93話 引けぬプライド・中編
「澪、迅、そろそろムービー終わるぞ!」
凛くんの言葉に、迅との睨み合いを止めて銃を構えなおす。
デカゾンビの身体は1回りほど小さくなり、角の生えた悪魔的な外見へと変貌していた。
さらに土気色だった身体がメタリックな青銅色へと変わり……天へ向かって大きく吠える!
立体音響システムのせいで臨場感バッチリだが、魔咆哮に比べればどうということはない。
咆哮が終わると同時にプレイ再開!
さっきとは打って変わり、デカゾンビは小さくなった身体でトリッキーに動き回り、そして――。
「おい! ダメージが入んねーんだけど!」
「本当だ! 命中してるのにダメージ入ってないぞ!?」
「色だよ。円形に色が変わってる個所がある。多分、あそこに当てないとダメージが入らないんだ」
ダメージが入らないと焦る迅と凛くんに、蒼牙くんが落ち着いた声で告げる。
デカゾンビを見ると、確かに円形に少し明るくなっている怪しい個所がある。
あるのだが……それがデカゾンビの体表をヌルヌルと移動している!?
「マジかよ、こんなにチョコチョコ動き回るバケモノの、さらに身体中を移動してる弱点狙うとか、難易度高すぎじゃねーか!」
デカゾンビの頭部へ的確に射撃を当て続けていた迅が怒り混じりの声を上げる。
確かにこれはVRゲームとして疑問を覚えるレベルの難易度だ。
こういうタイプの敵は、大抵ギミック的なもので倒すのがセオリーなんだが……いや、まて、これはチャンスでは?
連射で当てるのは迅に敵わないが、狙撃なら勝ち目があるかもしれない……?
わたしは手元のアサルトライフルをフルオートからセミオートへ切り替え、立射で照準する。
リアガード(後衛)で一番後ろに居たわたしは、迅よりターゲットとの距離がある。
その分、広い視野でターゲットの動きをとらえることができる。
しばらくデカゾンビのモーションを観察する――結論。
身体が小さくなったデカゾンビのトリッキーな動きだけでも厄介なのに、さらに移動する弱点なんか普通に狙っても絶対当たらない。
だが、手甲鉤のような長く伸びた爪を振り上げる一瞬だけ、身体が止まる。
もちろん弱点の移動が止まるわけじゃないが、身体の動きさえ止まれば……。
必死で移動する弱点へ向けてアサルトライフルで連射を続けるポイントマン(前衛)の迅へ向け、デカゾンビが長く伸びた爪を振り上げ――。
ダン!
発砲! 弱点の近くへ着弾するも、外れる。
よく狙え!
身体が止まれば、あとは弱点の動きだけだ……。
わたしならできる……そんな確信がある。
2400m先の小舟の上で揺れる、豆粒ほどのターゲットの弱点をぶち抜くことに比べれば、ほんの数m先、目の前といっていい距離で少々動く程度のターゲットなど何でもない……。
凛くんと蒼牙くんのショットガン、そして迅の必死の連射による『まぐれ当たり』で、わずかにダメージが通ったようだが、倒すには程遠いカスダメージ。
視界を大きくとるように意識し、デカゾンビのトリッキーな動き全体をボンヤリと見つめながら、意識は弱点のみに集中……再びデカゾンビが一番前に居る迅への攻撃態勢へと入る。
意識を集中させる。深く、深く、深く……。
デカゾンビがゆっくりと腕を振り上げるのが見え――照準、発砲!
ダン! 命中!
ダメージが入る。カスダメージだが……この先へ行けるという確信!
攻撃モーションがキャンセルされ、トリッキーな動きに戻ったデカゾンビの弱点へと、再び意識を集中。
さらに深く、深く、深く、深く、深く、深く沈めていく。
底のない水底へ潜っていくように、意識を深く沈めていく……次第に周囲の音が遠ざかり、音のない世界で弱点の円が視界いっぱいへと大きくなっていく。
世界からゆっくりと色が消えていく……さらに深く、深く沈む。
世界から動きが薄れ、目の前にはコマ送りのようにゆっくりとした巨大な弱点の円のみが……ああ、見えた!
ダン! 命中!
ダン! 命中!
ダン! 命中!
デカゾンビはトリッキーに身体を動かし続けるが、もはや何の意味もない。
目の前に見える大きな弱点の円の中心を、ただ連続で撃ち続ける――。
数発命中したところで、デカゾンビが身体を強張らせ立ち尽くし、弱点の円が大きく広がって動かなくなる!
「弱点に一定のダメージを与えると、動きが止まって大ダメージを狙えるようになるんだ! みんな、撃ちまくって!」
蒼牙くんの叫びで世界に色と音と動きが蘇る。
凛くんや迅が猛烈に射撃を始め、わたしも急いでフルオートモードへ切り替え、動きの止まったデカゾンビの円へ撃ちまくる!
ダダダダダダダダダダダダダダダン!
ガァン! ガァン! ガァン!
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダン!
ガァン! ガァン! ガァン! ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!
デカゾンビは3秒ほど硬直した後、再び動き始める。
3秒の間に、わたしのアサルトライフル1丁だけで20発以上を撃ち込み、大ダメージを与えた。
もう1回デカゾンビの動きを止められれば倒せるだろう。
「ゾンビの攻撃を誘発して、攻撃モーションに入ったらショットガンで弱点を撃って攻撃モーションをキャンセルさせるんだ。それを繰り返して、さっきみたいに完全に動きが止まったら大ダメージを与えるっていうギミックだよ」
「よし! 迅と澪は前衛で牽制射撃でコイツの攻撃を誘発、俺と蒼牙はヤツが攻撃モーションに入ったら弱点を狙う!」
蒼牙くんが攻略法を開示すると、すぐに凛くんが役割を指示する。
なるほど!
ショットガンなら、デカゾンビが動きを止めた時なら、撃てば弱点に当てられるだろうし、弱点に当たれば攻撃モーションはキャンセルされる。
それを繰り返して一定のダメージを与えれば、デカゾンビの動きを完全に止めて大ダメージを与えられる……というギミックなのね!
前回は全員同じ装備だったのに、今回は最初の装備(アサルトライフル×2 ショットガン×2)が決まっていたのは、このギミック用だったようだ。
ネタが分かれば、大したことはない。
わたしと迅でデカゾンビを挑発して攻撃を誘い、凛くんと蒼牙くんがショットガンで弱点を撃てばいい――ただそれだけの簡単なお仕事なのだが……。
「こんなところで、負けるわけにはいかねーんだよぉぉぉぉ!」
迅がどっかのマンガキャラのようなセリフを叫びながら、トリッキーな動きに戻ったデカゾンビの弱点を狙撃し始める。
さっきのわたしの射撃を見て、『俺だってできる』アピールなのだろう。
当たってないけどな!
凛くんの指示に従って前衛へ上がり、牽制射撃に切り替えるのが一番いいのだろうが――ここで逃げたら、漢が廃るというものよ!
射撃実験の時に感じた、あの感覚……さっきの集中状態。
あれは、一流アスリート達の言う『ゾーン(極度の超集中状態)』というやつだろう。
もう2度経験している、わたしにはできる――そんな確信がある。
さっきと同じように広く視界を取り、意識は弱点の円へ……わたしは再び意識を集中させる。深く、深く、より深く……。
『ゾーン』への入口はココだ。
わたしは底のない暗い水の底へ意識を沈めていく。深く、深く、深く、深く、深く……。
世界から音と色が薄れていく。
だが、その先にあるはずなのに、辿りつけない。
すぐそこにあると分かっているのに、何かが邪魔をしているかのように、『ゾーン』へ到達できないのだ。
いや。
わたしは『ゾーン』へ至る道を知っている。
ならば――押し通る!
意識を集中させる。
今度は『フォーサイト』を使う時のように、わたしの意思で! 強制的に!
「見える!」
音と色が消えた世界。
目の前にはストップモーションのように見えるターゲット……照準、発砲!
ダン! 命中!
照準、発砲。
機械的に同じ動作を繰り返していく。
ダン! 命中!
ダン! 命中!
ダン! 命中!
ダン! 命中!
「舐めるなぁーーーーーーっ!」
迅の叫び声が聞こえ――――突然、周囲が真っ暗になる!?
「な、なにっ!?」
焦ってVRゴーグルを外すと、部屋の中も真っ暗である。
停電? システムダウン?
「あーあ……」
「まったく……」
訳が分からず混乱していると、暗闇の中から凛くんと蒼牙くんの呟きが聞こえる。
真っ暗闇の中で動くと危ないな……などと、ちょっとカーミラ先輩の眼帯訓練のことを思い出していたら、パッと電気が点いた!
だがVRゴーグルの方は復旧せず、どうしようかと思っているとアナウンスが入る。
『お客様にお知らせいたします。システム不調は解消いたしましたが、安全確認のため施設内の全設備において点検を実施いたします。お手数ですが、受付カウンターまでお越しくださいますよう、お願い申し上げます――』
不完全燃焼で納得いかないが、新マップだという話だし、システムトラブルに文句を言っても直るわけでもない。
4人で顔を見合わせ、仕方なく受付へと向かうのであった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
龍鳳学園、複合アミューズメント校舎、『マックリアバーガー』店内――。
「ほれ、食え!」
「………………」
迅がトレーの上に山盛りにされたバーガー10個を、不機嫌そうに見つめている。
あの後、受付に行ったのだが、プレイを続けることはできなかった。
再プレイも点検が終わるまでできないということで、プレイは無料となり、次回用の無料チケットとキャラクターグッズのお土産を貰って帰ることに……。
わたしと迅の射撃勝負だが、このまま引き分けというのも納得がいかないので、システムダウンするまでのプレイ内容のログで白黒つけることにした結果――。
死亡数は、迅0回、凛くん0回、蒼牙くん0回、わたし0回。
受付のお姉さんがログを二度見するレベルの驚異的なモノ!
そして、スコアは……。
迅が1位、わたしが2位、凛くんが3位で、蒼牙くんが4位。
後半は狙撃で迅より多く当てたけど、連射をほぼ全弾当てていた迅にスコアで負けるのは、まあ、しょうがないだろう。
だが!
狙撃では圧勝だった、これは動かぬ現実である!
つまり!
試合に負けて勝負に勝ったのである!
正直、地獄の殺戮者は連射なんかできないので、狙撃能力で勝っていれば、わたしとしては十分だ。
バーガーの10個くらい、気前よく奢ってあげるのである!
リアル中2の迅と同レベルの射撃能力って魔法少女としてマズくない? と最初は思ったのだが、良く考えたら変身体なので、こんなもんだろう。
「受け取れねーよ! 後半で澪に逆転されてた可能性があるのは分かってるつーの! 今回はノーカンだ、ノーカン!」
迅がぶっちょう面で、バーガー入りのトレーを突き返してくる。
おそらく迅としては射撃ゲームに相当自信があったのだろう。サバゲー界の有名プレイヤーと言われても納得するレベルのスゴ腕だったし。
それが、ちっちゃいとバカにしていた中1のわたしと僅差……続けていれば逆転の可能性もあったスコアとなれば、自信喪失するのも分からないではない。
実は迅がスコアで煽ってきたら、後半の逆転の可能性を盾に煽り返してやろうと、大人気ない作戦を練っていたのだが、無駄になってしまった……。
迅、意外にいいヤツである!
「でも、もう買っちゃったし、わたしバーガー10個も食べられないよ」
10個全部、迅に食わせてやろうと思って、わざと持ち帰り指定をしなかったので、食べて行くしかない状況である。
うーん、しょうがない、みんなで食べるか。
わたし以外は、ポテトとジュースを注文しただけ。
中2男子が3人も居れば、バーガー10個くらい、すぐに食い尽くせるだろ。
「じゃあ、迅からの差し入れってことにして、みんなで食べよ! 食べられるでしょ?」
「食べられるけど、何か2人に悪いんじゃないか?」
「そうだね、なんか申し訳ない感じがする」
「………………」
うむ、凛くんも蒼牙くんも非常に常識的な回答で、長く友人付き合いできそう!
迅は……悪いヤツではないんだけど、うーん、『クソ生意気な弟』?
ああ、いや、凛くんと蒼牙くんが大人なだけで、中2だとこんなもんか?
「迅もいいでしょ? みんなで食べようよ!」
「澪がいいんなら、俺は別に……」
スネている迅に声を掛けて了承させてから、バーガーを食べ始める。
わたしが食べ始めると、凛くんと蒼牙くんが『いただきます』と食べ始め……。
「はい! 一緒に食べよ!」
バーガーを1個、まだ拗ねている迅に渡してやる。
「お、おう……」
と、そんなこんなで4人仲良くバーガーを食べ始めるのであった――。
引けぬプライド・後編 へ続く! ※来週の8/31更新予定!
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・神代 凛
男子が憧れる精悍なハンサム。
特殊クラスの中学2年生で深雪と輝夜、迅と蒼牙の友人。
千年以上続く名家、神代家のご令息。
・霧守 蒼牙
黒髪、センターパート、中性的アイドル顔。
特殊クラスの中学2年生、転入生で凛と迅の友人
人当たりが良く、空気が読める切れ者。
・高上 迅
茶髪、くせ毛、糸目、チャラそう。
特殊クラスの中学2年生、転入生で凛と蒼牙の友人
思ったことをすぐ口に出す
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