EXep.3「空腹」
ゼウス。彼女の話。
──広い広い世界の片隅で。
ゼウス・マキナは、ふらふらと歩いていた。
探し物がある。でも、今はそれよりも――
「……お腹すいた……」
少女のような声で、ゼウスは呟く。
そんな彼女の前に、赤と黒の鎧を纏った男が現れた。
「なんだお前か、ゼウス」
「むぅ、アレスか。食べ物持ってないか?」
「はァ?あるわけねぇだろ」
ゼウスはふるふると震えた。
その周囲に、微かな雷光がぴりぴりと弾ける。
「……持ってきて」
「チッ……しゃーねぇな。待ってろよ」
アレスは呆れた顔で、果物を探しに走った。
ゼウスはその場にぺたんと座り込む。
「……アレス、遅い」
お腹が鳴った。世界一可哀想な顔で地面にうずくまる。
やがて、アレスが血塗れになって戻ってきた。
「遅い!」
「……くそ、変なヤツに絡まれたんだよ」
アレスは肩で息をしながら、果物を投げてよこす。
ゼウスはぱぁっと顔を輝かせた。
「えらいっ!よくやったぞ、アレス!」
「……褒めるな気持ち悪ィ」
ゼウスは無邪気に果実にかぶりつき、頬を膨らませる。
「んまい!」
「……あーもう、自由すぎんだろお前」
アレスは呆れながら、ふと真剣な顔になる。
「……ゼウス、気をつけろよ」
「なにが?」
「さっきの奴……あれはただ者じゃねぇ。槍で突いても、すぐに傷を治しやがった」
ゼウスはもぐもぐしながら、小さく頷いた。
「うん。知ってる」
「……知ってんのかよ」
「そいつを探してるんだもん。だから、大丈夫」
ゼウスはけろりと言った。
アレスはしばし沈黙した後、帰り際に振り返る。
「お前の片割れにも言ってやれ。……この世界は、そう長く持たねぇってな」
ゼウスはにっこりと笑った。
「うん。ちゃんと伝える」
果実を両手で抱えたまま、
ゼウスは、またふらふらと歩き出す。
その小さな背中が向かう先に、
世界の終わりが、静かに迫っているとも知らずに。
ご覧頂きありがとうございました。
次回物語は更に進みます!アスフィたちがゼウスと出会う日も近いかも?