明らかに不審者なのです
フジョーリノベールはどんな日でも通常通り連載されます。
今、私、バスに乗っているのですが……。
隣に不審者がいます。
具体的にはフード付きの黒いコートを着ていて、その上クチバシのある変な仮面を被ったヒトです。
「…………」
「……ククク」
「っ……!!」
ヤバイ、なんか笑ってる……! 一体何が可笑しいの! メッチャ怖いんですが!!
どうしよどうしよどうしよ。さっきまで初めて二階建てバスに乗れてワクワクのウキウキだったのに。都会の街並みとか、路上パフォーマンスとか楽しみにしてたのに。
隣のヒトが気になり過ぎる!!
いっその事、話しかけてしまいましょうか? 勝手に不審者と決めつけちゃったけど、このヒトは私より先に席に座っていただけで、特に不審な事をしたわけではないですし。今の所、不審者ポイントは顔を隠した格好と不気味な笑い声だけですし……。
……いや十分不審者なのですが!?
無理だ。話しかけるだけの度胸が、私にはない。私はか弱い乙女なのです。
せめて、他の席に移れれば……満席じゃん。逃げられない。あれかな、ボスから逃げようとするキャラクターの気持ちってこんな感じなのかな。
「……どうかしましたか?」
うわぁぁぁあああああ!!! はなしかけられたぁぁぁあああああ!!!
あ、でも意外と優しめなイケボ。
「あ、あああ、い、いえ! こ、このバス人気だなぁって思いまして」
「本当にそうですね。私なんかパソコンに張り付いてやっと予約に成功しましたよ」
「そそそ、それは良かったですねぇ!?」
なんか、フツーに喋ってる!? こんな、どっかの収容施設に入れられてそうな見た目なのに!
私以外の観光客の皆さん、見てますか!? 一人の乙女が不審者に話しかけられていますよ。ガン無視ですか? そうですか。
嗚呼、アナウンスが始まった。バスが出発するぅ。
そして、バス観光自体は平和に進行した。不審者がチョイチョイ私に話しかけながらも。私の心は全然平和じゃなかった。
最後までドキドキが止まらなかったのは緊張のせいか、それとも……。
作者は物語以外のウソはつかない主義です。