第四十三話「遙かなる宇宙戦争」
戦いの地平にいつもと同じように太陽が少しだけ顔を出し、熱せられた大気が水平線に大気の歪みを作り出す。
トライポッドの熱線がまるでサーチライトのように、まだ明けきっていない群青の空に延びていた。
いくつかの射線が交差して小さな太陽のように地上を瞬間的に照らす。
その幻想的な景色を見ながら、冒険者の騎馬隊が土煙を上げて敵に向かって進む。その中にユーキとフィローラもいた。
切り立った断崖上には次々と飛竜が舞い降り、黒い岩、石鉄塊を腹に抱く。そしてまた、次々と谷底から吹き上がる上昇気流に乗り、魔法の力で大空に舞いあがった。
各国の提供したゴーレムの群れが逝く。先頭はアーヴィア王家の紋章が描かれている盾を持っていた。マリエッタとフィリスたちが操っているゴーレムだ。
数個の隕石が長い尾を引き、まだ暗い空を彩る。ゾーイの率いる高空待機の迎撃部隊が行動を開始した。
トライポッドの降下艇は改良され、一部の装甲板が吹き飛び銃眼のごときに熱線砲口が顔を出す。地上からはきらめく熱線の光が見えた。
各国が総力を結集し、人間と魔族の連合軍が決戦を挑む。
数日に渡る戦いのさなか、遥か高空をチェリッとレックスが行く。そしてクリフォードが用意した最終兵器が火星人の拠点上空で炸裂した。
全てのトライポッドは破壊され、多くの犠牲を出しながらもユーキたちはかろうじて勝利を得た。
観測によれば衛星軌道に異星人の母船はすでになく、火星から地球へ接近している物体もないとのことだ。
半年間の観察期間を経て、各国はこの宇宙戦争の終結を宣言した。
◆
戦いは終わり、ユーキとフィローラは本当に結婚した。そして本当の新婚旅行で、クワクリルトン諸島共和国を訪れゾーイの墓の前に立つ。本島南端の奪還作戦のおり、ゾーイは戦死したのだ。
この国の王もまた、戦いの勝利を前に崩御し、世の中の落ち着きを待って新王が即位していた。
大勢の戦士たち、魔道士、魔法使いたちが死んだ。最後の決戦を前にシャノンの部隊はトライポッドの強襲を受けて部隊は壊滅、彼女もまた戦死した。
ビーチに出たユーキの目の前にはフィローラの紋章がある。初めて見た時はつぼみだった薔薇は、今は大輪に咲き誇っていた。
この花が咲いたのは運命である。紋章はその人なりを表す物語であり、信頼の証だ。こうしてさらけ出すのは当然なのだ。
「泳ぎましょう、ユーキ」
「うん、泳ごう。いや、生きよう。死んでいった人たちの分まで」
「はい」
フィローラは微笑んだ。フィローラに対してはもう恨みも疑念もなかった。それが例え従属であっても、ユーキは受け入れると決めた。少し膨らんだ彼女の下腹部には新たな命が宿っている。
◆
山中の奥深くにある山荘にユーキとフィローラ、そして産まれたばかりの赤子が暮らしていた。畑を耕すユーキは景色の良い場所に立つ、マリエッタとフィリスの後ろ姿を見た。夕日が二人を染め始めている。
この場所で静かに暮らしながら、フィローラは毎日二人の人格を復元している。しかし、状況は芳しくなかった。
従属は今も禁忌であり、人目をはばかる行為であった。それに戦いを終えたノワールも、姿を消したとされていたのだ。
「そろそろ陽が落ちる。帰ろうか……」
「「……」」
ユーキはいつものように声かけをするが、二人はいつものように、ただただ目の前を見ているだけだ。
「この景色が本当に好きなんだね」
それは遠くアーヴィア王国、東の商都イヤーフェウスが望める景色であった。
「懐かしい……」
「?」
マリエッタがぽつりと呟いた。
「私も懐かしいです……」
そしてフィリスもまた続いた。初めての反応に、ユーキの胸は高鳴る。
「ほっ、本当に懐かしく思うの? この景色を?」
「ええ、久しぶりです。今日はずいぶん遠くまで来たのですね」
「ユーキってヘンなの。これを久しぶりに見たら、懐かしいって思うわよ。あれ? でも今日は何で、こんな遠くまで来たのかしら? 私もヘンね。どうしちゃったのかしら?」
ユーキの問いにマリエッタとフィリスは顔を見合わせて笑った。
「フィローラ! 二人が戻ったんだ。来てくれ」
「どうしたのユーキ?」
「本当に今日のユーキってヘンなのっ!」
「フィローラ。やったよ。君のおかげだよ。戻ったんだ――」
ユーキはもう一度叫んだ。山荘から赤子を抱いたフィローラが飛びだして来た。水色の髪を揺らしながら駆けて来る。
戦争は終わり憎しみの時代もまた――終わりを告げていた。




