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妖しな家族  作者: 奏白いずも
人間編

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二十一、静かな異変

原文を読んで、なんか違う!と思いまして。時間がかかってしまいました……。お待たせして申し訳ないです。ですが、少しでも良いものをお届けできればと思いまして!

 一日かけて療養した桜子は、翌日から学校に通えるようになった。突然の欠席も、病弱設定のおかげで聡子以外には不審も抱かれない。

 聡子にだけは本当のことを話した。煙の方角から実家が燃えているかもしれない不安に駆られ、様子を見に向かったこと。家族全員が無事だったのは聡子のおかげだったことを。

 心配をかけてしまった申し訳なさと、無月に連絡してくれた感謝から、誠意をもって接したいと思った。

「心配したのよ、無事でよかった!」

 顔を見るなり、そう言って抱きしめられた。友人の対応に戸惑いながらも、桜子は同じように手を回す。そして、ずっと彼女と友達でいたいと願っていた。

「ありがとう」

 何度感謝しても足りない気がして、言葉で告げてからもう一度、心の中でも呟いた。


 朝、心配で迎えに行くと主張して譲らない無月を説き伏せるのに苦労した。コハクや苧環の協力も得て、なんとか説き伏せた桜子は友人と帰路につく権利を得ている。

 重病を患ったわけではないく、病弱というのも他人が勝手に思い込んでいるだけのこと。むしろ桜子は健康そのものである。

 帰路ではそんな桜子の雄姿が話題となっていた。

「いやー、驚いた! 桜子ってば、箸より重い物持てませんて顔しておきながら、平然と薙刀振りまわすんだもの!」

「家の教育方針で習っていたから、多少の心得はあるの」

「でも、怪我もあるのに薙刀振りまわして大丈夫だった?」

「そんなに心配しなくても元気よ。それに、なんだか以前より動きにキレがでたように思うの! 怪我も、もう痛くないし」

 二人一組で実技を行っていたのだか、やけに相手の動きが遅く感じた。それでいて自分の動きは軽やかで、実力が増したのかと嬉しくなった。包帯を巻かれていた足も、庇う必要などないほどに快調だ。

「それならいいけど……。でもあたしが心配するのは自由よね。今日は大人しく帰りなさいよ?」

 反論という退路を与えないよう、聡子が覗きこんできた。その顔が、まるで曇り窓越しのように霞んで見える。

「え――?」

 ほんの一瞬のこととはいえ、歩いていたので足がもつれてしまう。ふらついたが、すぐに態勢を立て直せるほどで助かった。

「桜子、大丈夫?」

 慌てて目を擦ると、もう視界は晴れている。

 この後街に繰り出そうと話していたのだが、予定は諦めて大人しくしておこうと思う。つい先日、盛大な心配を与えてしまった友人から釘を刺されては反論しにくい。

「心配かけてごめんね。大人しく帰るから大丈夫よ、また明日!」

 別れの挨拶をして、馴染み始めた道を進んだ。


 聡子と別れ商店街を抜けていると、視界の隅で黒い物が動いたように思えた。何がとは判別しきれなかったが、また目を擦ってみる。特に異変は感じられず、猫かもしれないとそれ気に止めることはなかったが――


 夕時となれば、通学路の商店街は買い物真っ最中の主婦たちで賑わっていた。

 八百屋に魚屋が、こぞって競い合っている。

「こっちの野菜は美味いよー!」

「いやいや、こっちの魚の方が美味いよー!」

 それに反応した女性たちは品定めに余念がなく、店先で食材を眺める目は血走っている。

 そんな騒ぎを横目に、こうものんびり外を歩けることが感慨深かった。

(これが散歩、でも下校中だから違う?)

 ただの帰宅だと考え直したが、どちらにしても弾むような気持ちが抑えられない。もっといろんな場所を見てみたい。散歩にだって挑戦してみたいと望んでしまう。

 そんな明るい気分に影が差したのは唐突だ――

『美味そうだ』

 最初は野菜や魚、食材に対する発言かと思った。けれど、どうしても耳にこびり付いて離れず、気になって背後を振り返ってみる。通行人たちは急に立ち止まった桜子に目もくれず、買い物に夢中になっていた。

 話しかけられたわけでもないようで、気のせいかと踵を返したのだが……。

『ああ、食べてしまいたいね』

 まただ。桜子は辺りを見回すが、やはりそれらしい姿は確認できなかった。

「誰?」

 怖くなって問い掛ける。姿は見えないのに、声だけがはっきり聞こえるなんて不気味でしかない。

(見られているの?)

 名前を呼ばれているわけでもないのに、自分に対して言われているような感覚だった。

 いつまでも道の真ん中に立っていると逆に注目を集めてしまい、視線の出所が掴めない。落ち着くためにも、いったん隅まで駆けていった。

『本当、美味しそう』

 一人のものではない。少なくとも聞こえた声は三種類で、男のようなもの、高い女のようなもの、少しかすれた声。

 辺りは人の声に溢れているのに、それだけは違っていた。人とは相いれない何かが、うるさい。

(止めて――うるさい、うるさい……)

 耳を塞いでも消えず、桜子はその場に蹲った。

『食べたい』

 もう耐え切れない、我慢の限界だった。

「うるさい!」

「す、すみませーん!」

「え? コ、コハクちゃん!?」

 背後で涙目のコハクが震えている。片手には大根の入った籠を持って、もう片方の手はやり場を失くして固まっていた。その籠を置くと、勢いで何度も頭を下げられる。

「僕、うるさかったですよね……。何度も桜子様って、しつこかったですもんね!」

「ち、違うのよ! え、でも……あなただけ?」

 的を得ない質問に戸惑いながらもコハクは頷いた。

「はい、僕だけですよ。どうかしましたか? 僕、今すぐ視界から消えたほうが良いですか? いいですよね……。うるさいですもんね……」

 目に見えて落ち込む様子があまりに不憫で申し訳ない。

「本当に、そんなつもりではなくて! わたくしこそ、ごめんなさい。なんだか少し――鳥、鳥の声がうるさくて!」

「鳥、ですか?」

 コハクはきょろきょろと周囲を見回す。幸いなことに向かいの電線では鳥たちが羽を休めていた。

「あ、ほ、ほらあそこに!」

 ありがとう鳥さんたち。そして無実の罪を着せてごめんなさい。決してあなた方に非はありません。桜子は感謝と謝罪の眼差しを投げかける。

「コハクちゃんは、おつかい?」

 籠からはみ出ている立派な大根からの推測に、コハクは胸を張って自慢する。そんな子どもっぽい仕草に、震えていた心が和まされた。

「そうなんですよ! いきなり大根がないーって、この世の終りみたいに取り乱した苧環に頼まれました!」

 苧環が取り乱す……。ちょっと気になる描写だが、構っていられるほど余裕はなかった。早くこの不気味な場所から立ち去りたいと急いてしまう。

「もう、帰りなの?」

「はい! 夕食が時間通りに始められるかは、僕の働きにかかっているって、苧環が言ってました! 早く帰ってあげないと、また乱心しちゃいますもんね」

「わたくし、一緒に帰って構わない?」

「もちろんです。というか、ここから別々に帰るつもりだったら、僕泣いちゃいますよ? 邪魔ですか? さびしすぎますって!」

「良かった……。早く、帰りましょう」

 コハクを促して足早に歩く。時折きょろきょろとあたりを見回したけれど、やはりおかしな点はない。コハクは不思議がっていたけれど、単なる物珍しさだと思われたようだ。

 もう、あの不気味な声が聞こえることはなかった。

 目も擦ってみたけれど、おかしなことは何もない。


 不気味な体験から数日、同じような恐怖を感じることはなかった。健康体とはいえ、疲れがたまっていただけなのかもしれないと結論付けて、変わらぬ生活を送っている。

 そう、変わらぬ宵闇家での生活を――

 『変わらない』と表現出来ることこそ、自分が変わってしまった証拠だ。

(わたくし、これでいいの? このままずっと、あの人と暮らして学校に通って……)

 先のことを考えれば考えるほどに、必ず引っかかりが生まれる。これでいいのかと問い掛ける、そんな自分がいた。だからいつまでもたっても素直になれないのだ。

読んでくださってありがとうございます。

ここから先の物語は、この物語で書きたかった要素がいっぱい詰まっているんです。もし読んでくださる方がいるのなら、早くお届けしたい気持ちでいっぱいです。つまり……私頑張ります!

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