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第49話「大犯罪者」

ご覧いただきありがとうございます。

第四章はまた違った意味で強烈な賞になります。

どうぞ最後までご覧下さい。

翌日の夜。

 俺たちは再びアイリスのホームで作戦を練っていた。


 結局その兵士は見つからなかった。


「なぁおかしくないか?」


「はい、おかしいですね」


「うむ、おかしいな」


 三人の意見は揃って一致した。

 兵士はいないし、アイリスも戻ってこない。

 さらに街の住民に聞き込みをしても、誰一人としてアイリスという名を知る者はいなかった。

 それどころか、この街を治める王の名前すら知らない始末だ。


『アイリス? この街にそんな奴はいないよ』


 住民たちのその言葉は、あまりにも自然だった。

 嘘を隠そうとしている素振りもなく、純粋に記憶の中にそんな名前が存在しないかのようだった。

 だが、それでも違和感は消えない。何かがある──そう思わずにはいられなかった。


「それに昨日襲撃してきた『ゼウスを信仰する(ユピテル)』の男……あいつは『俺たちとこの街を探るな』と言っていた。それはつまり──」


「うむ、関係している可能性があるということだな」


 エルザがうなずく。

 『ゼウスを信仰する(ユピテル)』と、この『水の都フィルマリア』に繋がりがあるのか?

 それとも、この街に何かを隠しているのか?


 アイリスと兵士が同じ日に姿を消した。

 その奇妙なタイミングも気にかかる。


「……一度フィルマリアの冒険者協会に行ってみましょう。ここなら全ての冒険者を把握しているので、なにか手がかりが見つかるはずです」


 ルクスがそう提案すると、俺たちは頷いた。


「ああ、そうだな」


「では私が案内しよう! 昨日アイリスを探す途中見つけたのだ」


 エルザの先導で冒険者協会へ向かう。

 その建物は、酒場のような雰囲気を漂わせた大きな木造建築だった。

 中には賑やかな笑い声とともに、冒険者たちが集まっている。


 冒険者協会──冒険者の登録や情報管理を行う場であり、ここフィルマリアでは特に大規模だ。

 その理由は、この街が冒険者を目指す者たちの中心地でもあるためだ。


「すみません、少しいいでしょうか?」


 ルクスが先陣を切り、受付に声をかけた。


「はい、どちら様でしょうか?」


「……ふぅ……初めまして、『白い悪魔』です。少しお話を聞きたいのですが」


 ルクスは自らの異名を名乗り、深々と礼をした。

 その言葉が場を動かす──はずだったが、予想外の反応が返ってくる。


「『白い悪魔』ですか? ……どちら様でしょう」


「……え?」


 ルクスが言葉を失う。

 エルザも眉をひそめ、受付の対応に困惑している様子だった。

 まさか、この冒険者協会の受付が『白い悪魔』の異名を知らないとは──。


 冒険者としての活動はもちろん、異名がつくほど名の知れたルクスだ。

 それを、この協会の人間が知らないはずがない。


「……わかりました。ありがとうございました」


 そう告げて俺たちは協会を後にした。

 得られた情報は、驚くほど少なかった。


「情報なしか……」


「ですが、手がかりは得ました」


「うむ……」


 エルザは顎に手を当て、考え込む。

 それにしても、冒険者協会があの対応だとは──。

 俺たちが思うより、この街には深い闇が潜んでいるのかもしれない。


「……さて、皆どう思う?」


「私から良いでしょうか」


 ルクスが手を挙げ、静かに話し始めた。


「冒険者協会に出向きハッキリしました。協会にいた者全員が魔力を宿していました。いえ、彼らだけではありません……この街の住民全て、魔力を宿しています」


「それはおかしいことなのか?」


 俺が尋ねると、エルザが答えた。


「うむ、魔力を宿すのは魔法を使える者だけだ。現に私は魔力を宿していない。つまりそれは、この街の全員が魔法を使うことが出来ると言うことだアスフィ。絶対にありえないという話では無いが──」


「いえ、ありませんよエルザ」


 ルクスがエルザを遮り、さらに深く語る。


「実は冒険者協会の受付の人間からも魔力を感じました。冒険者でもない協会の人間、住民が全員、魔法の『祝福(さいのう)』を持つのはありえませんよ」


「……アイリスもか?」


「はい。アイリスからも、この街の住民達と同じ魔力を感じました。いえ、彼女の魔力はさらに濃かったと思います」


「……おかしいな」


 エルザが顎に手をやり、思案顔を浮かべる。


「それは本当か! ルクス!」


 エルザが立ち上がり、ルクスに詰め寄る。

 その姿はまるで、答えを急ぐようだった。


「そうか……。アスフィ、ルクス、私の推理だ。だがこれはありえない話だ……妄想だと思って聞いてくれて構わない。私だって信じられない話だからな」


 エルザは前置きをして、俺たちを見据える。

 その真剣な眼差しに、俺は無言で頷いた。


「……分かった、話してくれ」


「お願いします、エルザ」


「うむ、承知した」


 エルザは口を開き、彼女の推測を語り始めた。

 それは現実とは思えない話だった。

 その場の空気が一層重くなり、言葉の一つひとつが頭に染み込んでくる。


 だが、それが現実かどうかは問題ではない。

 俺たちはこの謎を解明し、前に進むしかないのだから。


 ……

 …………

 ………………


「……では、次に私の作戦を聞いてくれますか」


 ルクスが神妙な顔で切り出した。

 俺とエルザは互いに頷き合い、ルクスの話に耳を傾ける。


「一歩間違えれば、私たちはこの街で大犯罪者になります……」


 その言葉に俺たちは一瞬たじろいだが、それを否定する気はない。

 ルクスが考えてくれた作戦なら、俺たちは信じるのみだ。


「話してくれ」


「うむ、頼む」


「……分かりました。最終的な判断は二人に任せます」


 ***


 作戦決行日。

 俺たちは大犯罪者になる覚悟を決めていた。


 作戦の準備として、まずは街へ向かい必要な物を揃えることにした。


「まず万が一のために仮面を買いましょう」


「そんなの必要か?」


「ワクワクしてきたな!」


 エルザは楽しげな様子で仮面を選ぶ。

 俺たちは古風なデザインの狐の仮面を購入し、それぞれの顔に装着した。

 これが本当に意味をなすかは分からないが、少なくとも俺たちは準備を怠らない。


 そして昼、作戦決行の時が来た。


「準備はいいか」


「はい」


「うむ」


「作戦開始だっ!」


 俺の合図とともに、それぞれが持ち場に散った。

 ルクスとエルザは街の中心へ向かい、俺は高台に立ち俯瞰する。


 作戦の第一段階、それは街に混乱を引き起こすことだった。

 狐の仮面をつけたルクスが、街の中央で両手を掲げた。


「――『ファイアーボール』!」


 上空へと放たれた炎が鮮やかに輝き、街中に熱気を生み出す。

 続いて、エルザが剣を抜き放ち声を張り上げた。


「この街は我々が征服する! 私と戦いたくなければ、さっさと逃げるがいいっ!! 戦いたいならかかってこい! ハッハッハッ!」


 その高笑いはあまりにも特徴的で、聞き慣れた俺は思わずため息をついた。


「……笑い方で正体バレそうだな……」


 俺は小声で呟きながらも、街の様子を見守る。

 悲鳴が響き渡り、人々は一斉に逃げ出した。

 だが、住民の反応に比べて、何かが足りない──冒険者だ。


「……冒険者が出てこないな」


 俺のつぶやきが、心の中に重く響く。

 この街は冒険者協会の大元。冒険者がいるのは確実だ。

 しかし、この場に誰も現れない。


 その異様な沈黙が、やがて不安を形作る。


 そして──。


「……住民はどこに消えた?」


 目の前から、住民たちが忽然と姿を消していた。

 ほんの一瞬の出来事。

 気づいた時には、街は静寂に包まれていた。


『――やってくれましたね、アスフィさん』


 突然、背後から聞こえた声に振り返ると、そこには青い髪と瞳を持つアイリスがいた。


「……やっと出てきたか、アイリス。俺たちはお前を待っていたんだぜ……」


『そうでしたか。それは申し訳ないことをしました』


 アイリスは微笑みながらも、どこか冷たさを感じさせた。

 その目には、まるで俺たちを見下すような視線が込められている。


「……住民はどうしたアイリス」


『消しました』


 その言葉は、俺の理解を超えていた。

 一瞬で、あれだけの人々を消し去った──。

 アイリスが何者であるのか、その力の全貌が見えない。


『申し訳ありませんが、あなた方はわたくしの聖域に土足で足を踏み入れ、さらには全てを壊しました。よって――』


 アイリスは静かに右手を掲げる。

 その瞬間、周囲の空気が凍りつくような感覚に襲われた。


『あなた方に裁きを与えます』


 その声が響き渡る中、俺たちは覚悟を決めた。


 ――物語は次の幕へと進む。

ご覧いただきありがとうございました。

次回とうとう50話です。

この節目でアイリスの正体が明らかに。

ではまた次回!!!!!

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