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第1話 天野くんの純情

その人は最初から目立ってた。

無造作に羽織ったピンク色のフーディ。サイズが大き過ぎる。フードに隠れて顔は見えない。

なのに、スラリと伸びた真っ直ぐな脚がやけに眩しい。


――何を見ているんだろう。


彼女はコンビニの前に立って、横を見ていた。

左手はポケットに突っ込み、

右手にはコーラのペットボトル。

視線の先は何?


僕は、ずっと彼女を見てしまう。

交差点を挟んで、自転車に跨ったまま。詰襟の制服で。


どのくらい時間が経っただろう。

いきなり彼女が僕をみた。

フードから顔が覗いた。

ドキッとして目を逸らす。


チラッと見た彼女の顔が、

頭の中を占領する。


透き通った眼差し、濡れたような唇。

綺麗だった。圧倒された。


「おーい、そこの中学生」


高くてすみ透った声。僕を呼んでる?


黙って横を向いていると、

横断歩道をパタパタと渡ってきた。


「なに?聞こえないの?」


顔を両手で挟まれた。

ぐいっと前を向かされる。

綺麗な顔が目の前に迫る。

身長は僕とほとんど変わらない。


「なんですか」


僕は、慌てて彼女の手を振り払い、下を向く。

恥ずかしかった。

目を合わせることが出来ない。


「少年、私の頼みを聞いてくれるか?」

芝居がかった声。


僕の手に、コーラのペットボトルと、

何か硬い箱が押し付けられた。


近い。体が触れそうな距離。

僕は慌てて後ずさる。


彼女は動じずにニコリと微笑む。

「それ、捨てて置いて」


そして、クルリと背を向ける。

そして、顔だけ振り返る。


「よろしくね。天野くん」

名前を呼ばれて胸が高鳴った。


……何故僕の名前を?


彼女が自分の胸に手をやる。

ついつい、そこに目が行ってしまう。


「私はマリアっていうの。よろしくね」

そして、後ろを向いて、パタパタと走り去って行く。


「マリア……」

しばらくの間、マリアの後ろ姿を見送った。


手渡されたペットボトルの蓋を開けて、コーラの液体を口に含む。


初めての間接キス……


そして、彼女が胸に触れた理由に気がついた。

制服に名札が付けっ放しだった。


押し付けられた小さな箱を開ける。


指輪……じゃなかった。


鍵がひとつ。

そして、紙切れ。

そこには、住所と名前、電話番号


そして、一言、

「殺して」

と書かれていた。



次の日、夜中に携帯が鳴った。


電話に出ると、一言。

「殺った?」

マリアの明るい声。

「いや……まだ……」

僕は口ごもる。


「私のコーラ」

少し怒気を含んだ声。

「飲んだでしょ」

僕は恥ずかしくなって黙る。


「想像したよね」

1拍

「私との……キ、ス」

擦れたような声。

わざとやってる。


「殺せるわけないでしょう」

僕の声が震える。弱々しい。


咳払いをして、声を整える。

「それより、僕の電話番号」

再び咳払い。

「どうやって調べたんですか?


しばしの沈黙。

「カバン」

「え?」

「連絡先」

床に転がったカバンを見る。

紛失時の連絡先のタグ。


分かってしまうと、

何てこと無い理由だった。


「ご褒美は、もうあげたからね」

「間接キスと……」


ふふっと笑い声。


「私の電話番号」

「それじゃ、連絡待ってるわ」


唐突に切れる。

殺す?僕が?どうやって?


携帯を見る。

操作する。

履歴にマリアの電話番号が残っていた。



次の日、

マリアからの電話はなかった。


次の日も、

その次の日も。


3日目になった。

耐えきれなくなった。

携帯に残っていたマリアの番号を探す。


あった。見つかった。

嬉しくなって、

その番号を連絡先に登録する。


早速、その番号に発信する。

〈この番号は現在使われておりません〉

慌てて掛け直す。

同じメッセージが流れた。


携帯を壁に投げつける。

「ふざけるな」

叫び声を上げる。

「なんだよ、いったい」

涙が滲んだ。


――あの人の、

マリアの声が聞きたい……


ピロリン

携帯の通知音が鳴った。

LINEへのメッセージ。


慌てて携帯を拾う。

本体も液晶も無事だった。


LINEを開く


新しい連絡先が増えていた。

連絡先の名前は、マリア……


そして、youtube動画へのリンクが貼られていた。


動画のタイトルは、

〈モデルガンを改造して実弾を発射してみた〉


リンクを押す。

僕のモデルガンと同じモデルを改造する手順が再生された。

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