【三百十八 金炉精、金角となり玉面公主に立ち向かう】
目の前で繰り広げられる激しい争いに、狐阿七大王の腕に抱き抱えられた金炉精、銀炉精は涙目になっていた。
九麻夫人も玉面公主のどちらも傷だらけで、このままでは二人とも命が危ういのは一目瞭然だ。
「母さまもおばちゃ……玉面さまも、もう戦うのはやめて!ねえ狐阿七叔父さん、どうして二人とも戦うのをやめないの?!」
「金炉、銀炉……」
狐阿七大王にはわかっていた。
この戦いはどちらかの命が消えるまで終わらないことを。
この戦いはいわば九尾同士の縄張り争いだからだ。
「ねえ、狐阿七叔父さん……!」
縋りつきながら尋ねてくる二人の問いかけに、狐阿七大王は言葉が見つからず、答えられなかった。
瘴気に侵されているため、玉面公主の炎は九麻夫人の持つ青白い狐火よりも禍々しく毒々しい。
「妹妹!一体どうしたというの?!牛魔王のところへ行くと置き手紙を残して消えたと思ったら、こんなことになるなんて!」
その毒々しい炎を纏った拳を受け止め、九麻夫人は叫んだ。
「余裕ぶるあなたのそう言うところも前からずっと我慢ならなかった!ともに狐狸精の頂点に立とうと言ったのに、主導権を握るのはいつもあなただったのも!!」
玉面公主の赤黒い炎をまとった拳が九麻夫人のみぞおち目がけて振り下ろされる。
「っく!」
九麻夫人は平手でそれをいなして身を躱した。
「九麻あぁあああっ!」
玉面公主は振り下ろした拳をサッと懐に入れ、扇を取り出すと振り上げようとした。
彼女が取り出した扇は炎を出す宝貝だ。
「母さま、あぶない!」
「おばちゃん、やめて!!」
「こら、二人とも!」
金炉精と銀炉精は狐阿七大王の腕をすり抜け、争う二人の間へと駆け出した。
「鬼神変化!」
「疾!」
金炉精と銀炉精は同時に唱えてそれぞれ金角と銀角に変化した。
そして金角は玉面公主の腕を掴み、銀角は九麻夫人を抱えて距離をとった。
鬼神となった金角と玉面公主の体格差はおおきく、玉面公主が両手に纏っている狐火の熱を物ともしない。
「離せ!」
「おばちゃん、いいかげんにしてよ!」
「おばちゃんじゃないっていっておろうが!!」
金角の呼びかけに絶叫し、玉面公主は金角の顔面に蹴りを入れた。
「金角!」
その様子を見た銀角が悲鳴を上げた。
「わぁぁっ!」
金角は驚き思わず玉面公主を掴んでいた手を離してしまった。
「まずは貴様から片付けてやる!」
「もーっ、びっくりした!」
金角には玉面公主との体格差のおかげで大きな痛みなどはなかったが、金角が驚きに目をこすっている間に玉面公主は素早く体勢を変え、両手に狐火を纏わせ飛びかかろうと身をかがめた。
「させるか!」
そこへ間一髪到着した沙悟浄が玉面公主の脳天めがけて降妖宝杖を振り下ろした。
「金炉精大丈夫か?さ、金丹を食べなさい」
太上老君により、金角の口の中に金丹が放り込まれる。
玉面公主に蹴られて赤くなっていた場所がみるみる回復していく。
「太上老君さま、ありがとうございます」
「ここは沙悟浄殿にまかせ、下がりなさい。さ、銀炉たちの元へ行くがいい」
金角から元の姿に戻った金炉精は師の言いつけを守り銀炉精のところへ駆けて行った。
「疾、火焔盾!」
玉面公主は両手を交差し狐火を大きくさせ盾のようにして降妖宝杖を受け止めるが、武器の衝撃は凄まじく、玉面公主の足元の地面はえぐれてしまっている。
「おのれ、九尾の戦いの邪魔をするなど!!」
「正当な戦いではあるまい。そんなに瘴気に塗れた狐火など使いおって」
牙を向き激昂する玉面公主に呆れたように太上老君が言った。




