裏切った。


「うん!あとはここを登るだけだよ!」


「……」


俺たちは全員無言になった。

目の前に現れたのは巨大な神木だった。その幹は信じられないほど太く、高さは空に届くようだった。枝の間に家が見えるのがかろうじて確認できるが、そこまでたどり着くには一体どうすればいいんだ?


「これって……あれだよな。城の外からでも見えてたやつだよな。これが君の家なの?」


「神木だよ!私の家はこの上にあるんだぁ~!」


ディンの元気な声が響くが、俺たちは唖然とするしかなかった。


「……分かった。もうここまで来たら登るしかない」


腹を括った俺は神木を見上げた。

その瞬間、ディンが指を指しながら言った。


「大丈夫!このエレベーターを使うんだよ!」


目の前には木製のエレベーターがあった。四角い箱。その四方の角にそれぞれ長いロープが取り付けられている。その長さは遥か遠くてゴールが見えない……


「皆、この上に立って!そして、このロープを引っ張るの!」


言われるがままに俺たちはエレベーターの上に乗り込むが――。

この木製の仕掛けで、あんな高さまで本当に上がるのか?

不安を抱えながらロープを引こうとすると――


「んーー!!!……はぁ、ダメだ。エルザ、お前の出番だ。ここに来てようやく馬鹿力お嬢様の出番だぞ」


俺がロープを諦めてそう言うと、エルザが胸を張りながら答えた。


「うむ!任せろ!私が馬鹿力お嬢様だ!!!……って誰が馬鹿力お嬢様だ!!」


「いいから、エルザお願いします」


「もっちろん私も引くよ!」


ディンがそう言ってロープを握る。

俺たちが止めようとする間もなく、ディンは一緒にロープを引き始めた。


すると――


「おおおー!どんどん上がっていくぞー!」


エレベーターは滑らかに上昇し始めた。

俺が驚いている中、ルクスが苦笑いしながら言う。


「流石エルザですね」


「……その……二人に褒めて貰えるのは大変嬉しいのだが……あの……実は私は殆ど力を入れていないのだ」


なに? 俺とルクスは一瞬言葉を失う。そして視線は自然とディンに向けられた。


「んーしょ!んーしょ!」


ディンは軽々とロープを引いていた。

もしかして、この細腕で全部引っ張ってるのか……!?


「こんなの楽勝だよー!みんなは休んでてね!」


ディンの言葉に、俺たちは驚愕しつつも納得するしかなかった。

考えてみれば、この神木の上に住むためには、この作業を日常的に行っているのだろう。それならこの力にも頷ける。


「……まぁ、せっかくだし休むか」


俺はそう呟きながら腰を下ろした。

エルザだけは「負けてられない!」と一緒にロープを引いていたが、結局ほとんどディンに任せる形になっていた。


***


「――ついたよー!」


やっとのことで到着した。

エレベーターから降りて見下ろすと、地上が恐ろしいほど遠い。俺は思わず足がすくむ。


「た、高っ!」


「ア、アスフィ……私腰が……」


「うむ、気持ちは分かる」


俺とルクスはあまりの高さに抱き合うように震える。

一方、エルザはどこ吹く風といった様子で、平然としていた。


「さぁこっちだよ!ついて来てね!」


ディンの明るい声に促され、俺たちは彼女の家へと向かった。


「ようこそー!私の家へ!」


ディンが扉を開けると、そこには広すぎず狭すぎず、ちょうどいいサイズ感の家があった。

中に入ると、ログハウスのような木の温もりに包まれた空間が広がっている。


「思ってたより広いなぁ」


俺は素直な感想を口にする。


「そうですね」


ルクスも同意しながら部屋を見渡した。


「……うむ、まあまあだな」


エルザが呟く。そりゃミスタリスのお嬢様からすれば、この程度では驚かないだろうよ。


「さぁみんな!自分の家だと思ってくつろいでよ!」


ディンは椅子に腰掛けながら、屈託のない笑顔を見せる。その姿に、俺たちは少しだけ肩の力を抜いた。


「まずはご飯かな……?睡眠かな?それとも~……わ・た・し……かな?」


ディンの冗談交じりの問いかけに、俺は即答した。


「――じゃあ()で」


その言葉に、ディンは笑顔を崩さずこう言った。


「うん!いいよ!」


え?いいのか?まったく動揺の色を見せない彼女に、俺は思わず息を飲む。

だが、その空気を壊すようにルクスが声を上げた。


「ダメです!アスフィには私が居るので!」


「うむ!そうだぞ!私もいる!」


二人が声を揃えて否定する。その勢いにディンは首を傾げながら笑った。


「うーん、困ったね!じゃあ四人でやろっか!」


な、なななななにぃぃぃぃぃぃ!!?そんな手段があったのか!?

俺は考えもしなかった。 予想外の提案に、頭が真っ白になる。


「俺は四人一緒でもいいぞ」


「……私はやっぱり二人っきりがいいです……」


「うむ……」


ルクスとエルザが戸惑いながらも真剣に悩む中、ディンは一切迷わず提案を押し通す。


「いいじゃん!四人でさ!皆でやろうよ!」


彼女の言葉は、あまりにも本気だった。

そして……


覚悟を決めたのか、ルクスとエルザが服を脱ぎ始めた。


「さ、さぁ!ディンも早く脱いで下さい!」


「そうだぞ!早く脱げ!」


ルクスとエルザが勢いよく服を脱ぎ、下着だけの状態でディンにそう呼びかける。

その光景に、俺は言葉を失いながらも心の中で密かに歓喜していた。


――だが、そんな空気を壊すようにディンが首を傾げて言った。


「……えっと……君たちなんで服脱いでるの?」


「「…………へ?」」


ルクスとエルザは固まり、手にしていた下着を慌てて戻し始める。

あと少しで全て見えたのに……。期待して損した。


……あれ?何で俺は今期待していたんだ……?


「何勘違いしてるか分からないけど、ゲームだよゲーム!」


ディンのあまりにあっけらかんとした言葉に、俺はため息をつきながら肩を落とした。


「なんだゲームかよ……くそっ……」


ルクスとエルザは顔を真っ赤にしながら急いで服を着直す。

からかおうかとも思ったが、今回はディンの言い方が紛らわしかったのが原因だ。ここは何も言わないでおいてやろう。


「じゃあね、今からやるゲームはね、私が主役だよ!」


ディンが主役のゲーム?

まさか、また王様ゲームみたいなものかと思ったが、彼女の言葉はそれを否定した。


「ルールは簡単!私が何者かを当てるゲームだよ!」


ディンは楽しそうに説明を始める。

ルクスとエルザも、さっきの出来事を忘れたいのか前のめりになってゲームに乗り気になっている。


「さぁさぁ!順番にこっそり私に教えてね!間違えたらこわ~い罰ゲームだよ!」


罰ゲームという単語が引っかかった俺は思わず手を上げ質問する。


「ちょっといいか?」


「うん、アスフィだったね!どうぞ!」


「罰ゲームって具体的には何だよ?」


「罰ゲームの内容については今は教えられないよ!では先ずアスフィからね!」


ディンがにっこりと笑いながら促してくる。

内心、俺からかよと思ったが仕方ないので考える。


彼女の正体……か。こんな場所に住んでいることを考えれば、普通の市民ではないのは確かだ。きっと、この国の王か何かだろう。


俺はディンの耳元に近づき、小声で答えを告げた。


「ディン、お前はこの国の王だ」


「ぶっぶーーー!アスフィ不正解!罰ゲーム確定ね!」


くそっ……王じゃないのか……!?

その後、ルクスとエルザも順に挑戦していったが――。


……

…………

………………


「――ということで正解はエルザだけだね!おめでとー!」


ディンの声に、エルザは額を拭いながらホッとした様子を見せる。


「これには私も迷った…………」


エルザの表情には、ギリギリ正解にたどり着いた安堵の色が浮かんでいた。


一方、俺とルクスは罰ゲーム確定という結果に不満を漏らす。


「くっそ」


「なんだか悔しいです」


罰ゲームとは一体何なのか……不安と警戒を胸に、俺とルクスはディンを見つめた。


「では、不正解の君たちには――」


ディンは立ち上がり、俺とルクスにゆっくりと近づく。その瞳は、さっきまでの陽気さを一切感じさせないものに変わっていた。その目はつい最近見た眼だった――


『死の体験をしてもらうよ』


その瞬間、俺とルクスの腹には緑色の槍が突き刺さった。

予備動作すらなかった。刺さったというより、どちらかと言うと”気付けば刺さっていた”に近い。


しかし痛みはあるが、不思議と血は流れていない。

俺が状況を理解しようとする中、エルザが腰の剣に手をかけた――だが、その動きは止められた。


『ダメだよエルザ!正解したんだから!不正解のこの子達を見届けてあげないと!』


ディンの声が静かに響く。 その言葉には何か得体の知れない力が込められていた。


「く……っそ……ルクス……」


俺はルクスに目を向けるが、彼女は既に意識を失っていた。

次第に俺の視界も薄れていく。


ディンの声が遠くで聞こえる。


『だい……ぶ……だよ………君達……なら………乗り………る』


俺は深い闇の中へと落ちていった。

前回より第五章開幕しました!

ちなみに前回で60話です。

早い!あと40話で100ですか……。

100で終わるつもりはありませんが!

では次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 面白かったら応援を! ★

★★★★★評価お願いします!

あなたの評価が、新たな物語を加速させます!


【カクヨム版も公開中!】 攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。