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攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-  作者: 水無月いい人
第三章 《第一部》ヒーラー 喪失と覚醒の逃避行篇

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第42話「覚醒――憎しみに染まる心」

ご覧頂きありがとうございます。

第三章クライマックスも近いです。

レイラが死んだという報せ。そしてエルザが救援を求めている――。


俺は頭が真っ白になっていた。信じられない。どうしてこんなことになったんだ。俺たちがミスタリスを離れて、まだたったの二週間だぞ……。


震える手で握り締めた手紙には、見覚えのある名前が記されていた。

『ゼウスを信仰するユピテル』――あの時キャルロットが口にした名前。


「……ルクス、俺は戻る」


「アスフィ、今から行っても――」


「そんなことはどうでもいいっ!!!!」


俺のどこにもぶつけようのない怒号が王室に響いた。ルクスが萎縮し、後ずさる。


「ごめん……なさい……」


「……落ち着きたまえ、アスフィ殿。ルクス殿に当たっても仕方なかろう」


落ち着け、だと?これが落ち着いていられるか?

俺が、俺がそばにいたなら――レイラは、あいつは……。


俺のせいだ……全部俺のせいだ。

喧嘩別れしたまま、俺はあいつを一人にしてしまった。


「アスフィ殿、では、僕が連れていこうじゃないか」


「……なに?」


「僕なら君を一日でミスタリスへ連れていくことができる」


目の前で自信満々に宣言するのはキャルロットだった。


「王子キャルロット、それは無茶です!私たちはミスタリスを離れ、一週間歩き続けたんですよ!?それを一日で戻るなんて――」


ルクスの声を、キャルロットは指を振りながら遮る。


「それは君たちだからだ、ルクス殿。僕を誰だと思っている?僕はこの国フォレスティアの王、キャルロット・アルトリウスだ。この森に一番詳しいのは僕であり、この大陸で一番速く移動できるのも僕。つまり――僕だからできる『技』だよ」


その言葉には、不思議と重みがあった。


「……本当にいけるのか?」


「もちろんだ。だが、今すぐ出発する必要がある。覚悟はいいかい?」


「……ああ、もちろんだ。早く行こう」


キャルロットは頷くと、すぐに準備に向かった。


***


合流地点である石門に向かう道中、ルクスが俺の手をそっと握った。


「……アスフィ、大丈夫ですか?」


「……分かってる。大丈夫だ…………今はな」


震える俺の手を、ルクスがさらに強く握る。その温もりが、かえって俺の胸に深い罪悪感を突き刺した。


全て俺のせいだ。レイラを殺した『ゼウスを信仰するユピテル』とかいう連中を……俺は絶対に許しはしない。

生きて帰られると思うなよ。


【それがお前のしたいことか】


ああ、そうだ。お前は黙ってろ。


***


合流地点には既にキャルロットが待っていた。横には見たこともない巨大な虎がいる。


「これは?」


「この子たちは『虎車』と言ってね。君たちヒューマンで言う馬車のようなものだ。馬車よりも力強く、速いんだ」


キャルロットが自慢げに虎の頭を撫でる。その様子に、街の獣人たちがざわついていた。


「キャルロット様!どうしてここに――!」


そんな民たちの声を背に、キャルロットは満面の笑みで振り返る。


「やぁ、君たち!僕は少しここを離れる!だが心配はいらない!すぐに帰ってくる。その間、フォレスティアは君たちに任せるよ」


民衆の不安を一瞬で振り払うキャルロットの声。その背中を見て、俺はこの王がただ者じゃないことを改めて実感した。


***


虎車が森を駆け抜ける。魔獣が現れても、キャルロットの斬撃が一瞬でそれらを斬り伏せる。

その技術と速度には、ルクスも俺も息を飲んだ。


「……厄介なものが出たね」


突如、虎車が足を止める。キャルロットの視線の先には、銀色の体毛を持つ巨大な熊――『銀色のシルバーベア』が立ち塞がっていた。


「物理攻撃が効かない魔獣……厄介だね」


キャルロットがため息を漏らす。


「心配要らない。俺がやる」


俺は前に出た。手をかざし、冷たい声で呟く。


「『死を呼ぶ回復魔法デスヒール』」


呪文が響いた瞬間、シルバーベアは崩れるように地面へ沈んだ。


「……流石だね、アスフィ殿」


キャルロットは感心したように笑みを浮かべる。だがその視線は何かを訴えているようだった。


……

…………

………………


夜になる頃、俺たちはついにミスタリスの門前に到着した。

だが、そこに広がっていたのは――地獄そのものだった。


「……最悪な状況ですね」


「……レイラ……くそっ」


ミスタリス王国は炎に包まれていた。住民たちは皆、無惨な姿で転がっている。


「殺してやる……殺してやる……!」


震える声が、自分のものだとは思えなかった。

胸を締めつけるような怒りと悲しみが、喉の奥から噴き出していく。

それは、俺自身の心を焼き尽くすような叫びだった。


………………。


ただ走るしかなかった。

息が苦しい。足が痛む。視界が滲む。だが、それでも止まれない。


血痕の先に、俺が追い求めている答えがある――そんな確信だけが、俺を突き動かしていた。


そして、俺は見つけてしまった。


レイラの姿を。


血に濡れたベッドの上で、まるで眠っているかのように横たわる彼女を目にした瞬間、心の奥底で何かが崩れた音がした。


「あ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああ!」


気づけば、俺は膝を突き、崩れ落ちていた。

その場で叫び続けることしかできなかった。


「アスフィいけません!まだ壊れては!」


ルクスの声が遠くで響く。

抱きしめられているのは分かる。だが、その温もりも言葉も、今の俺には届かない。


「絶対に許さない……必ず殺してやる」


震える声で呟いたその言葉には、怒りと憎しみしかなかった。

その瞬間、俺の内側から何かが溢れ出した。


黒い瘴気――いや、俺自身の中に潜む闇。

それが具現化するように、体の周囲を漂い始めた。


髪が白く染まり、視界は赤黒く濁る。

まるで体そのものが、別の存在に変わっていくようだった。


「アスフィ……それは……?」


ルクスの声が震えている。

振り返った俺を見た彼女の目には、恐怖と驚きが混ざり合っていた。


「……ああ、俺だよルクス」


冷たい声が、自分の口から紡がれる。

どこか遠くで響いているようなその声は、俺自身のものとは思えなかった。


「ちょっと待っててくれ。すぐ片付けてくる」


ルクスの手を優しく解き、立ち上がる。

彼女の手の温もりが、一瞬だけ俺を引き止めようとする。

だが、もう引き返すことなどできなかった。


怒りと憎しみ――その炎が、俺の全てを支配している。


「――許さん」


その言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身への呪いのようだった。

俺の中の何かが、完全に壊れていくのを感じる。だが、それでいい。今はこの怒りだけが、俺を前に進ませてくれる。


すぐに終わらせる。

俺自身の手で、この地獄を――。

ご覧頂きありがとうございました。

第三章いよいよクライマックス目前。

第三章のタイトルふざけたと思った方も多いと思います。

そんな中のこのお話です。作者も書いてて辛いです。


ちなみに少し前からR15にしました。

リアルを追求する為にはやはり避けては通れないので。


では次回。話はまだまだ続きます。

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