歯切れが悪いぜテシンさん
その後、楽しいお食事会は続いた。
魔法が見たいと言われたので、普段練習しているファイを手のひらから出す。
まるで子供が花火を眺めている様な、無邪気な笑顔が彼女から溢れた。
こんな些細な魔法で喜んでくれるなんて、練習しておいてよかったなぁ。
「ねぇエーフィー、どうして私が国から追われているって分かったの?」
「ふふん、そりゃあテシンさんを見てたら分かりますよっ! 真っ白で綺麗な手、輝く光沢のある赤い髪の毛……ま、極め付けは首につけてるチョーカーなんですけどね! 知ってますよそれ、貴族の友達も畏まった場所では付けてますから!」
各言う私も持っている。
同じものではないが、全校集会などに出席する時に学年を別ける為に使うのだ。
位の高い身分でしか装着出来ない代物。当然世界でも名門校のマギシューレンならではである。
「なるほどね、そんな文化が……じゃあ、私の事を本当に知ってる訳では無いのね」
テシンさんは独り言を言いながら、ポケットにあるタバコを一本口に咥えた。
私はすかさず指先からファイを出し、灯す。
「えへへ、やっぱり私の勘は鋭い! もし国に戻ることがあれば旅行に行きたいですね! ちなみにどこの国なのですか?」
「えええーっと……し、シーカイから来たのよ!」
「シーカイ? あの西の大陸の5つ国の一つですよね? あれー? チョーカー嵌めるほどの位の高い家柄ってありましたっけ?」
「うう……そ、それはここに来るまで住んでいた所で、生まれはマナーカ王国だよ」
うーん? なんだか歯切れが悪いなテシンさん。しかもマナーカ王国ってまさに今の私にうってつけの情報じゃないか。
いいね。お金の為シャーリーさんの為、ここいらで情報収集しとくかぁっ!
「マナーカ王国!! 軍事国家じゃないですかー!」
「う、うん! とっても強い国なんだよ!」
「でしたら、破壊神と呼ばれる人って知りませんか? ここは内緒のお話しなのですが、今それ関係で調査の仕事をしてましてね。マナーカ王国の情報がもっと知りたいのですよ」
私がそう言うと、テシンさんはタバコの煙にむせたのか、大きく咳をし始めた。
何事かと思ったので背中をさする。
「大丈夫ですかテシンさん!?」
「え、ええ……大丈夫。で、破壊神だっけ?」
おお、マナーカの住民が震える程の人なのか、目が恐怖の色に染まっている。
「破壊神ね、破壊神……あれには、近付かない方がいい。悪い事は言わないからさ」
やっぱりやばい奴なんだ。マナーカの人がそう言うのだから間違い無い。
シャーリーさんにもエラッソ達にも伝えておこう。
「うげー……やっぱり噂は本当だったんですね」
「噂?」
「はいっ! どうも戦時中に殺した敵兵の腕を引きちぎって、そのまま焼いて食べながらさらに人を殺して回ったそうです。狂人なんてもんじゃありませんよ」
またテシンさんが大きくむせた。
今度は半端なく苦しそうだ。
「大丈夫ですかテシンさん!?」
「うう……だめかも」
沸騰させて滅菌した水を注ぎ、テシンさんに渡す。
もしかして会った事があるのだろうか。その時手酷いトラウマを植え付けられて、今それが脳裏に現れてる。
「やばそうですね破壊神、このエーレに紛れ込んでるのだけは掴んでいるのですけど、絶対に放置しては置けないです」
「その……案外良いやつよ?」
「え!? やっぱり見た事があるのですか!? 特徴を、特徴を教えてください!!!」
これは思いがけない収穫である。
顔さえ判明すれば後は簡単だ。エラッソやコリーさんの情報網と、シャーリーさんの捜査能力があれば三日と掛からず本人を特定出来るだろう。
「えー……特徴ねー……どんな顔してたかなー」
「犬の餌のお礼と思って、ね? テシンさーん」
交渉の基本中の基本、まずは相手に得をさせるのである。
まぁ自分の内側の感情に従っただけなのだけど、思わぬ所で良いカードを出せるものなのだ。
「う、うう……」
「はい紙とペンです!! 明かりはファイを空中に浮かべて置きますから明るさは十分ですよねっ!」
テシンさんは渋々と云った表情でペンを取り、その場で描き始めた。
髪の毛はなく、スキンヘッド。隆々とした筋肉をその身に宿し、顔の堀は深く、不敵な笑みをチラつかせている。
「こ、こんな感じだったわね! 記憶が正しければ」
「ふえええぇぇー……悪ッッそうな顔してますね! なんだか許せませんな!」
私が憤っていると、テシンさんは残りのお肉を口の中に入れてしまい、一息つく。
思えばもうこんな時間だ。家に帰ってバッグの中にいるホッシーにご飯を食べさせないと。深夜営業してる市場に寄ってもう一つステーキ肉買おっと。
「じゃ、テシンさん! 遊びに来ますね! もしお仕事見つからなければ遠慮なくここの住所に来てください! それじゃあ!」
小さな紙に家の住所を記載し、彼女の柔らかくて白い手の中に包み込んだ。
にしてもこの似顔絵、本当に悪そうな顔である。
悪の親玉みてーな感じだ。これなら確かに腕食ってても違和感なし。
100話記念! ちょっとした裏話し!
実は作者、今年一年で110万文字書いてました!!
ヒューーー!!
くそどうでも良い情報ですね!!
あざっしタァっっ!!