いつも変わらぬ応援/そして当日へ
「しかし、まぁ……よくこうもたくさんイチャコラできるもんよね。羨ましい限りだわ」
「えへへ〜! これこそ、愛のなせる技ってもんよ!!」
「あー、はいはい。それはもうお腹いっぱいよ」
「むー……!」
場所は変わって大浴場。
一日の疲れを取るように、様々な寮生が体を洗っては温かい湯船に浸かって、人によってはあまりの疲れで溺れかける人もいる。
そんないつもの騒がしい大浴場で、私と麻那は湯船に浸かりながら雑談をしていた。
もっとも、雑談といってもほとんど私と大和が普段部屋で何をしているか、というものだが。そして私はいつもと同じように、今日あったイチャイチャの内容を口にする。
恋人繋ぎをしたまま床に寝転がったり、大和の膝の上に座ってお昼寝したり、お互いに“好き”が暴発してキスをしたり……。
大和との思い出を忘れないように、私はゆっくりと麻那に報告する。
そして麻那は決まって「甘ったる……」と嫌そうな顔をして話を中断させてくる。
そこまで甘いのだろうか、私の話は……。
うむむ……よく分からない……。どのラインからが甘ったるい判定になるのか、一度麻那に問いただしてみたい……。
そんな事を考えていると、話を部屋で話していた時のものに戻す麻那。
「それより、さっきのチラシ。本気なの?」
と言いながら。
さっきのチラシ。麻那から最後に渡されたチラシ。
そのチラシを見たとき、私は確信した。
『これなら大和も喜んでくれる!!』
と。
そんな想いを持ちながら、私は麻那の質問に答える。
「もちろん。花火大会くらい、大和にものんびり休んでもらいたいじゃない?」
と。
私の答えに、麻那はわかりきっていたかのように、「あっそ」と素っ気ない言葉を漏らす。
それと同時に、
「まぁ、梨花がいいならいいんだけどさ。何があっても知らないよ〜」
「……? それってどういう意味……?」
「それは当日のお楽しみにしてた方がいいかもね」
と意味深な言葉を私に向ける。
「それに、その方が面白そうだし〜」
そう言って麻那は、一足先に湯船から上がり大浴場を後にしようとする。
彼女の引き締まった体の裏で、ニヤニヤと口元が緩んでいる気がするがきっと勘違いではない気がする。
そう思って私は、麻那の後を追う。
「あっ、ちょっ……麻那!? 待ってよ! どういう事か言ってからお風呂上がってよ!!」
「私は人の恋路を邪魔するほど、暇人じゃないもんでねぇ〜」
「でも私と大和がデートする時はアドバイスくれたじゃない!!」
「アドバイスと邪魔は別物よ。今回のは……まぁ、邪魔になりそうだから身を引くってだけ」
そう言って、麻那はひらひらと手を振る。
一向に私に顔を見せない彼女だが、その表情がきっと好意的なのだろうと、長年の間で分かってしまう。
……伊達に、二年間もバッテリーを組んでいない。
麻那が私の事を分かっているように、私も麻那の事を分かっている。
だからこそ、
「こう見えて私、梨花の恋、応援してるんだからね?」
私にも麻那の事を応援させて欲しいと、時々思ってしまう。
◇◆◇◆◇◆
花火大会当日。楽しみにしている事が待っていると、その分時の流れが早く感じ、あっという間に当日だ。
「んじゃ、今日はこの辺りで終わらせるか」
テーブルの上に広げていた参考書を閉じながら、俺は対面に座る梨花にそう告げる。
「え、いいの? まだいつもより結構早いよ?」
梨花はそう言ってキョトンとした顔で俺の方を見る。
筆記用具は手から離さず、問題用紙と俺を交互に眺める梨花。
うん、いい感じに勉強癖がついてくれて嬉しい限りだ。
とはいえ、今日は花火大会に行くと決めていたので早めに切り上げるのは確定している。
それこそ、普段の二時間くらい早めに。
その理由は単純明快で、
「早めに行かないと良い場所で花火見れないからな。調べた限りじゃ、毎年良い場所とるのに大変らしい」
「やっぱり、みんな花火大会ってだけあっていっぱい人が集まるんだね〜」
「だから俺らも早めに準備して行こうぜ。今なら、まだ余裕ラインだし」
と、とにかく場所取りが大変らしいのだ。
一人で花火大会行く分にはギリギリまで勉強していてもいいのだが、今年は違う。
梨花と一緒に行くのだから、いいところに余裕持って行き、その分のんびりしたいのだ。
のんびりしながら、梨花と過ごしている大事な時間を存分に味わいたいのだ。
と、益々梨花への想いが強くなっていってる自分を実感していると、梨花が突然、不敵な笑い方を始める。
「ふっふっふ……」
「梨花……? どうした……??」
「心配ご無用だよ、大和! 私がとっておきの場所を既に確保しておりまする!!」
「え、そうなのか?」
口調がどこかおかしい梨花に、少し心配になる。
しかし、それ以上に、彼女が口にした『とっておきの場所』というのがとても気になって仕方ない。
楽に梨花と花火を見られるなら、それに越したことはない。
そう思いながら、梨花に期待の眼差しを向けると、彼女はそれに応えるように胸を貼りながら自信満々に言葉を発する。
「もちろん! 運動部に二言ないよ!!」
と。
「それを言うなら『武士に二言はない』……」
いいところで締まりが悪いのが梨花らしい。
「いいから! もう少しのんびりしよ? なんなら余った時間でイチャイチャしよ?」
「え、余った時間があるなら追加で勉強をしようかなと」
「行こう! 今すぐ行こう!」
「……冗談だよ。余った時間はイチャイチャしようか」
恥ずかしさで顔を赤らめたり、そうかと思ったら今度は慌てふためいたり。
どんな梨花でも好きである事には違いなかったが、やっぱり俺はイチャイチャしている時の梨花が一番見たい。
そう考えていたら、気づけば梨花を後ろから抱きしめていた。
「えへ……えへへ……。大和、しゅきぃ〜」
「俺も好きだぞ〜」
梨花を抱きしめる腕に、彼女の腕がキュッと重なる。
彼女に引き寄せられるように俺の体は前のめりに。
目線を下ろせば、服越しでも分かる梨花の小さくない胸の膨らみ。
普段は背中に感じるものが今は目の前。
どこか変な気がして。どこかいつもと違うような気がして。どこか梨花を攻めているような気がして。
そんな気が膨らんで膨らんで……
───俺は花火大会を待たずして梨花にキスをした。
一度はピクッと肩を震わせた梨花だったが、それ以降は何も抵抗なく。
「もう出なきゃダメじゃん!!!」
「大和が張り切るからでしょ!!?」
「ホントごめん!!!!」
結局、時間ギリギリまでイチャイチャする事になってしまった。




