第6夜 過去の傷跡
翌朝。
相馬モータース地下工房。
蓮は椅子に座っていた。
腕には包帯が巻かれている。
昨夜の戦いで負った傷だった。
相馬は無言で手当てを続けている。
しばらくして蓮が口を開いた。
「なあ。」
「レイヴンって何なんだ。」
相馬は包帯を引っ張りながら答える。
「勘違いするな。」
相馬が静かに言った。
「お前が倒したのはレイヴンの一般隊員だ。」
蓮が顔を上げる。
「……一般隊員?」
「ああ。」
相馬は包帯を巻きながら続けた。
「レイヴンは一人じゃない。」
「複数いる。」
「そして、その頂点に隊長がいる。」
蓮は眉をひそめた。
「隊長か。」
相馬の手が止まる。
「そいつだけは別格だ。」
地下工房に静寂が落ちる。
「俺が知る限り、レイヴンで一番危険な男だ。」
蓮は少し口元を上げた。
「へぇ。」
相馬が睨む。
「面白そうとか思うなよ。」
「少しな。」
「馬鹿か。」
相馬はため息をついた。
「お前が今戦って勝てる相手じゃない。」
蓮は拳を握る。
「だったら、もっと強くなるだけだ。」
相馬は呆れたように首を振った。
「そこは危機感を持て。」
「無理だな。」
「相手が強いと聞くと燃える性格なんだ。」
相馬は深いため息をついた。
「恒一に似てきたな……。」
蓮は少し笑った。
「親父もそんな感じだったのか?」
相馬は少し黙る。
そして工具を机に置いた。
「昔な。」
「俺にも仲間がいた。」
蓮の表情が変わる。
相馬は遠くを見るような目をした。
「皆、正義感だけは強かった。」
「危険だと分かっていても止まらなかった。」
地下工房に静かな声が響く。
「俺たちはブランを追った。」
「そして失敗した。」
蓮は黙って聞いている。
「守れなかった奴がいる。」
相馬はそれ以上語らなかった。
だが、それだけで十分だった。
蓮にも分かった。
今でも消えない傷なのだと。
「だから言ったんだ。」
「関わるなって。」
相馬が言う。
蓮は少し考えた。
そして首を横に振る。
「無理だな。」
相馬が呆れた顔をする。
「またそれか。」
「だって放っておけないだろ。」
「助けられる人がいるなら助ける。」
「それだけだ。」
相馬は小さく笑った。
「本当に似てるな。」
その日の夜。
ノワールナイトはビルの屋上に立っていた。
街の灯りが広がる。
この街のどこかで。
今も誰かが苦しんでいる。
薬物。
誘拐。
暴力。
そしてその裏にいる白い鳥。
「ブラン……。」
ノワールナイトは静かに呟く。
第5話で拾った白いカードを取り出す。
白い鳥の紋章。
【BLANC】
まだ分からないことばかりだ。
だが一つだけ確かなことがある。
この組織は実在する。
そして今も街のどこかで動いている。
ノワールナイトはカードを握り締めた。
「必ず止める。」
夜風が吹く。
黒いコートが揺れる。
次の瞬間。
シュッ!
ワイヤーガジェットが放たれる。
ノワールナイトの身体が夜空へ飛び出した。
黒い騎士は再び街へ消えていく。
白い鳥を追って。




