表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/80

74話 タルト・タタンと宣戦布告

74話 タルト・タタンと宣戦布告


 閉店時間が近づく頃、月は最後のお客様に深く一礼した。


「本日はご来店ありがとうございました! またぜひお越しくださいませ!」


 扉の鈴が軽やかに鳴り、お客様が去っていく。静けさが戻った店内で、月はゆっくりエプロンを外し、喉を潤すように紅茶をひと口含む。


「ふぅ……やっぱり接客って面白いわ。姉様がこの仕事に夢中になってる理由、少し理解できた気がする。」


 その何気ない一言に、弥生は目を丸くして忍へそっと囁いた。


「……月様、もしかして雪乃様より接客上手じゃありません?」 「いや、わりと本気でそう思いますよ。雪乃様、戻ったら危機感を覚えるかも……。」


 二人がひそひそと囁く横で、月は上機嫌に片づけを手伝い、店の空気をやわらかく照らしていた。

 今日一日で――彼女が店の“看板娘”として十分すぎるほどの才能を発揮したのは間違いない。


 


――――

明日のスイーツを決める時間

――――


 閉店後。

 月はカウンターに腰を下ろし、紅茶を片手にメモ帳をぱらぱらとめくった。


「さて……明日のスイーツはどうしましょうか。」


「月様、今日もお疲れさまでした。明日の準備はゆっくりでも――」


 弥生が声をかけたが、月は即座に首を横に振る。


「だめよ、弥生。スイーツ作りって“仕込みのタイミング”がすべてなの。今日のうちに方向性を決めておきたいの。」


 真剣にメモを見つめていた月は、やがてぱんっと手を叩いた。


「決めたわ! 明日のスイーツは――タルト・タタンにします!」


 弥生の声が裏返る。


「タ、タルト・タタン!? リンゴをキャラメリゼして、パイ生地をかぶせて焼き上げる……あの、ものすごい手間がかかる……!」


 月は胸を張って堂々と宣言した。


「そう、その“手間”こそが魅力なの。甘くて少し切ないリンゴの香り、しっとりとした果肉……サクサクのパイ。想像しただけで幸せでしょう?」


 クラリスがうっとりとため息をつく。


「たしかに……贅沢で素敵な一皿になりそうです。」


 


――――

タルト・タタンへの挑戦

――――


 厨房に戻ると、月は迷いなくりんごを手に取り、てきぱきと皮をむき始めた。

 バターが溶け、砂糖が琥珀色になり始めると、甘く焦げる芳醇な香りが空気を満たしていく。


「……月様、本気なんですね。」


 思わず漏らした弥生の言葉に、月は軽やかに笑った。


「もちろん。本気に決まってるでしょう? だって――」


 くるりと振り返ると、瞳の奥にきらりとした光を宿す。


「明日は特別な日だから。」


 忍が首を傾げる。


「特別……とは?」


「ふふ、お察しのとおりよ。――スタードールに、格の違いってやつをお見せする日。」


 あまりに堂々とした宣言に、厨房が一瞬静まり返った。


 


――――

宣戦布告と、月の覚悟

――――


 クラリスが心配そうに尋ねる。


「月様……そんなはっきりと宣戦布告してしまって、大丈夫なんですか?」


 月はオーブンの前に立ち、焼き上がりを見つめながら微笑んだ。


「大丈夫よ。だって――この店は“雪の庭”。私の姉様が守ってきた看板を、簡単にくすませるつもりなんて、これっぽっちもないわ。」


 弥生が深く息をつく。


「……やっぱり、雪乃様の妹さんですね。本当に、引かない。」


 タルト・タタンがオーブンの中でこんがりと色づいていく。

 その香りは、甘く、力強く、どこか勝負の匂いが混じっていた。


 月は静かに、しかし強い声で言い放つ。


「明日は、お客様に“圧倒的な違い”を味わっていただきます。スタードールに負ける? ありえませんわ。」


 その言葉に、弥生も、忍も、クラリスも、セリーヌも――

 胸の奥からじわりと湧き上がる闘志を感じずにはいられなかった。


「……明日、全力で臨みましょう!」


 弥生の声に、全員が頷く。


 こうして、「雪の庭」スタッフ総出の“勝負の日”が幕を開けようとしていた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ