第3話 初めてのデート
夢をみた。
どこかの海岸。
僕とマリアで二人きり。
マリアは白いワンピースに素足のまま、波打ち際ではしゃいでる。
「うふふっ。いやっ、濡れちゃう」
あの透き通った声。そして、天使のような無邪気な笑顔。
「天野くーん」
僕が呼ばれる。笑いながらマリアに近づく。
マリアが寄り添ってくる。
僕の顔を覗き込み、ニコッと微笑んで言った。
「殺った?」
飛び起きた。
背中に嫌な汗が流れた。
机の上をみる。
洗ったお弁当箱、絶対に洗濯しないつもりのハンカチ、そして、キレイに拭いた銃弾。
引き出しの奥に隠してあった拳銃を取り出す。
カートリッジを抜き取って、銃弾を入れる。
カチャ
小気味のいい音がする。
カートリッジを戻して構えてみる。
思いの外、しっくり来た。
手も震えてない。
強くなった気がした。
ターゲットのメモを確認する。
住所は渋谷のマンションだ。
名前と電話番号、住所を頭に叩き込む。
そして、メモを丸めて、口に入れる。
マリアがメモを書いている所を想像する。
細い指、可愛い手、メモに触れる髪の毛。
何度も噛む。噛み締める。
メモを呑み込む。
そして、鍵を握りしめた。
渋谷は苦手だ。
みんながオシャレで自分がダサく見える。
僕はユニクロしか持ってない。
その中からお気に入りを選んで来た。
マリアはどんな服が好みかな。
いや、彼女は服装なんて気にしない。
優しいから。
「そのままの貴方がいい」
とか言ってくれるはずだ。
僕は妄想を楽しみながら、渋谷の街中を歩いて行く。
目的地のマンションは駅から徒歩10分。
すぐに到着した。
大きなタワーマンション。
少し圧倒される。
脚が震えるのを感じた。
こんな場所に住んでるなら、きっと悪い奴に違いない。
マリアはきっと成敗しようとしているんだ。僕たちは正義の味方だ。
そう自分に言い聞かせて、鍵を使ってエントランスに入る。
受付みたいな人がチラリと僕を見る。何も言われない。でも居心地が悪かった。
急いでエレベーターの前まで行く。
部屋は45階。4513号室。
目的地まで、もう少しだ。
部屋の前まで来てドアに耳を当てる。
何も聞こえない。
ここからどうしようか。
部屋にいるのか外出中かも分からない。
そもそも、何人いるんだろう。
怖くなった。
電話番号があったのに、電話を掛けて確かめてから来れば良かった。
後悔した。
出直そう。
ドアに背を向けた瞬間、携帯が鳴った。
慌てて出る。
「やっほー、天野くん?」
マリアの明るい声。
「今日、このあとひま?」
「え?」
口篭もる。
「天野くんも渋谷よね。殺ったあとに、どこかで落ち合わない?」
「どこかって……」
気持ちが舞い上がって頭が着いて来ない。
「ふふっ」
いつもの含み笑い。
「で、え、と、よ。デート」
「場所は後で連絡するね」
そして、一呼吸置いて、
「ちゃんと殺ってよね。あいつ、私の元カレなんだから」
そして、唐突に通話が切れた。
元カレ?
頭に血が上った。
嫉妬心でいっぱいになった。
「ぶっ殺す」
バックパックから拳銃を取り出す。
右手に銃を持って、ドアの鍵を左手で開ける。
部屋の中に入る。
奥の部屋から女性の声が聞こえた。
うめくような、苦しいような声。
やっぱり悪い奴なんだ。
女性に暴力を……
銃を構えて、ドアを乱暴に開ける。
ベッドの上で裸の男女が絡み合っていた。
想像と違う光景に、びびって腰が引ける。
「きゃー」
女性の耳障りな悲鳴。
「なんだ、お前!」
男の怒鳴り声。
慌てて拳銃の引き金を引く。
ぱーん
乾いた音が響いた。
あれ?これって、空砲?
目に前では、男が腰を抜かしている。
まずい。逃げなきゃ。
銃を握りしめたまま部屋から飛び出す。
目の前に、マリアの姿があった。
ぎゅと手を握られた。
そのまま引っ張られる。
「天野くん、私と逃げよう」
いつになく真剣な声。
二人で駆け出す。
無言のままエレベーターに乗って、マンションを脱出する。
渋谷の街の景色が変わった。
マリアが僕の手を引いて、街の中を駆けて行く。右手には拳銃を持ったまま。
その横顔は、相変わらず綺麗で可愛い。
僕は夢の中にいるような気持ちでふわふわと走っている。人々は僕たちを祝福して道を開けてくれる。
この時間が永遠に続けば良いのに。
スクランブル交差点に着いて、マリアは僕の手を離した。
そして、優しい声で言った。
「楽しかった?」
僕はドギマギしながら聞いた。
「でも、殺してって……」
「冗談よ。殺すわけないじゃない」
そして、いたずらっぽく笑った。
「いい気味だったね」
スクランブル交差点から人混みが引いて行く。
そして、僕たち2人だけになった。
マリアがゆっくりと後ずさる。
「天野くん、その銃でわたしを狙って」
僕は、その声に逆らえない。
ゆっくりとマリアに向かって銃を向ける。
「きゃー、助けて!」
マリアが叫び声を上げる。え?どうして?
僕は訳が分からず、固まったまま立ち尽くす。
そして、大勢の人達に取り押さえられた。




