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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
時針の覡
26/27

時針の覡 8.5

 純白なる清廉さを際立たせる建物の屋上。そこで物思いに耽るかのように女は下がる夕日を眺めていた。

 女の名は佐々美野里(ささみのり)。活動頻度こそは低いが、彼女は抑止力団体の殲滅隊と言う戦闘そのものを主に置いた巫女の守護者をしている。殲滅隊での実力は一つの部隊を任せられるほどである。そしてその実力を認められて今回の任を任せられたのだ。

 自分の強さが信仰に繋がり、比例することは知っている。そしてそれこそが正義なのだと知っている。だが、こうして一人もの思いにふけているとどうして自分の強さに不満を持つこともある。本当に今のままの力で大丈夫なのかと。特に羽黒と言う突如と現れた巫女の守護者。あの時はいつでもねじ伏せられると判断して身を退いたが、改めて考えると不可解なところだらけであった。巫女の加護を受けていなかったのにも関わらず立ち上がった。更に言えば、これは美野里の直感的なことであったが彼は何かを、何か別のものを隠している、身の奥に潜めているように思えた。

「どうかなされましたか、美野里殿。随分と根を詰めたような顔模様ですぞ」

羅咒撒(らしゅま)か。ただ、この作戦が上手くいくかどうか考えていただけです」

 突如と背後から現れた長身な男に美野里は何一つ動じることなく、落ち着きを装ってその男の横を過ぎ通ろうとする。美野里が男のすぐ隣まで来たところだった。男は横目で美野里を見て呟いた。

「身を案じることは何もありませぬ。今回の件、この度の作戦で収集された殲滅隊は精鋭、強者の集まりばかり、ましてや数人相手には過剰でありましょう。それに、これほどの戦力などなくても大丈夫なのでは?」

 男はニヤリとした、何かを舐めるような笑みを作った。美野里はキリッとした顔で男に喝を入れるように睨みを利かした。

「羅咒撒、抑止力団体の目的を忘れたわけではないだろうな? 均等を守るのに過剰も何もないぞ」

「ええ、その通りでしょう。しかし、私奴(わたくしめ)の忠義、信仰の対象は天海様にあることをお忘れなきことを。此度の件、ミャルクヨの巫女の処分は全て天海様自らが下した命、だからこそ此度は出たまで。理解のほどをよろしくお願いいたします」

 そう男はぺこりと頭を下げる所属は同じであっても信仰は違う、だからこっちはこっちで勝手にやらせていただく、と言った具合のものだろう。

 美野里にとって羅咒撒は理解し難いモノとの認識であるが、やはり今でもそれは変わらない。抑止力団体の皆は世界の均等を望んでいる。そのための抑止の柱への信仰だ。だが羅咒撒は違う。羅咒撒だけは抑止の柱である天海だけに対象を絞って信仰をしている。さらに、美野里が他の者から聞いた話による羅咒撒は呪術師、陰陽師であったとの噂を聞いている。その事が真であれば何故そのような者が抑止力団体にいるのだろう。羅咒撒に対する考えは美野里の頭の中でそのように渦巻いていた。今そのような事を気にする、考えても仕方が無かった。美野里は再び建物に入って行った。そして羅咒撒はそれを屋上で見送った。

「さて、美野里殿はどのくらいで使い物にならなくなるでしょうな。早速と楽しみになってきましたよ、そう思いませんか? 天海様」

 その問いかけに応えるように、あるいは初めからそこにいたかのように姿こそは人間の若い男であるが、その中身は神そのものであった。そう、その神こそが天海、天海ノ定海都筑であった。

「悪趣味が過ぎるぞ羅咒撒劫茶陀(らしゅまごうじゃだ)。まあ、アレをどのように利用しようがお前の勝手だ。今回も、期待しているぞ」

「そのお言葉、ありがたき幸せです。ですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ん? なんだ、構わん。言ってみろ」

「はい、恐れながらなのですが、薬丸如来についてやや簡潔過ぎたかと。もう少し追い詰める、痛めつけてもよかったかと……」

「いや、あれはあれでいい。あれはあくまで仙痛命酔を手に入れることに目標があった。それに、雪穂と言う女がミャルクヨの巫女を手に掛けようとした、その結果だけあれば後はお前の呪術でどのように調理も操ることもできるだろう?」

 あの時の天海の目的は仙痛命酔とそのレシピを手に入れることであった。そして、その過程で雪穂が美琴に手を掛けた、その結果が欲しかった。そのため、それ以外のことはどうでも良く、些細なことでしかなかった。

「なるほど、何も全てを直ぐに終わらせることは無いと。それでいて私奴にあの術を成せと言うのですか」

「可能であろう、羅咒撒劫茶陀。お前の呪術を使えば、ミャルクヨの巫女に手を掛けようとした結果を持つ女と、あの守護者をぶつけることなど容易いだろう」

「ええ、できますとも。しかし、その前にとある呪狐(じゅこ)を呼び起こしてもよろしいでしょうか? アレを使えば更に面白くなるかと」

「罪、咎、穢れ、恨み、憎しみ、それら類の呪い全てを司り、身に受けたあの小動物か。いいぞ、存分に使ってみるがいい」

 羅咒撒は頭を下げ、「承知」と言い己の計画を進めるための許可を天海から得た。

「羅咒撒劫茶陀、分かっているとは思うが、お前はあまり前線には出過ぎるなよ。いくら呪術の対抗が巫女の加護しかない守護者でもあいつは桜花十蔵の生まれ変わり、依代だ。用心しておけ」

 桜花十蔵、神の間では刀を持てばたとえ相手がどのような存在でも斬ることができると語られている男だと羅咒撒は天海からそう教わった。しかしそれはあくまで巫女の加護を受けていたから、桜花十蔵がミャルクヨの信仰の力を使って刀を振るったからである。ミャルクヨの信仰の力が皆無な今、桜花十蔵がいない現世ではもはやその物語はただの伝承でしかない。ならば恐れることなど羅咒撒には無かった。だから羅咒撒は自信満々にと笑みを浮かべて天海にと伝えた。

「この羅咒撒劫茶陀、天海様の悲願を果たすために身を尽くす約束しましょう。そして、あの忌まわしき守護者、桜花十蔵めの依代を完膚なきまでに追い詰めましょう。そのためにも、あれらの者たちには毒の酒壺にでも入ってもらいましょうか」

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