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第十九話 或る中庭のやらかした事

 決闘でメリッサを倒したら、そいつの上級魔法が暴走し大爆発した……と思ったらブラックホールっぽいのが全部吸い込んでいた。

 そして後ろにはオードラン校長がいつの間にか立っていた。

 多分この人が何か、というより魔法でやったんだろうな。


「ふむ、目立つのは左肩と右腕か、まあ動けぬようではあるまい」

「え、ええ、はい」


 俺の状態わかんの? 

 確かに多分一番ヤバそうなのがその二ヶ所だが、凹んだ手甲は外してないし、ショルダーガードも外しちゃいない。

 見てたのか。


「ほれ、そっちも起きぬか」

「ぬぐっ……う、はっ! え? ぐぅぅ……頭が……」


 校長が手に持つ木でできた如何にもな杖で、軽くメリッサの頭を叩くと急に目が覚めて頭を押さえだした。


「んぐ……へ? へあ!? ちょっ、退きなさいよ!!」

「え? ああ、のわああ!?」


 まだメリッサにかぶさったままだったの忘れてた。

 それにメリッサが気づき、慌てて俺を突き飛ばす。


「あぐうう!? い……痛ぅぅぐっうう……」


 おいおい、大丈夫か?

 手を怪我してるのに押し退けるから。


「やれやれ」


 呆れるように校長が呟き、杖の先で今度は指の折れた右手と左手にそれぞれ小突く。


「ひぎっ、いだあっ!!」


 その痛みに耐えられずに悲鳴が漏れ、同じくして包むように緑色の淡い光がメリッサの両手を包み込み……うわああ、ゆ、指がメキメキと戻っていく……。


 この光には見覚えがある、俺の体を包んでいたものと同じ回復魔法の光だ。


「す、すみません、オードラン校長、お手を煩わせてしまって……」

「よい、さてメリッサ、お主にはガラハッドから魔力操作の修練が課せられていたはずだが、うまくいっておらぬようだな」

「う、すみません……」


 やっぱりへたくそだったのか、だのになんであんな馬鹿でかい魔法を使おうとしたんだ。

 俺の疑問を読み取ったのか校長がすぐに説明を加える。


「ふむ、メリッサは下級は扱えぬが上級は扱えるというけったいな特性でな、操作に関して課題を出しておったのだ」

「そ、そうっすか」

「で、今回の決闘、結果は、まあ見ての通りだな」

「くっ……」


 メリッサが悔しそうに俯く。


「しかしこの決闘、わしの許可無く勝手にやったことについて咎めねばならん」

「え!?」

「決闘に関して禁止しておる訳ではないが、許可なく行うのはいかんな」


 決闘って許可制だったのか……。


「しかも、その決闘で一人の生徒の進退をかけたそうだな?」

「そ、それは! あの生徒がエルヴェシウスの……!」

「ならん」


 メリッサの言い訳を校長が遮る。


「エルヴェシウスの件については、すでにわしが直に話を付けておる」

「……ハワードの事、知ってんすか」

「ああ、わしも、7年前の事件に関わっておったからな」


 校長が?

 エルヴェシウスの悲劇に?


「故にこれ以上、その件を蒸し返すのはやめておくれ。 今、ここにいるのは、ハワード・ダリルソンなのだ」


 静かに願うような言い方なのに、その言葉には有無を言わせぬものがあった。


「……わかりました」

「了解っす……」


 だから、はいと答えるしかなかった。


「さて、今回の件、生徒一人の進退を個人の意思で勝手に決めるなど言語道断、それだけでなく、正式な手続き無く決闘を行った。 故に、二人に5日の謹慎を言い渡す。 二人ともしっかりと頭を冷やすといい」

「はい……」

「うす……」

「まったく、熱くなると周りが見えんのは変わらんな、メリッサ。 現当主もそれを直してほしいとイシュベル教に放り込んだというのに」

「うぅ……」


 放り込むて……。

 ていうかお知り合いですか。


「それにお主もじゃ赤穂」

「いいっ!? 俺もですか!?」


 なんか飛び火してきた!?


「お主の体についてはお主が一番分かっとろうが、なのに、それを忘れ決闘を行うなどと……」

「すみません」

「今回の謹慎でしっかり傷を癒し、己の行いを鑑みて反省するように。 痛みはその戒めとせよ」

「はい……」

「まったくこの似たもん同士め、そうそう問題ばかりやらかしおって……」


 校長が眉間を押さえながら言った。


 俺と、こいつが? 冗談じゃない。


「私とこいつがですって? 冗談じゃないわ!」

「俺だってそうだよ、くそったれ」

「何ですって!?」

「やめんかバカモン」


 結局俺たちは、雷魔法(物理)(杖の振りおろし)をくらい、無断決闘の罰として5日の謹慎を言い渡され、帰宅させられることになった。


 尚、俺が勝った事には変わりないので、もちろん個人的な約束も守ってもらう。

 決闘後の説教が終わり、実技場内の廊下でハワードたちと合流した後、メリッサに謝らせた。


「……食堂の事、謝罪します……、それじゃあ……」


 しかしまあ軽く頭を下げて、さっさと何処かへ行ってしまったんだが。

 正直ふざけんなと思ったが、ハワードがもういいと言うから、これに関してはもう終わりにすることにした。 

 正直俺は納得できちゃいないが。


「ありがとう」

「お前がいいってんならそうするさ」



 でだ、退屈な5日の謹慎を終えて登校してきた日、周囲の視線がやたらと突き刺さった。



「あれが……?」

「そうアイツが……ファイエット様に……」

「しかも……」


 まあ理由はなんとなく分かる。

 宣戦布告を盛大にやらかし、どういうことか分からんが全員を青ざめるような発言までしてしまった。

 食堂の時はメリッサへの怒りで気にするどころじゃなかったが、ああいう悪い感じの目立ち方は正直いたたまれない。

 ところでドリルヘッドって何だ?


「うぃーっす、おはよう」


 なるべく普段を装って教室に入ると、ぐるりと視線がこっちに向いてきた。

 怖ーよ!? 何だよ!?


 自分の席行こうとしたら一人近づいてきて肩をたたいた。

 ロヨネ! お前、よくも嘘言ってくれたなあ!


「よう狂犬、正直危ねえと思ったんだが、まさかマジでメリッサに勝つとはな。御見それするぜ」

「おうロヨネ、あんときゃよくも嘘言ってくれたな? 下級は使えないんじゃなかったのかよ……きょうけん?」


 ロヨネの言葉に疑問符が浮かぶ。


「おいおい、メリッサの情報については嘘言ってないぜ、俺は確かに下級が苦手で第六以上の上級しか使おうとしないって」


 う~ん……

 控室でのことを思い出す。


『メリッサについてなんだがな。実はメリッサは、どういうわけか第六環位以上の上級に分類される魔法しか使おうとしない。 まあ、噂でしかないんだがな。 だからあいつが魔法陣を作り出したら、十中八九それは第六環位以上の魔法だと思っていい。 あいつが第四環位の形成に入ったら突っ込め、そうすれば勝てるかもしれない』


 うん、使えないとは言ってない。

 使わない≠使えない。


「てか、狂犬ってお前自分で言ってじゃねえか。自分で名乗るたあ中々粋じゃないの、なあ? かっこよかったぜ」


 そう言ってロヨネはまた俺の肩を叩いて教室を出ていく。


「はあ? 狂犬なんて俺……あ」



『強肩なめんなあああああ!!!』



 強肩=きょうけん=狂犬。

 ……アレかあっ!?

 ふっざけんな! あれはそういう意味じゃねえ!!


「ったく……てかなんで俺って遠巻きに警戒されてんの?」


 俺の席に着いて溜息と共にこぼれ出た。

 前々から思ってたんだが、このクラスで俺に話しかけてくれる人がほとんどいないんだが。

 ……悲しくないよ?


「それは多分、貴族とかじゃないのにガウェイン副団長と知り合いだし、メリッサに決闘を挑んだりしたからじゃないかな?」


 ハワードが読んでいた本を置いて言ってくる。


「いやメリッサの件は分かるけど、ガウェインさんはどうだろうな。 そういやあの人、最近ここら辺でよく見かけるぞ」


 聖王騎士団ガウェイン・ボースマン副団長。

 普通は騎士団の本拠地であるあの城…………あ、リノハウル城だ。城なんて一個しかないし、基本呼ばないから忘れてた。

 で、ガウェインはその城で仕事してるもんだと思ってたらここ最近この学校に出入りしているのをよく見かけると話題になっていた。


「そうらしいね、何かあったのかな?」

「分からん」

「おっはよう」


 フランが来た。

 おうなんだよそのニヨニヨした顔は。


「聞いたよリュ~マ~」

「何を」

狂犬(きょ・う・け・ん)、かぁぁっくいぃぃねー」


 この野郎煽ってやがる。

 てかお前知ってやがるのか。


「そりゃあそうだよ、けっこう噂になってるよ?」

「なんでやねん……」

「ねえねえリューマ」

「なんよ」


 項垂れる俺を覗き込むようにフランがしゃがんで手を差し出してくる。

 そしてニコニコしたまま言ってきた。


「狂犬ということで……お手!」

「…………」

「だめ?」

「おー、けー」


 バッチコーーーーン!!


 思いっ切りその手をぶっ叩いてやった。

 余談だが、しゃがんだときは影になってて真っ暗だったよ。



 そして昼休み。

 もうこの時間がほんとに楽しみだと言っていい。うまい飯を食うのは大好きだ。心の底から癒される。

 そんなお楽しみ気分で食堂へと向かう俺たち三人。

 その途中、俺が迷子に……いやそうじゃなくて、いろいろと遠回りしながら通った中庭を通っていると、その庭の方から数名の生徒が近づいてきた。

 ってあいつは……。


「あの、もし?」

「ん? あ、てめぇ……」


 メリッサ・ファイエット……。


 顔を見た瞬間、ブワーッとこみ上げるものがある。

 取り巻っぽいのを連れて優雅に近づいてきたその顔は笑みが浮かんでいる。

 仲間の前で猫でも被ってるのか、まるで何もなかったかのようにご機嫌顔で近づいてくるメリッサに対峙する。


「あの、以前この庭でお会いして……」

「一応は謝ったからって全部チャラにするわけじゃねえぞ」


 なにか言おうとしたがそれに被せ先制して言い放つ。


「え?」

「親が何だ家が何だって、くだんねえことごちゃごちゃぬかしやがって」

「え? あ、あの、なにを……?」


 捲し立てる俺に、何を言ってるか分からないような顔をして困惑するメリッサ。

 後ろの取り巻きも口を開けてポカンとしている。

 そうかい、とぼけようってのかい。


「それであの謝り方だ、もういいって言われても俺が納得できねえんだよ」

「え? え?」


 何も知りませんよ? な顔をされて、頭に血が上る。

 あれでだけやって白ぁ切り通そうってのか。


「もしまたハワードにちょっかい出してみろ、今度はその澄まし顔を金属バットで場外までぶっ飛ばしてやる。 覚悟しとけよクソッたれ……!」

「え……」

「あ、龍真君!!」


 後ろからハワードが慌てて俺を止めてくる。

 まあ俺はもう言いたいことは言ったからもういいんだが。


「そ、その人は……」

「あ?」




「ふぐ……グスッ……」




「え?」


 メリッサに振り返ると、目に大粒の涙を溜めて今にも泣きだしそうな顔をしていた。


「あ、あの……私、な、何か……粗相を、致しましたでしょうか?」

「は?」


 え? こいつ何を言って……。


 そこで我に返った取り巻き共が、泣き出しそうなメリッサに駆け寄っていく。


「ファ、ファイエット様! 大丈夫ですか!? いまハンカチを」

「おい貴様! この方を誰だと思っている! 出会いがしらに捲し立て……ぶ、ぶっ飛ばすなどと!! 無礼にも程があるぞ貴様!!」


 麻色の髪をボブにした取り巻きその1がハンカチを差し出すその前で、黒髪をポニテにした取り巻きその2が怒鳴り返してくる。


「無礼だと? ざけんなよ。 知ってるさ、そいつはメリ……」

「何してるのよ、こんなところで」


 急に後ろから聞いたことのある声をかけられた。

 ……ことのある、というか今聞いていた、というか。


 後ろを振り向くと、新たに現れた人物と泣きべそをかく人物を、しきりに行ったり来たりと忙しそうに見比べるフランと、手で顔を塞ぎ「あぁぁ……」と下を向いているハワード。

 その間、奥からくるのは……あれ? メリッサ?


「え? メ、メリッサ?」

「何よ? 掃除ならちゃんとやってるわよ。 負けた上に約束も守らないなんてファイエットの名折れですもの」


 あ、ちゃんとやってるんだな。

 ってちがう!!


 もう一度振り返り、ハンカチで涙を拭う方のメリッサ(・・・・)を見る。

 そしてまた新たに来たメリッサに向く。


 あ、あれ? 顔が……同じ……?


「んん? どうしたのよ、……って姉さま? こんなところで何してるの?」

「え゛!? ね、姉さま!?」

「メリッサ……いえ、これは、なんでもないのよ……」


ネエサマと呼ばれた方がメリッサに気づいた。


「メリッサ様! この下衆が、いきなりクラリス(・・・・)様を罵倒したのです!」

「はあ?」

「え? は? クラリス!?」


 まだその目に涙を溜めるクラリスと呼ばれた方が、何とか体裁を取り繕ってこっちに向き直る。


「その、あの時以来、お会いできずに自己紹介もまだで、申し訳ありません。 叔父の付き添いで王都外に出ていたもので……グスッ、私、メリッサの姉の、クラリス・エルザ・カルロス・ラ・ファイエットと申します……この度は妹のメリッサが――――」


 姉? クラリス? 


「ちょ、ちょっとやめてよ姉さま!」

「クラリス様、あのようなモノにクラリス様から謝られるなど……!」

「そうです……それにこやつは……」


 取り巻き共が何か言ってるけど耳に入ってこない。

 そう言えば……どっかでメリッサが……。


「ごめん、龍真君……さっき思い出した」

「え?」

「ファイエットさんは、……双子の姉妹騎士だったんだ……」


 塞いだ両手からこぼす様にハワードがつぶやいた。


 え? 


 ……ふ、ふ?


「双子だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」


 多分、人生で一番やっちまった瞬間だと思った。




とりあえずひと段落

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