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第三話 最初の戦い

 おかしい。

 城門を抜けて暫くした後、乗せてきてくれた商人のおっさんと別れてこの第二騎士学校に来たのだが……おかしい。

 誰もいない。

 校門らしきところをくぐり、昇降口付近にあったベンチに腰かけて待っていたのだが誰一人として来ない。

 別れ際におっさんからもらったサンドイッチを食べながら左手首に付けた腕時計を確認する。

 レディースの小さくてシンプルな時計。母が付けていたもののおさがりだ。

 ()()()に来てから半年近くなる。腕時計を持ってるから時間の経過を調てみたが、いつも12時を指すころには太陽が一番上あたりに来るのでそう大きなズレはないはず。

 多分この世界の人たちとの時間感覚もそう変わらないと思う。

 で、時刻は12時20分を回るとこ。

 入学式の開始は午後1時と大分遅い。地方から来る人たちの事や騎士団の事情でこんな時間になったのだそうだ。

 早く着いたとは思うけど人っ子一人いないのはおかしくね?

 入学する予定のピッカピカの一年生も教職員の姿もまったく見えない。

 手荷物の中ら入学式の案内の書き写しを取り出し内容を再確認する。

 うん、確かに午後1時からだ。 俺が映し間違えていなければ。

 サンドイッチを食い終えた俺は案内の用紙をしまい、時間までどうしようか考えながら、ふと左のわき腹を触る。

 微かにへこんでいる。




 ~~~




 騎士。

 鎧を身に纏い、剣と盾を構え、正々堂々と戦う。

 騎士の事を思い浮かべれば大体はそういう感じの事が出てくる。

 目の前のこの人もおそらく騎士なのだろう。

 銀色に輝く鎧を纏い、赤いマントを靡かせるのはおそらく30代後半の男。

 父さんと同じくらいの歳かもしれない。

 顎に髭を蓄えた精悍な顔つきだ。


「立てるか少年」

「え、あ、その……」


 優しい笑みで聞かれ立ち上がろうとするがうまく立てない。

 助けが来た事に安堵して力が抜けたんだと思う。


「よろしい、ならばそこでゆっくり休んでおくといい。この賊どもは私が何とかしよう」


 こちらの状態を理解したのか無理に立とうとする俺を制して相手に向き直る。

 頭が少しずつ落ち着いてきた。状況がどうなっているのか必死に理解しようとする。

 騎士の前では吹き飛ばされたあの男が立ち上がろうとしていた。その顔には靴跡のような土汚れがついている。

 まさかこの人、蹴り飛ばしたのか。しかもさっき着地したのを見たから多分飛び蹴り。

 鎧を着た状態で飛び蹴りをかます騎士もそうだが、それを受けてなお立ち上がれるアイツもヤバい。

 後ろからは、騎士と似たような軽装の鎧を付けた騎馬がとことこと歩いてくる。

 多分あれから飛んだのかもしれない。


「おうおうおーう……痛てーじゃねーか、よう、なあ?」


 蹴られた顔をさすりながら賊の男が立ち上り、落ちていた剣を拾う。

 無駄に緩急のついた喋り方が聞こえ身が竦み上がる。


「安心しろ、抵抗せず大人しくするのなら、これ以上荒い事はしない」

「ふーざけやがって、お前ら! 何してんだ!」


 男が叫ぶと森の中から2人の男が出てくる。

 全員リーダー格の男と似たような格好をしているから多分アイツの仲間で、さっきまで逃げる俺をいっしょいに追いかけていたやつらだ。

 そいつらがにやにやと笑いながら出てきて俺たちを取り囲むように移動する。


「わりぃわりぃ、騎士が出てきたもんだからついビビっちまってよ、へへっ」


 騎士の後ろに回り込んだ熊のような大男が剣を抜きながらそう言うが、悪びれた様子ない。むしろ笑っている。

 騎士を挟んで森の反対側に回った馳せた男も、サバイバルナイフのようなものを器用に手の中で回しながら、同様に笑っている。

 こいつらはあまり仲がいいわけじゃないのかもしれない。


「でもこいつ馬鹿だぜ? 自分の剣投げてらぁ」


 痩せた男がそう言ってはっとする。リーダー格の男は拾い上げた剣を2本持っていた。

 右の1本は質素な作りの普通の剣で、森の中で突きつけられたものだ。

 左に持っているもう1本は銀細工が施された剣。おそらく騎士が投げたのはあれだ。

 俺は絶望した。剣を投げて相手の剣を弾き飛ばしたから助かったけど、その剣を相手に奪われて複数の敵に囲まれたこの状況、大丈夫だと言われても無理だ。


「はんっ、剣を投げて蹴りかまして、それが騎士の戦い方かよ」

「子供をよってたかって追い回し、盗み殺しを躊躇いなくできるお前たちに、私の事をとやかく言われたくないな」


 リーダーの言葉にそう返す騎士は笑みを崩さない。

 すると森から弓を構えた男が出てきて、すかさず騎士に矢を放つ。

 姿を出す時のに葉がこすれる音で気付いたのか、騎士は難なくそれをかわす。

 しかし後ろにいた大男が騎士に向かって走り出し、騎士に斬りかかろうとする。


「もらったぜ!」


 だが、騎士は後ろからの攻撃をかわし、振り下ろされた腕をつかんで捻り上げ、相手の剣を奪う。

 間髪入れず足払いで相手を転倒させ、後ろから左胸を一突き。


「こっ、こいつ……!?」


 賊達に動揺が走る。文字通りの瞬殺。

 瞬く間に1人がやられてしまった。

 さっき矢を放った賊の仲間が二射目を放つが、騎士はそれを避けるのではなく左手でつかみ取り、奪った敵の剣を、三射目を構えようとしていた敵にめがけ投げる。

 2人目。投げた剣は綺麗に相手の胸に突き刺さった。


「っ!!」


 目の端で何かが動くのが見えた。痩せた方の仲間が騎士にめがけて突進してきていたのだ。

 騎士は鎧を着けてはいるが頭は違う。仲間がされたように一突きに殺そうと騎士の首めがけて押し出されたナイフは、しかし目標捉えることなく空を切る。

 この騎士は後ろに目でもついているのか、相手を見ることなくナイフを突き出すタイミングに合わせ身を屈めてかわし、その腕をつかんでそのまま背負い投げの要領で地面に叩きつける。


「ぐあ――ぎっ!?」


 呻きを上げさせる間もなく騎士は相手の頭を抱えるように持ち上げ、掴み取った矢をそいつの首にねじ込んだ。

 賊の男は腕の中でもがくが、暫くしてぱたりと動きを止める。

 これで3人。

 最初の矢が放たれてからここまででまだ一分と経っていない。


「おいおいおいおいおい……嘘だろ?」


 リーダーの男が冷や汗をかきながら後ずさる。


「さあ最後はお前だけだ、どうする?」


 後ずさりする相手をゆっくりと追いつめる。

 いくら強くても徒手空拳で武器を持った相手に突っ込むような真似はしないのか、慎重に距離を詰めていく。

 敵も相手の強さを目の当たりにして距離を取ろうとするだけだが、ふと相手の顔に僅かな笑みが宿る。

 何かある、素人ながらにそう感じた俺は森の中を見るともう1人、弓を構えたやつがいる。

 まだ仲間がいた。


 本当ならここでじっとしていればよかった。放たれた矢を掴み取り、死角からの攻撃も避けられる人だ。

 少なくとも、危ないと、声を上げればよかったんだ。

 それなのに、俺は飛び出してしまった。


「――! 少年!?」


 騎士がこちらに気付き振り返り、それと同時に敵が矢を放つ。

 俺は全力で騎士に向かって走り、突き飛ばした。

 隠れていた敵が放った矢は騎士には当たらなかった。

 だが、その矢は俺の左脇腹に突き刺さり、そこから想像も絶する痛みが湧き上がってくる。


「がああっ!?」

「しまった!」


 身体に力が入らず、痛みのせいで体言う事を聞かなくなる。

 体を丸め、何とか痛みに耐えようとする。

 だがこれを好機とリーダーの男がこっちに向かってくる。


「うらあっ!!」

「くっ、いい加減にしろよ貴様らあっ!!」


 斬りかかられた攻撃をかわし、右手に拳を叩きつけ相手の剣を奪い取る。

 騎士はそれを左手でつかむと再び放たれた矢をいなし、もう一度その剣を投げ、さっきと同じように敵の胸に突き刺さった。


「くそが!」


 リーダーの男はもはややけくそだ。

 騎士の剣ですかさず攻撃しようとするが、騎士はその腕をつかみ取り相手の肘に膝蹴りを叩き込む。

 男は左腕を逆向きにへし曲げられ、悲鳴を上げる。

 騎士は流れるような動作で手放された騎士の剣を奪い返し、そのまま振り下ろし賊の顔から胸にかけて真っ直ぐに切り裂いた。

 だが入りが浅かったのか出血は多いがまだ生きている。武器を失い深手を負ったを男は逃げようと走り出す。


「逃がさん!」


 そう言ってまた剣を投げようと構えたその時、後ろから誰かが近づいてくる。


「ガラハッド!!」


 その男は騎士が乗っていたのと同じ馬に乗り、おなじ鎧を身に着けていた。

 爽やかさのある好青年だが、その顔は今は険しい表情に包まれている。

 ガラハッドと呼ばれた、俺を助けてくれた騎士は投げようとした構えを解き、俺の下に駆け付ける。

 敵を一瞥するが、逃げ足は速いのかすでに遠くへ逃げおおせていた。


「ガラハッド、一体どういう状況だこれは!?」


 新たに駆けつけた騎士はそうまくし立てながらも、馬から降りて駆け寄ると両手を突き出して構える。

 するとその両手が淡い緑色に光りだした。


「それは後で説明する、今はこの子だ! 少年! いいか、今からこの矢を抜いて傷を塞ぐ。痛むだろうがわずかな間だ、どうか耐えてくれ!」


 どう手当てするのか分からないが、これを何とかしてくれるのならと言葉を出せない代わりに大きく頷いて答える。

 するとガラハッドは脇腹に突き刺さった矢を掴む。


「ぐううぅ……!!」


 それだけでも僅かな振動が新たな痛みを走らせてくる。


「ガウェイン、頼むぞ」

「根幹に安らぎ、求るは再生……いいぞ!」


 ガウェインと呼ばれた騎士の両手の前には魔法陣のようなものが回っていて、そこから淡い光を放っている。


「行くぞ少年!! 3! 2! 1!――ッ!」

「ハイ・ヒール!」


 カウントダウンの終わりと同時に矢が、嫌な音を立てて引き抜かれた。矢にはあごがついていて、それがささったところの肉を抉り取ったのだ。

 ボロボロの傷口を淡い光が包んでいく。

 痛いなんてものじゃない。やはく、はやくこの地獄を終わらせてくれと声にもならない叫びを上げる。


「くっ……どういう事だ!?」

「どうしたガウェイン!」


 回復の力があると思われる魔法をかけていた騎士が困惑の声を上げる。

 もはや感覚の無い傷口は未だに塞がらず、鮮やかな血を吐き出し続けていた。


「なぜ!? なぜ傷が塞がらん!!」

「なに!? バカな!?」


 意識が薄れていく中、騎士たちが物理的に傷を塞ごうと応急処置を始める。


「魔法が効かない……!? まさか――」

「考えるの後だ! すぐアルセムに戻るぞ!――」


 また、死ぬ? 

 消えていく感覚の中、家族の顔が頭の中に浮かんでいた。

 そして、俺の意識はそこで途絶えた。


矛盾修正

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