表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/64

第二十一話 やっかい事の始まり


「何でお前が……」


そいつの顔の左側には左目の上から口の左にかけて、真っ直ぐに切り傷がつている。

忘れるはずがない。

半年前、初めてこっちの世界に来倒れが、初めて出会った人間で、初めて俺を殺そうとした盗賊の男!


「へへへ……いやあ……偶然だねぇぇええ?…」


そいつが噴水を回ってこっちに近づいてくる。

ハワードはまだ店の方にいる、フランは……わからん、聞きに行ってまだどっかだ。

俺だけ……二人を呼んじゃいけない、そう何かが言ってる。


「あのめーずらしい服はー? あれもほしいーなーって……思ってたんだけ、ど?」


誰がお前にやるか、あの服は数少ない元の世界のやつだ。

今は大事にタンスの中だよ。


「っ! くっ!」


近づいてくるあいつに俺は一瞥だけやってすぐに駆け出した。

こいつから逃げなきゃいけない。

殺されかけた恐怖がそうさせる。


とにかく、丸腰の俺一人じゃ無理だ。

騎士を呼ばなきゃいけない。 ここから一番近い騎士がいるところは……。

ダメだ、知ってる場所が少ない。くそっ!

後ろを振り向くと、やはりあいつが追って来ている。


「へへへ、まーた鬼ごっこかーい? なつかしーなー、お前も好きね?」


好きでしてるわけじゃねえ!!

真っ直ぐ南下していく俺はそこで思いつく。

そう言えば王都の城壁には門番をしている騎士がいるはず。

このまま行けば南門があるはずだ。

そこまで行ければ……!


「あーだめだめ、そっちはダメだよー……!!」


背筋がゾッと震える。

振り向いた時には奴が何かを投げる動作に入っていた。

とっさに体を逸らした時には、目の前をナイフが飛んでいく。


「うわああっ!?」

「おっと……外れ」


マジかよ、殺す気かよこの街中で!?


「あーっと……いけなーい、ヤっちゃ駄目なんだった……」

「なんだなんだ!?」

「今アイツなにした!?」


さっきの奴の行動が注目を引く。

人の多い街中でいきなりナイフを投げれば当然だ。


「おっとやりすぎた」

「くっ!」


この隙に裏路地へと入り、奴を巻こうとするが、いかんせん俺は奴の目の前だ、動き出せばすぐに見つかる。

駆け込もうと走り出した時にはすでに奴も動いていた。


「もうしんどいんだけどなあ……?」

「じゃあ追ってくんなよ!」


転がる箱を飛び越え、無造作に置かれた樽だの荷物だのを、横を抜けると同時に乱暴に倒し何とか足止めをしようとする。

そして入り組んだ路地をがむしゃらに進みまくるが、ついに足が止まってしまう。


「おい……ウソだろ……」


行き止まりだ……。

建物一個が立つくらいの広さの空き地、周りは他の建物が並んで逃げ場がない。

出られる道は一つだけ。


「はーい、とうちゃーく。 ふうぅぅ……それじゃあそろそろ始めましょうかね?」


そのたった一つも、今塞がれた。


「ちぃっ……何をだよ」

「いやあねえ? 俺もお仕事しなきゃおまんま食えねえからさ? 聞きたいことがあってよ?」


そう剣を引き抜きながらゆっくりと迫ってくる。


「聞きたいことって? 言っとくけど、俺って世間知らずだから、知ってること少ないんだけど」


動悸がする。息苦しい。

やっぱり怖いもんは怖い。あの顔に、あの声で剣を突きつけられると、森でのことを思い出して足が震えそうになる。

だからそれを堪える為にも精一杯虚勢を張る。


「んん~……じつはさあ、学校に用があって行ってたんだけどー、どこにあるか分かんなくてさあ。 そしたら君がお友達と出てくるじゃん? いやあずいぶん懐かしい顔を見たもんだからさ、だからついでに聞こうかな、って、思ってさ?」

「何言ってるか分かんねえな、てか何が聞きたいわけよ?」

「ああ、えっと……そう、エルヴェシウス、だっけ?」


全身に鳥肌が立った。

何でこいつがそれを聞きたい?

じりじりと後ずさる俺の背中に堅い壁がぶつかる。

もうに下がれない。追い詰められた。


「そいつの本? ってのがほしくてさ、どこにあるかしらないかなあ~……て」


エルヴェシウスの本。

多分、いや、間違いなくハワードの親父、アンリ・ユベール・エルヴェシウスが残した構造変形についてだ。

なぜこいつがそれを欲しがる。


「エルヴェ……なんだって? 悪いけど本には詳しくないんだ。 他当たってくれ」

「ええ~そうなの? じゃあ……仕方ないな」


わざとらしく項垂れるが、すぐに開き直るように剣を構える。

背中の冷や汗が服を張り付けてきて気持ち悪い。


「ああ、仕方ないよな、知らないんだし」

「じゃあ、他のをもらおう」

「は?」


言うや否やソイツは素早く接近して首元をついてくる。


「ふぅぐっ!?」


とっさに体を左に躱してつきっを避ける。


「すばしっこいな、できれば早めに終わらせたいんだけど、まだ仕事の途中だからさ」


じゃあ俺の事は放っておいて、その仕事に行けよ! という言葉は飲み込んでおく。

そんなこと言ってる心の余裕がない。

アイツは殺す気なんだ!


「ぐぅっ! くう……」


避けた勢いで壁に当り、沿うように転がりながら体勢を直す。

今なら唯一の逃げ道が空いている。

少しずつ体をずらして逃げ道を確保しようとするが、アイツもすぐ気付いてその道を塞ぐように移動する。


「くそ……」

「だめだめ、逃げるのはだめよ君、俺のこと知ってるじゃん? 騎士に教えられたらまずいからさー?」


逃げられないのは確定か。

でも……すてごろじゃあ……ん?


「無いよりマシか……」


俺は壁沿いに転がしてあった、鉄でできた棒を拾い上げる。

長さは一メートルくらいか、重いけどこれで何とかするしかない。


「おっほほう、勇敢だねえ。 そういえば、あの時も木の棒を持ってたっけ」

「……よく覚えてんな」

「まあね」


奴が前傾姿勢を取る。

こんな形でまた対峙するとは思わなかった。

落ち着け、訓練だって、やってきた。

メリッサと決闘だってやらかした。

前とは違うはずだ。


そう言えば、こいつは俺がハワードとフランと、学校から出てくるところを見たんだよな。

だけど、こいつはエルヴェシウスの本を探してはいるが、ハワードがエルヴェシウスであることと、その本の現在の所有者であることは知らないのか?

ハワードではなく、顔を知っている俺に来たってことは。

だけど、俺が知らないなら二人の所にも行くはず……。


両手に力が入る。

こいつを行かせるわけにはいかない。


「よーい……しょっ!!」

「くぅのおお!!」


再び突きを繰り出すタイミングに合わせて鉄棒で薙ぎ払い、振った姿勢から返す様にその剣を叩き上げる。


「うお!?」

「うおあああ!!」


そして空いたそいつの横顔をめがけてもう一度振りぬくが、今度は体を逸らして躱された。


「危ないなあ、ほんとに、そんなのは要らない、よ!」

「くうっ!」


奴からの太刀筋は目で追えないわけじゃない。

落ち着いて防げ。

斬られることにビビるな!!


「ふん! であっ! ふっ!!」


鉄棒と剣が打ち合うたびに激しい金属音が甲高く響いていく。

まだ余力があるのか、徐々に相手の攻撃速度が上がっていく。


「くそっ!!」

「はははははは! 意外とやるじゃないかあー、ちょっと楽しいよ!」

「楽しかねえよっ!!」


剣をへし折るつもりで何度目か分からんフルスイングを叩きこむが、この剣、異様に頑丈だ。

あれだけ打ち合ってヒビ一つ入らないとかおかしいんじゃねえの。


「おいおいもっと丁寧してくれよ、俺の剣がおれちゃうだろう?」

「へし折るつもりでいってんだ!!」


だけど、さすがに疲れが出てきた。 手もしびれてきてる。

さすがに大きく動きすぎたか。

くそ! まだ(・・)かよ!!


「へへへ、じゃあお疲れ気味だから、ね?」

「あ? なに!?」


急にあいつの体が光り始めた。

薄いオレンジのような光が奴を包んだ直後、さっきまでとは段違いの速さで接近してくる。

その速さに対応できなかったために鉄棒を落とされ、そのまま壁に抑えつけられてしまう。


「がはっ! ぐ……」


これってまさか、強化の魔法か!?


「さて、それじゃあ……」


奴の剣がゆっくりと首にあてられる。

心臓がすくみ上る気がした。 


死ぬ。



「何をしている!!」



「ああ?」


直後、壁に俺を押さえつけていた奴が俺から離れ、その間を水の塊が飛んで行った。

よし! やっと来てくれた!


この行き止まりへの唯一の入り口には、三人の騎士が立っていた。


「おやあ? なんで騎士がいるんだ?」

「この辺りから、騒音が立て続けに聞こえてくるもんだから、俺らん所に苦情が来てな。 来てみればなんだこれは」


どうやらうまくいったらしい。

俺は端からこいつとまともやり合う気はなかった。

逃げる俺と追うアイツ、通りでの一件で怪しさ満載、そんでもって聞こえてくる怒声に騒音。

ここまでやったなら、誰かが騎士を呼んできてくれるかもしれない。

触らぬ神に何とやらで、呼ばれないかもしれなかったが、その賭けに俺は勝った!


「マジかぁ……さすがに三人はなぁ……」


急な増援に驚きはしているが、余裕の態度は崩さない。

そしてそいつは腰につけていた球体を一つ取り出す。


「うん、逃げよう」


あっさりそう言うと、水色の光と小さい魔方陣がその球体に浮かび上がり、それと同時に騎士たちに向かって放り投げた。


「全員構えろ!」


先頭にいた騎士が声を上げて仲間に注意を促し、即座に盾を構える。

その手前に球体が落下すると、煙幕の様に水蒸気が広がっていった。


「煙幕か!?」


当りを白い蒸気が包む中、騎士たちのいる入口の方から数回の剣が打ち合う音が聞こえてくる。


「くそ! 隊長! すいません! 逃しました!」

「いいから! お前は外のやつらとあいつを追え!」

「はい!」

「お前は俺と、あの子を助けるぞ」

「了解」


蒸気がまだ濃い中、二人の騎士が近づいてくる。


「君、大丈夫か!?」

「は、はい」

「あれ、君は確か……」

「え?」


隊長と呼ばれていた騎士が俺を不思議そうに見る。

あれ? 俺もそういえばどっかで見たような。


「ああ、思い出した。 ひと月くらい前に東の城門で見たんだ。 確か、アカホ・リューマ……だっけ?」

「はい、そういえば……久しぶりです」


始めて俺がこの王都に来た日、王都の東の城門で俺を乗せてきてくれた商人のおっちゃんと話してたあの騎士だ。


「えっと……」

「ああそういや俺は名乗ってなかったな。 モードレッド・ジャービスだ。 とにかく無事でよかったよ」


そう名乗りながら、緊張が切れて崩れ落ちる俺を支え、一緒にこの場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ