第十三話
次の日、俺は剣聖の完全なるマンツーマン指導による訓練を行っていた。
俺が今使っている(昨日譲り受けた)武器は、『マサークル・ジュスティス』という名のハルバートだ。
名前は仏語で「正義の虐殺」を意味する。3.2㎏もの重さで、敵をなぎ倒す。このハルバートの斧頭には、キジのシルエットが彫られている。
でっかいハルバートのことを教える剣聖もすごいが、彼はさらにすごい。
なんと刀、槍、薙刀、レイピア、ハルバートの師範免許を持っているのだ。『師範』の資格は一種でも六段以上になればその武器の師範資格が入手できるが、五つなんてのは到底出来っこない。
そんな「最強の剣士」の指導のおかげで、俺はどんどん成長していくのだった。
夜になると俺ら三人は住居部分の一階で食事をとって楽しくしゃべった。だが。
「真田さんの家族って、どんな人でした?」
「真田さんの好きなタイプってどんな人ですか?」
剣聖の孫娘であるという女の子(美百合ちゃん)が俺のことにすごく興味があるようで、毎晩質問攻めに遭った。剣聖は笑いながら見ているだけだった。
剣聖は社会から、『言葉の達人』とも言われていた。ある日俺がかないつらい訓練で「やめたい…」と弱音を吐いてしまった時、彼は俺の目を見て
「お前さんがここで立って技を習得すれば、一人でも多くの人の命が戦争で亡くなるのを防げるかもしれないのじゃ。やめるのは簡単だが、もう一回始めるのは難しいぞ」
と言った。真の偉い人間は、こうであるのかもしれない。
おかげで俺は技を大量に習得し、強くなっていった。
大した国の動きもほとんどなく(千葉漁船が一隻沈められただけ)平穏な一ヶ月が過ぎて行った。
七月六日の夜。いつも通りの夕食。いつもは口数が食事中では一番少ない剣聖が大一声を出した。
「真田君や。明日は君の誕生日だと聞いているが実はな…」
「何でしょう?」
「君には黙っていたんじゃが、明日は代々木公園特設ステージでの剣士一斉昇級試験なんじゃ」
「えっ?」
「だから出かけるのが早い。しっかり寝ておけ」
「頑張ってくださいね、真田さん!」
「はい、頑張ります…」
彼らの目は期待に満ち溢れていたが、俺の目は残念な感じに閉じようとしていた。
「彼は何段に挑戦するんでしょうかねぇ、宰相閣下」
「6段あたりじゃないのか?」
私に愚問を投げかけた陸軍大将の顔は、少し怖がっていた。
「でも、私を抜かれるときついですね。上官の顔が立ちません」
「まぁ、彼は実戦経験がないからな。当分青年志願兵のままだろう」
それでも私たちは彼の試験を見ずに執務へ向かうのだった。
だが、私たちは今日が波乱の一日となる事を夢にも思っていなかった。
午前8時。試験が始まる。今回の試験は、まず剣聖が指名ならびに挑戦する階級を言って評価の対象である『演舞』をさせる。そして終了後に合格か否かが下されるのだ。
つつがなく試験は進んでいった。そして最後に、俺の番となる。
よし、この一ヶ月で培ってきたものを見せてやる。指導された内容も全部覚えてばっちりだ。
「真田涼」
名前が呼ばれ、壇上に出る。
「挑戦階級、十二段」
一斉に観客がどよめく。俺もびっくりした。何しろ今まで何段に挑戦するか聞いていなかったもんだし、
十二段は最もレベルの高い階級で、世界に今まで3人しか現れたことがないという。
「演舞開始」
俺は1か月の間学んできた全てのことを出してハルバートを振った。
観客からの歓声など耳に入らなかった。逆に頭からは剣聖のあの言葉が響いてきた。
そして終わった。剣聖に演舞を見せた。どんな反応だろうか。
「真田涼は、」
ここにいる者全員の目が剣聖に向く。
「合格」
「オオーッ!!!」
観客が一斉にどよめく。
信じられなかった。1か月だけでこんなになってしまうなんて。これでやっと(?)剣士になった。
しかし、剣聖が試験閉会の挨拶を述べ終えたちょうどその時
ダァァァン
静まり返った会場の空気を切り裂く銃声が鳴り響いた。




