第41話 「ミスタリス王国陥落2」【エルザ視点】
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レイラが死んだ。私はどうしたらいい……。
教えてくれアスフィ…………『君』なら……。
「エルザちゃん!ここに…………そうか」
城の前でレイラを抱え竦んでいる私の前に、パパがやってきた。どうやらパパは全部を察したみたいだ。
パパ……私はどうしたらいいの。
「……エルザちゃん、彼女のことは残念だ。だけどね、エルザちゃん。パパもピンチなんだ。助けてくれないか?このままではミスタリスが落ちる」
「…………パパ……私……」
「………気持ちは分かる。私はエルザちゃんより冒険者歴が長い。このような経験は何度もしてきた。だからパパはあえてこう言うよ――」
「立て、エルザスタイリッシュ。そなたはまだやるべき事があるはずだ!レイラ・セレスティアの為にも!!」
パパが初めて私をエルザと呼び捨ててで呼んだ。
もしかすると、初めてでは無いかもしれない。だがこんな顔で言われたのは初めてだ。
そうだ。まだこのまま……負けたままではいられない。
私達は大事な友達を……民を……『宝』を奪われた。
奪われたままでは終わらせない……!
ありがとう、パパ。立ち上がる勇気をくれて。
やっぱり私のパパだ。私はまだまだ子供だ。
「……パパ、もう少しだけ待ってて貰える?私、レイラを寝かせてあげなくちゃ。こんな冷たい所に寝かせるのは可哀想なの」
「……ああ、そうしてやりなさい」
私は城の中へと戻った。
***
中にはまだ『やつら』の残党がいた。
「邪魔だァァァァァァァァァァァァァァァ」
私は両手でレイラを抱き抱えながら、斬っていく。
刀を口に咥え、ただただ斬って前進する。
(レイラ、少し揺れるが、我慢してくれ……)
私はアスフィとレイラの部屋へと走った。
何度も何度も立ち塞がる敵を斬りながら前へ進んだ。
そして辿り着いた。アスフィとレイラの部屋だ。
「………はぁ……はぁ………着いたぞ、レイラ……」
レイラの血がポタポタと滴っている。
「………………レイラ、おやすみ。友よ」
私はレイラをベッドに寝かせた。
これでレイラは安からに眠れることだろう。
笑っている……きっといい夢でも見ているのだろう。
(そうだ、アスフィに手紙を書こう)
私は手紙を書く事にした。
「……手紙など、久しぶりだ。なんて書こうか」
まずは敵の情報だ!そしてこのミスタリスに起きた事、その現状……それと……
「あああああああああああくそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
分からない!なんて書けばいいのか分からない……!
君の大事な人を死なせた……?本当にすまない……?
どれも間違っていない。書きたいこと、言いたい事は沢山ある。しかし、私はこの国の王。王がすべき事は国を守る事だ。
民は大勢死んだ。しかしまだ、生き残っている者も居る。
なら私はその者達を守る義務がある……!
「…………なんて……ただの見栄だな」
それでも、どうしても謝りたい。そして、あわよくば助けに――
……
…………
………………
使い鳥を呼び、足に手紙を括りつけた。
「……頼んだぞ、渡す相手はフォレスティアに住む、王子キャルロットだ。最速で頼む」
使い鳥は物凄い速さで飛んで行った。
(さて……私はパパの元にいかなければ)
私は城を出た。パパと賊のリーダーらしき男が戦っていた。
黒いフードを被っていて顔がよく見えない。
その手には剣を持っていた。剣士だ。
パパが必死に戦っている……。
「はぁ……はぁ……」
「どうやら、お疲れのようだなエルフォード・スタイリッシュよ」
「……私はな……だがここからは親子一緒に戦うことにしよう」
「なに……!?エルザ・スタイリッシュ!?」
こいつが今回の首謀者?生かしては置けない。
「待たせてごめんね、パパ。コイツは私がやる。下がってて」
「……エルザちゃん、ごめんよ」
「……うん、任せてパパ」
パパはボロボロだった。左手はちぎれかかっていて、今にも落ちそうだ。体中、血で滲んでいた。
(パパ……ありがとう。ここからは私に任せて休んでてね)
「……エルザ・スタイリッシュ。通称『狂人のエルザ』。幼少の頃からS級冒険者になることが確定され、冒険者になったばかりにも関わらずその名を知らぬ者は居ない。……お前と戦えることを誇りに思うぞ。エルブレイドの孫よ。はっはっは!」
「…………よく喋るな。お前たちは何者だ」
「……私達は『ゼウスを信仰する者』」
「…… 『ゼウスを信仰する者』……そうかやはりお前達がそうなのか」
(アスフィに宛てた手紙には記しておいたが、どうやら正解だったようだな)
パパからその名前を聞いたことがある。パパも昔、現役の冒険者でパーティを組んでいた時、ダンジョンでコイツらに襲われたことがあったと聞いた。
まさかそんな連中がくるとは。
「お前たちの目的はなんだ」
「目的は既に達成した……」
「……レイラか」
レイラを殺すのがこいつらの目的。
なぜ、レイラなのだ。あいつが何をしたというのだ。
「……だが、俺は決めた。ターゲットは始末した。裏切り者の血族には相応しい死だっただろう。任務は達成した。しかし、俺はこの国を徹底的に潰すことに決めた」
「……なに?」
「『狂人のエルザ』よ。貴様が生きていては何れ、俺達の計画の障害になりそうだ。よってこの国と共に死んでもらう。貴様にもしこの先『子』でも遺されたら面倒だ」
「……それは安心しろ。私のお腹にまだ『子』は居ない。未来の旦那は既に決めてあるんでな」
「……そうか。だが、貴様を殺すことに変わりは無い。エルブレイドの孫である以上、早めにその才能の芽を摘んでおくに越したことは無いからな」
「ならやってみるがいい。この恵まれた才能の芽やらを存分に味あわせてやる」
私だって貴様らを許すわけが無い。
友を殺されたのだ。どこへ逃げようとも追いかけて確実に殺してやる。でなければ、私の気が済まない。
「『超身体強化』(ハイブースト)!」
「貴様の力は承知の上だ。『身体強化解除』」
「な!?」
なんだ……私の『超身体強化』が消えた?
どういうことだ?魔法使いでもないのにどうしてこんな真似が……?
「はっはっはっ!驚いただろう。……あまり我らを甘く見てもらっては困るぞ『狂人のエルザ』」
まさかあいつが手に持っている『赤い玉』……あれのせいか?だが、あんなマジックアイテム聞いたことがないぞ!
なるほど、パパはこれにやられたのか。
パパがこんな連中に負けるはずがないとは思っていたが、
こんなものをやられては勝てるはずがない。
『剣士』泣かせのマジックアイテムだ……。
「……これは厳しいな……ははは」
「俺は剣術の才能がある。元々『こんなもの』を使わなくても貴様に負ける気など無いのだ。しかし、確実に貴様を殺すためには仕方ない。手段など選んでられん」
「よく言う。だったらハナからそんなものを使わず正々堂々戦え。それが出来ないのは自らの弱さを認めているからだろう」
「……確かに、俺は剣の腕ではお前に負けているだろう。だが、俺の十八番は剣の腕では無い。あまり俺を舐めるなよ?ガキが」
「……言ってくれるな。お前もあまり私を舐めないで欲しいものだ。『狂人のエルザ』の異名の由来をその体に教えてやる」
そうだ。私はエルザ・スタイリッシュ。
エルフォード・スタイリッシュの娘であり、
最強の師であり、最恐の祖父であるエルブレイド・スタイリッシュの孫だ。『超身体強化』が封じられたからなんだ。
思い出せ……私本来の力を。私本来の本性を。
***
どれくらい経っただろうか……。もう覚えちゃいない。
もう痛みもほとんど消えた。今はただコイツを……
「エルザちゃあああああああああああああああん」
パパの声だ。
「はぁ……はぁ……なんだコイツは何故まだこうも動ける……」
「……………………………………」
「……なるほどコイツは確かに『狂人のエルザ』だ。両腕が無いのにここまで食らいついてくるとは思っていなかった」
「エルザちゃん…………」
「仕方ない……お前達いぃぃぃぃぃ!増援を呼べぇぇぇ!」
「な……なに……」
増援だと。まだそんな数がいるのか。
既にこのミスタリスには百を超える『ゼウスを信仰する者』が居る。
そのほとんどはパパが倒した。
なのにその上まだ仲間を呼ぶ気かコイツら……!
もう十分だろう……やめてくれ。
これ以上この国を……傷つけないでくれ……
もう十分すぎる程、傷ついた。
(おじいちゃんがいれば……こんなヤツら……)
せめて、こいつだけでも……
こいつを生きて返さない。こいつらは『悪だ』。
せめてレイラの分まで……相打ちでもいい。
ああ……そうだ……相打ちになったらレイラに会えるな。
レイラに会ったら謝ろう……。アスフィに伝えることは出来なかったと。
(パパごめんなさい……私はコイツを道連れにレイラに会いに行きます。先逝く不幸をお許し下さい)
「同じ者を好きになったもの同士天国で語ろうではないか」
アスフィ。最後に君の顔を見たかった。だがそれは願わなかった。すまない。
「――それなら尚更生きていて貰わなければ困るよエルザ」
……聞き慣れた声が聞こえてきた。
私はこの瞬間凄く安心した。もう大丈夫だと。もう休んでいいと。
そして私は静かに眠りについた。
ご覧頂きありがとうございました。
まだまだ続きます。