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妖しな家族  作者: 奏白いずも
妖編

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五、親子改め恋人

今日までお付き合いくださいました皆様、まことにありがとうございます。

これにて最終話!

最後の物語、少しでもお楽しみいただければ幸いです。

 深く息を吸って吐く――

 意を決して桜子は申し出た。この瞬間はいつもそう、酷く緊張してしまう。

「お父様、わたくし明日は休暇なので日ノ宮家へ参ります」

「構わないが、どうした? 何か急ぎのようでも?」

 対して無月の反応はそっけないものだ。けれど色々あった両家の関係を鑑みるに、切り出しにくい。かといって無月に嘘を告げたくはないのだ。

「明日は父も休みなので、一緒に食事をと誘ってくださいました」

「そうか。お前が嬉しそうで何よりだ」

 桜子が楽しそうに語れば無月も自分のことのように喜んでくれる。

「はい! お父様も楽しみにしてくださっています。それで……今すぐには難しいことかもしれませんが、いつかはお父様も食事にいらっしゃいませんか?」

「その『お父様』とは俺のことか?」

「はい、お父様のことで……」

 次第に桜子も頭が混乱してきた。

「今更ですが、とてもややこしいですね」

「まったくだな」

 どうしましょうと桜子は思案しているが、無月は何を悩むと言いたげである。

「考えこむ必要はないだろう。俺のことは名で呼べ」

「な、名前?」

 そうだと無月は頷くが、桜子の記憶している限り未だかつて呼んだことはない。

「ですが、急に名前で呼ぶというのは……わたくしは娘ということになっていますし!」

「何か問題でも?」

「わたくしお父様の、あなたの娘ですよね?」

「ああ」

「娘は、父親を名前で読んだりしません」

「俺は気にしない」

「わたくしは気にします」

 そこでふと、桜子は綾乃のことを思い出していた。

「娘は、いずれは嫁ぐことになる……」

 娘なのはわかっている。ただそれ以外の関係も言葉にしてほしいなんて欲張りだろうか。

 ほんの出来心だった。ところが無月は血相を変える。

「嫁!? お前、どこに行くつもりなんだ!」

「いえ、例え話ですから落ち着いてください。ただ学友の結婚が決まったという話を思い出しただけで――」

「それは困る。お前には永遠に傍にいてほしいと望んでいる」

「わたくしも……同じ想いですが。つまり、その、恋愛感情を向ける相手だと思ってよいと?」

「無論だ。それがどうした?」

「それがどうした!? 人間にとっては一大事です!」

「お前は妖だが」

「上げ足とってる場合ですか! 一般常識は人間のままなんです!」

 開き直って桜子は叫ぶ。この場に二人きりなのが幸いだ。

「恋人と名乗っても……名乗ることは、わたくしに許されるのでしょうか」

 か細い声も、人ならざる無月の耳には届いたようだ。

「お前は娘でもあるが俺にとっては最愛の存在だ。人間はそういった異性のことを恋人と呼ぶのか。ならば、お前は俺の恋人だ」

 同じ世界を見られる云々の告白よりも嬉しさが勝っている。無月は最高の瞬間を容易く更新してしまうのだ。

「はいっ! ずっと、傍に置いてくださいね」

 言葉だけでも積極的になれたのは無月が嬉しいことを言ってくれたから。

 日ノ宮家へ招く話は急ぐこともないだろう。無月にも紀仁にも時間は必要だ。今はまだ早すぎたかもしれないと思い直している。

(ないとは思うけれど、また物騒な現場になってしまったら大変だもの)

 恋慕う相手と実の父の修羅場は二度と見たくはない。

(お父様ったら――て、話が逸れて忘れていたけれど今度からは名前で呼ばないといけないのね……)

 日ノ宮家で無月の話題が出る時、紀仁は『宵闇殿』と呼ぶ。兄の楓もそれに習っているし、八重はもう少し柔らかく『宵闇さん』と呼ぶ。桜子はといえば、『あの人』だとか『彼』だとか明確な言葉で示したことはない。

「無月さん?」

 ここでためしに呼んでみる。

(は、恥ずかしい!)

 初めは『お父様』と呼ぶことに苦戦していたけれど慣れてしまえばなんてことはない。名前で呼ぶことの方が問題である。

「呼んだか?」

 返答があると予想していなかっただけに動揺を隠せない。いるならいると言ってほしいところだが、最初から隣にいたことを忘却していた自分が悪いのだ。

「その、少し練習を……」

「そうか。何度でも、いつまででも付き合おう」

「時間かかりますよ?」

「構うものか」

 有り難いことである。とはいえ自然と呼ぶためにはまだ時間が必要だ。きっと何度でも無月は付き合ってくれるだろうけれど。

「それと話が逸れてしまったが、いずれは俺も日ノ宮へ出向かせてくれ。お前の育った家を、家族を知りたい。もちろん彼らを我が家にも招きたいと考えている」

 気を抜けば慣れ親しんだ呼び名に戻りそうだ。けれど気合を入れて我慢する。無性に彼の名を呼びたい気分だった。

「無月さん。わたくし嬉しいです!」

 長くを生きた妖しが歩み寄ろうとしてくれている。そのことがとても嬉しかった。


 人も妖も、歩み寄ることができたなら――


 それは極めて数奇な運命を辿った日ノ宮桜子の囁かな願いである。

妖しな家族、これにて完結!

やっと、やっと、完結を叫ぶことができました。

これまで大変お待たせして申し訳ございませんでした。そんな中でもお付き合いくださいました皆様には感謝しかございません。

本日の更新をもちまして私がこの物語にて書きたいと願った内容を全て書き終えました。それ故の最終話です。今日までお付き合いくださいました皆様には心から感謝を申し上げます。

完結――とはいえ桜子にも無月にも長い長い時間がありますので、これからも様々な出来事が起こるはず。

でも大丈夫。たとえどんな困難が降りかかろうと結末はハッピーエンドに、桜子は乗り越えていくと思います!


ここまで見守って下さいまして、本当にありがとうございました。

閲覧、お気に入り、評価、何よりの励みとなっておりました。皆様のおかげで書き続けることができた作品です。数ある作品の中から閲覧くださいまして、ありがとうございました。心からの感謝を申し上げます!

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