第1話 給料全部スパチャして何が悪い
「推しに給料全部貢いで何が悪いんじゃボケ!」
いや、悪いに決まっている。
でも、悪くないかもしれない。
わたしの名前は洗井湯風音。
風呂掃除の女神だ。
世の中で風呂掃除用洗剤が売れれば売れるほどわたしへの信仰が高まり、給料が増える。
もっと女神として有名になれば、各地に神殿も建て放題。観光地化してお賽銭もガッポガッポって寸法よ。
……残念ながら、わたしのような木っ端女神では、ちまちまとささやかな感謝を集めるくらいが関の山。
そんななけなしの給料を全て推し活に使う。
食事も睡眠も排泄もいらない女神にだけ許された、世の定命どもには出来ぬ所業だ。
「先輩、また給料全部スパチャに使ったんですか? 今は資産運用の時代ですよ」
わたしへ文句をつけるのは、後輩である積田分三。
最近流行りの積立投資に一枚噛んだことで、一躍若手のトップに躍り出た女神だ。
「どうなるか分からない将来よりも、今を全力で生きる。これが推し活よ」
「未来の不安に備えるためにこそ分散投資をするんじゃないですか」
「はいはい。そろそろ推しの配信の時間だから話しかけないで」
「目の前の後輩より大事なんですかー?」
半目の後輩をよそに、わたしは手元の携帯端末へ目を落とす。
『はいどーも。みんなのいいねとスパチャをひとり占め! 銭ヶ鋤あつめです!』
元気な挨拶とともに、笑顔の美少女が画面上に現れる。
いいね(信仰)とスパチャ(お賽銭)こそが女神を測る指標。
司る権能によりコツコツと下積みから成り上がるのは昔の話。
直接それらを集める彼女こそ、現代女神の最先端。
「キャー! 今日も可愛いよ、あつめちゃん!」
裏事情を分かっていようが、可愛いものは正義。わたしは給料が許す限り、推しへスパチャを送り続けた。




