40話 迷惑すぎる知らせ
40話 迷惑すぎる知らせ
王宮から届いた“名誉のはずの通知”を前に、雪乃はテーブルに突っ伏していた。
「なんでこうなるのよ……私、王宮に喧嘩なんて売った覚え、一ミリもないんだけど?」
額を押さえながら呻く雪乃。
弥生は困り顔で、木箱から引っ張り出した例の看板を持ち上げた。
「ですが、お嬢様。王宮御用達に指定されるなんて、普通の店なら名誉ですわよ?」
雪乃はバネ仕掛けのように起き上がる。
「私は普通の店なんてやってないの! 静かに優雅に紅茶を飲むための“趣味空間”なの!」
「(趣味空間なのに営業してるんだよなぁ……)」
忍の冷静なツッコミは、心の中でだけこだました。
雪乃は看板をじとっと睨む。
「これを掲げたら……絶対お客様増えるじゃない。いやよそんなの!」
「しかし王宮の命令ですから……従わないのは難しいかと」
忍が淡々と言うと、雪乃は「うぅ……」と唸り声を漏らした。
「だったら……だったらせめて、店のすみ~っこ……見えにく~い場所に……そっと置くとか!」
「お嬢様、それは無理です。明らかに“掲げてません”と判断されます」
弥生の正論に、雪乃はぎゅっと唇を噛む。
「……分かったわよ! 掲げればいいんでしょ、掲げれば! どうせ誰も気にしないに決まってるわ。王宮御用達なんて、ただの飾りよ!」
その言葉は、現実をまったく理解していない人の典型例だった。
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翌日。思わぬ“効果”
翌日、喫茶「雪の庭」の入口には――
ばーん、と場違いなほど堂々とした「王宮御用達」の看板が掲げられた。
雪乃は、カウンターで膝を抱えながらぶつぶつ言う。
「嫌な予感しかしない。絶対、貴族とか商人とか、ぞろぞろ来るわ……」
しかし開店から1時間が経っても――
「……お客様、来ないわね」
雪乃がそっと時計を覗く。
普段なら常連たちが入れ替わり立ち替わり訪れる時間帯だ。
だが今日は、風が店内を横切る音しか聞こえない。
弥生も首を傾げる。
「……どうしたんでしょうか?」
その時、扉がゆっくり開いた。
「よぉ、雪乃。今日も……静かだな?」
常連のレオンがひょっこり顔を出した。
「レオン、どういうこと? なんでこんなにお客様が来ないの?」
レオンは店先の看板を親指で示し、ケラケラ笑いながら答えた。
「そりゃあ……あの看板のせいだな」
「看板?」
「“王宮御用達”って書かれた店だと、庶民は気後れするんだよ。
『自分みたいなのが入っていいのか?』ってな。
俺も最初、ちょっと躊躇したぞ?」
「……! つまり……」
雪乃の瞳に、一気に輝きが戻る。
「この看板のおかげでお客様が減ったってことじゃない!」
「お嬢様、それ喜ぶところじゃありません!」
弥生の悲鳴にも似た声をよそに、雪乃は深く、深~く頷いた。
「いいのよ弥生。
これで静かな午後が保証されるなら……むしろ王宮には感謝したいくらいだわ!」
「(いや、そこは普通怒るところでは……)」
忍の心の中のツッコミが再び発動する。
雪乃は満悦の笑みを浮かべながら紅茶を啜った。
「ふふ……王宮御用達の看板って、案外使えるじゃない」
こうして――
“客が増えるから嫌!”と言いながら、
結果、客が減って満足するという、なんとも雪乃らしい展開で幕を閉じたのだった。




